◆3◆ 俺vs鹿頭 ラウンド1
ヒュンヒュンと、ガラクタモンスター〈鹿頭〉が飛び回っていた。それはまるで戦闘機のような機動力であり、目で捉えるのがとても大変である。
そんなガラクタモンスターが飛び回る中、俺はどう倒そうかと考えていた。
攻撃しようにも自由に飛び回る相手だ。まず攻撃を当てることすら難しい。
かといってこのまま待っていても仕方がない。騒ぎを聞きつけて違う見張りゴリラが来そうだしな。
「界人さん、来ますよ!」
鳥籠の中にいる亜季が叫んだ。俺はその声に反応し、違う鳥籠へ飛び移る。
直後、俺がいた鳥籠へガラクタモンスターは突撃し、大きな音が響き渡った。
反射的に振り返るとそこにあったはずの鳥籠が木っ端微塵になっている。もし直撃を受けたらタダじゃ済まないだろう。
『ガガガガガッッッッッ!!!!!』
鹿頭がすごく興奮しているかのように叫んだ。それはなかなかに気味が悪い。
奇声を上げ、俺を見つけるや否やすぐに飛び込んでくる。俺はまた違う鳥籠へ飛び移り、鹿頭の攻撃を躱す。
爆煙が立ち込める中、ギラリとした目が赤く光る。そしてまた大きな奇声を上げていた。
本格的に気味が悪いな、あいつ。というかなんであんなに興奮しているんだ?
そんなことを考えていると、閉じ込められているバンダナゴリラが叫んだ。
『おい、人間! この檻をどうにかしろ!』
「今それどころじゃない。ちょっと待ってろ」
『どうにかしてくれたら手伝ってやる! だから早くどうにかしろ!』
「そりゃありがたない、な!」
バンダナゴリラと会話しているとまた鹿頭が突撃してきた。
俺は咄嗟に別の鳥籠へ飛ぶ。だが、学習したのか鹿頭は腕になっている掃除機をぶん回してきた。
空中ということもあり、俺はその攻撃を受ける。そのせいで目的にしていた鳥籠とは違うところへ落ちた。
「ってー」
運がいいのか、それとも悪いのか。何はともあれ奈落の底へ落ちなくてよかった。
だけどどうする? 相手はこっちより素早くて自由に飛び回るぞ。攻撃を受けたら一発アウトの可能性だってある。
ニャンコマーケットを使いたいところだがそんな暇すらなさそうだしな。
『ギギギギギィィィィィッッッ!!!!!』
また興奮してやがる。一体何に興奮しているんだよ、あいつは。
ひとまず俺一人じゃあどうしようもない。かといって、鳥籠をどうやって開ける?
見張りゴリラは鍵なんて持ってなかったぞ。
そんなことを考えながら逃げ回っていると、俺は天井付近であるものを見つける。
それはレバーとスイッチだ。
見張りゴリラが鍵を持っていなかったということは、違う方法で解錠できるということかもしれない。つまり、あそこにあるどれかを使えば助け出せるってことだろう。
そうと決まれば試すしかない。
ただ問題は、飛び回る鹿頭をどう対処するかってところか。
下手にあそこへ行けば破壊される可能性がある。かといって現状の俺ではあいつに対処できる能力はない。
とすれば――
俺は鳥籠から鳥籠へ飛び移っていく。鹿頭はしっかり追いかけてきてくれ、いい感じに壁際まで来てくれた。
あとは、上手くいくことを願って攻撃を待つのみ。
『カカカカカカッッッッッ!!!!!』
狙い通り、鹿頭は俺に向かって攻撃してきた。俺はその攻撃をしっかり引き付け、後ろの少し高い位置にある鳥籠へ飛び移る。
すると鹿頭は勢いをつけすぎたのか、そのまま壁へ突っ込んだ。ぶつかった途端、大きな衝撃と音が響き渡り、建物を揺らした。
『ガガガガガッッッッッ!!!』
壁に穴を開けたことなんてお構いなしに鹿頭は俺へと飛び込んでくる。それはすさまじいスピードで、俺の身体の反応が遅れるほどだった。
確実にやられた、と思った瞬間、鹿頭の上に大量のスライムが降り注いだ。
「ぷるぷる」「ぴぎゃ」「ぶるぅー」
スライムが目潰しになったのか、鹿頭の軌道がずれる。そして完全に見当違いの鳥籠へ突っ込んだ。
その衝撃で覆い被さっていたスライムが飛び散るが、なぜかみんな翼を広げ逃げるように離れていく。
助かった、と感じていると待っていた少年の声が俺の耳に入ってきた。
「アニキ、来ましたよ!」
待機してくれていたカロルが、俺のサインに気づいて来てくれた。よくやった、と褒めてやりたいところだがまだ安心できる状況じゃない。
その証拠に鹿頭はまた興奮して叫んでいる。
「うわっ、なんだあれ!」
「カロル、そんなのいいからスイッチを押せ!」
「スイッチ?」
「お前がいるところにレバーとスイッチがあるはずだ。たぶんスイッチを押せばどうにかなる!」
「わ、わかった!」
俺の指示を受けたカロルは慌てた様子でスイッチを押す。すると思った通りにカチャン、という音が部屋の所々から聞こえてきた。
これでよし。みんなを助けられた。
そう思っていると、カロルが叫んだ。
「アニキ、危ない!」
気がつけばまた鹿頭が俺に突っ込んできている。俺は咄嗟に突撃を回避し、別の鳥籠へ移ろうとする。
だが、その行動をしすぎたのか鹿頭は俺じゃなく目的の鳥籠をしなる腕を使って攻撃した。そのせいで鳥籠は破壊され、俺は落ちるしかなくなってしまう。
「ッッッ!!」
どうする、どうする!
足場がない。つーか落ちる!
死ぬ、本当に死ぬ!
完全に詰んだ状態。だがそんな俺に声をかける存在がいた。
「界人さん、手を伸ばして!」
亜季の声が耳に飛び込んできた。俺は咄嗟にその声がした方向へ手を伸ばす。
するとか細い手がしっかり俺の手を掴んでくれた。そのままぶらん、っと吊り下がると嫌な浮遊感を味わいつつも俺は胸を撫で下ろした。
どうやら違う鳥籠からバンダナゴリラと亜季が協力して俺を助けてくれたようだ。
おかげで奈落の底へ死のダイブをしなくて済んだよ。ホント助かった。
「か、界人さん。しっかり握っててくださいね!」
「お、おう。お前こそ離すなよ」
『大丈夫か、人間! 今引き上げるからな!』
「頼む。亜季が持ちそうもないから早くしてくれ!」
どうにかこうにか俺は引き上げてもらい、助かった。思わず胸を撫で下ろしていると、亜季が抱きついてくる。
怖かったのか、その腕と身体は震えていた。声だって震えていて、何度も「よかった」と泣きながら言っていたしな。
「ありがとよ、亜季。だけど、まだ終わってないぞ」
俺は亜季の身体を優しく離す。そして立ち上がり、興奮して叫んでいる鹿頭に目をやった。
悔しかったのか、それとも怒り狂っているのか、鹿頭はとにかく叫んでいた。それは見ているこっちが痛々しく感じるほどの狂った姿だ。
『えらく興奮しているな。気味悪い』
「同感。さっさとあれをどうにかしようか」
『そうだな、人間。一緒に倒そう!』
「界人って読んでくれ。ゴリラって呼ばれたくないだろ?」
『そうだな、悪かった。ああ、俺はグリーフだ。これから頼むぜ、界人』
「頼まれた。じゃあさっさとあいつを倒そうか、グリーフ!」
俺はジャックの兄弟分グリーフを無事に助け出すことに成功する。
あとは、俺達を阻む鹿頭をどうにかするだけだ。
だが、鹿頭はさらに興奮している様子である。その身体は熱気を帯びているのか、真っ赤な輝きを放ち始めていた。
それでも俺達は怯まない。
生き延びるためにも、俺達は立ち塞がる鹿頭と対峙したのだった。
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