第4章 過去を見つめる森
◆1◆ トラブルは突然に
俺達がここにきて二週間ほど経った。
ガラクタでできたモンスターと戦ったり、ゴリラ軍団と対立したり、いい人達に助けられたりといろんなことが起きたもんだ。
なかなかに濃い毎日を送っていたが、おかげでここ最近じゃあ得られなかったやりがいというものを俺は感じていた。今じゃあすっかり馴染んだゴリラのグリーフやまだまだ生意気だけど頼りになるカロル、毎回調査についてきてくれる亜季と賑やかな仲間ができたものである。
とはいえ、まだ二週間。俺達が拠点にしている場所は相変わらずボロいテントが並んでいる。だが、グリーフが頑張ってくれたおかげで待望の拠点を守る壁が出来上がった。
といっても、その壁はガラクタを分解し、いい感じに組み立てたものだけどな。でもあるとないとでは全然違うため、前以上に安心して過ごすことができる。
そんな感じで拠点はちょっとずつ発展していた。今だとみんなの家を作るためにグリーフは基礎工事をしているところで、それと並行しながら設計図を作っていると言っていた。
ゴリラの体力は人間以上だと思うが、あまり働きすぎて倒れないように念を押していこうと考えたのは言うまでもない。でもグリーフ様々なのは事実なので、やんわりと言うつもりだ。
そんなこんなで俺は次の方針をどうするか考えていた。拠点を中心に調査を進めていくつもりだが、俺と亜季だけじゃあ手が足りない。だから拠点に住む人で調査隊を作ろうと考え、声をかけた。
すると思った以上に調査隊に志願してくれた人達が現れてくれたんだ。俺は喜んでその人達を調査隊のメンバーにし、まずは拠点の近くにある森と川を見てきてもらうように頼んだ。
難しいことは考えず、やばくなったらすぐに逃げるように、発見したことをありのまま教えてくれたらいいと言い、それぞれの調査場所へ向かってもらった。
詳しい調査はその報告を受けてから俺と亜季がしようという方針にしたが、一体どんな発見をしてくれるのかという楽しみでもあり、みんな無事に返ってくるのかという心配もあってヤキモキを抱くもんだ。
ああ、早く帰ってこないかな。みんなの無事を確認したいよ。
それに俺も調査に行きたい。早くみんな帰ってこないかなー。
『お、カイト。ここにいたか』
そんなことを考えているとグリーフが俺のテントに入ってきた。なんか珍しいな、と思いつつグリーフに俺は「よぉ、バナナ足りてるか?」と声をかける。
するとグリーフは笑いながらこう言葉を返してくれた。
『適当な果物でいいさ。本当に困ったらリリエルさんのところへ行くしな』
それもそうか。まあ、食糧問題はまだ解消しきっていないからどうにかしたいところだ。
拠点の発展は生活の安定にも繋がってくる。グリーフには頑張ってもらいたいが無茶をしてもらいたくないというところもあって、そのバランスが難しいものだ。
「そりゃそうか。じゃあ何しにここに来たんだ?」
『頼みたいことがあってな。森に調査隊を派遣したよな?』
「したよ。それがどうしたんだ?」
『帰ってきて報告を受けたら、木の状態を見てほしいんだ。ガラクタだけだと住居を作るのには限界があってな。それに後々のことを考えれば資材の安定供給は必要だと思うんだ』
「そうだな。わかった、じゃあ俺が調査に行ったら木の状態と種類を確認してみるよ」
『ありがとよ、助かる!』
俺はテーブルの上に置いたリンゴを投げ渡し、受け取ったグリーフは機嫌よく鼻歌を歌いながらテントの外へ出ていく。結構な悩みだったんだろう。早く解消してやりたいもんだ。
それにしても、資材の安定供給か。確かにそれができたらいろいろと問題が解決する。とはいえ、物資を発見したからといってそれが解消できる訳じゃないな。
安定供給に必要なものは潤沢な物資の発見、ルート確保、あとは輸送手段の確立だな。発見はできたとしてもあと二つが上手くできなきゃ安定供給には繋がらない。
さすがにガラクタから自動車を作るとかできないし、どうしたもんかな。
ブゥゥゥ――
ブゥゥゥ――
お、なんだ? スマホが唸っている。
俺はスマホ画面に目をやると、そこには俺の恩人である部長の名前が表示されていた。俺は慌てて通話ボタンを押し、耳にスピーカーを当てる。すると懐かしい声が飛び込んできた。
『甲斐! よかった、無事だったんだな』
「無事ですよ。だからこうして通話に出たじゃないですか」
『ハハハ、それもそうだな。にしても、死んだかと思ったぞ』
「死んだって、そんな大げさな――」
『お前が管理していたダンジョンが崩壊したんだ。大げさになるさ』
思いもしない言葉に俺は驚く。
確かにあの時、ダンジョンは崩れ落ちた。まさか、と考えていたけどそのまさかが起きていたとは。崩壊したってことはあの塔が崩れ落ちたってことなのか?
「塔は崩れてたんですか!?」
『安心しろ、周辺には被害は出ていない。崩れたような痕跡はあったが、存在しなかったかのようにダンジョンが消えていた。ただ何があったのか全くわからなくなった状態になっていたよ』
「そう、なんですか」
『詳しい話を聞きたいところだが、まずお前が生きていてよかった。それだけが喜ばしいよ』
何もかも消えていたらそりゃ死んだって思われるか。
でもまあ、部長が安心してくれたからいいかな。生きててよかったよ。
「俺は死にませんよ。結構しぶとい男なんでね」
『お前のしぶとさはすごいからな。昔は俺によく噛み付いてくれたもんだ』
「それをいうなら生意気さでしょ」
『ハハハ、確かにな。あ、一つ聞きたいところがあるんだがいいか?』
「なんでしょう?」
『次期社長、といえばいいか。あいつのことを知らないか?』
「あー、あいつですか。ちょっといろんな事情を省きましたが、ダンジョンの最深部にいましたよ」
『……そうか。わかった、ありがとう。いい話を聞けたよ』
ん? なんかマズイことでも言ったかな?
まあいっか。たぶん俺には関係ないことだと思うし。
「あ、そうだ。今、俺大きい悩みを持っているんですよ」
『なんだ? 話によっては会長にかけ合ってみるが』
「実はですね――」
カクカクシカジカ、と俺は様々な事情と現状、それを踏まえての資材の安定供給について必要だと思うものについて話した。部長はその話をしっかり聞き、そのうえでこう意見をしてくれる。
『ふむ、なるほど。運搬するにはトラックなどがいいだろうな。だが、運転技術を持つ人材はいるのか?』
「わかりません。そうですね、一度聞いてみないとってところです」
『ならちょうどいいものがある。まだ試作段階の技術だが、使ってみるか?』
「いいんですか?」
『ああ。サポートもするが、ちゃんと試用データはもらうぞ。それでもいいなら提供するが』
「いいに決まっているじゃないですか! お願いします!」
どんな技術なのかわからないけど、輸送手段の確立ができるなら問題ない。ということで俺は部長の話に乗った。
こうして俺は部長にお礼を言い、その新技術が使われた何かを受け入れるための準備をすることになる。一体どんなものが来るのか楽しみだ。
あとは調査隊が戻ってくるのを待つだけ。そう思っていると思いもしない報せが飛び込んできた。
「界人さん! 大変です!」
「なんだ亜季? そんなに慌ててどうしたんだよ?」
「森に行ってた調査隊が帰ってきました。来たんですが、ケガをしていて――」
「なんだと!!?」
俺は慌ててテントを飛び出た。後ろから亜季が「出入り口にいます!」と叫んでくれたのでそこへ一直線に向かう。
一体何があったのか、俺の指示に間違いがあったのか。
そんなことを考えながらそこへ走っていく。そして、俺は見た。
「う、うぅっ」「くそ、くそっ」「うわぁぁぁぁぁっっっ」
森に行った調査隊は全部で八人。だが、帰ってきたのは三人だけ。
本当に一体何があったのか。俺は、息を飲み込みながら泣いている男性に声をかけた。
「大丈夫か?」
「か、界人さん……俺、俺っ」
「よく頑張った、頑張ったよ」
「俺、俺、仲間を、仲間を……」
「いいから休め。疲れてるだろ?」
「う、うぅ……俺、逃げることしか。白いゴリラが、襲ってきて、それしか……」
白いゴリラ?
まさか、と思いつつ俺は彼の身体を抱きしめた。すると安心したのか、男性は大声で無様に泣き始める。
一体何が起きたのか。全くわからないまま、彼らが落ち着くのを待つことになったのだった。
左遷社畜の俺、スキル〈星猫アプリ〉で崩壊ダンジョンの脱出目指し攻略中 小日向ななつ @sasanoha7730
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