第3章 ゴリラよ、夢を抱け!

◆1◆ 俺に頼み込んでくる白いゴリラ

 亜季を助けるために見張りの目を盗み、どうにかこうにか建物の中へ潜入した俺は通路を闊歩するゴリラ達に見つからないように進んでいた。

 見た限り、見張りゴリラはそれっぽい帽子を被り槍らしき棒を持っている。中には位が高いゴリラもおり、それはオシャレな帽子やネクタイなどといった装飾品をしていた。


 まるでゴリラが人間社会を参考にし、文明を発展させているように見える。


「なんだか変な感じだな」


 まあ、人間の祖先を辿ればゴリラと繋がりがあるってどっかで聞いた気がするから文明を発展させてもおかしくないかもな。そのうちゴリラが人間に立ち替わって社会を形成しているかもしれない。

 そうなったら人間はどうなるんだろうか? 共存するんだろうか?


 そんなバカなことを考えていると、唐突にスマホががなりだした。


『えすおーえす、にゃ! えすおーえす、にゃ!』


 なんだなんだ? 唐突に歌い出したぞ。

 慌てて俺はスマホを切ろうとするが、画面を見てその気はなくなる。

 なぜならニャンコマッピングが展開されており、ここから南東へ離れた場所に点滅している何かがあった。これはもしや、と俺は考える。


 亜季が何かをやって居場所を知らせたのかもしれない。そうならば、目指すべき場所はこの点滅しているエリアだ。

 何かの罠かもしれないが、その可能性は低いはずだ。だってゴリラ達は俺の潜入に気づいてないもん。


「ウホッ」

「ウホホッ」

「ホッホー」


 っと、さっきの音で見張りが確認しに来やがった。ここにいたら見つかるな。

 俺は急いで移動しようとする。だが、後ろを振り返った瞬間、あのゴリラが立っていた。

 翡翠色の石が埋め込まれた真っ白なキャップを被ったそいつは叫ぶことも捕まえることもせず、ズイッと俺の前に出た。そして確認しにやってきたゴリラに「ウホホ、ウホウッホ」と身体の動きを交えて言葉のやり取りをする。

 見張りゴリラはそれを聞き、丁寧な敬礼をして持ち場へと戻っていった。


 まさか助けてくれたのか?

 俺は信じられない顔をしてゴリラを見ると、そいつはゆっくり口を開いた。


『思った通りだった。お前はいい』


 ゴリラはゆっくり振り返り、そう告げた。何が思った通りだったのだろうか、と考えていると白いゴリラはこう言葉を続ける。


『ここだと見つかる。ついてこい、少し話がしたい』


 何かの罠か?

 だけど、それにしては何だか様子がおかしい。

 俺は白いゴリラのことが気になりつつ後を追いかける。白いゴリラはというと、俺に気遣い見張りゴリラが少ない道を確認して進んでいった。


『ついたぞ』


 歩いて数分ほど。何だか立派な扉がある部屋の前に立つ。白いゴリラがその扉を開き、一緒に中へ入ると思いもしない光景が目に入ってきた。

 それは本の山だ。壁は本棚に支配されており、入りきらなかった物が山となって積み上げられていると表現すればいいか。


 まさに本の虫と呼べる存在じゃないとこうならない光景が目の前にある。


『悪いな、適当に座ってくれ』

「あ、ああ。本、好きなのか?」

『まあな。興味が尽きない』


 なんて知的なゴリラなのだろうか。俺、なんか負けた気がするよ。

 いや、そんなことは今どうでもいい! どうしてここに俺を連れてきたのか聞かないとな!


「そうなんだ。えっと――」

『ジャックと呼んでくれ。そうだな、ここに連れてきた理由を話そう』

「あ、ああ。頼む」

『話は簡単だ。助けたい奴がいる。それに協力してほしい』


 白いゴリラ、いやジャックはそう告げた。なんでそんなことを告げたのか。そもそもどうして亜季が連れさらわれなきゃならなかったのかがわからない。

 ということで一つずつ聞くことにした。


「どうして助けたいんだ?」

『血の繋がりはない。だが、幼い頃から一緒に生きてきた兄弟なんだ。だから助けたい』

「亜季を連れ去ったのはどうしてだ?」

『ここを支配している王に忠誠心を見せなければならなかった。それだけ、王は強い』


「お前だけでやれないのか?」

『やりたいのは山々だ。だが、できない理由がある』


 ジャックは自身の首に指を差した。そこのは真っ赤な首輪がある。なんだか趣味の悪いデザインがされていたが、もしかしたら王と呼んでいるゴリラのセンスなのかもしれない。


「これは?」

『裏切りものを始末するための首輪だ。中には爆弾が仕掛けられている」

「爆弾だと!?」

『これがあるから定期的に忠誠心を見せなければならない。他も同じだ。常に王の機嫌を取って暮らしている』


「なんでそんなことを……」

『知らん。だがこれのせいで俺に自由はない』

「……兄弟分は? ついてたら助けられないぞ」

『あいつはスキル封じの首輪をされている。万が一に王に危害を加えないようにと助言し、つけ替えさせた』


 兄弟分の身の安全を考慮してやったってことだな。だけど自分の首輪だけはどうにもできなかった。

 なるほど、だから俺に兄弟分を助けて欲しいって頼んできたのか。そのために亜季を連れ去り、万が一の担保にしたってことなんだな。

 こいつ、結構頭がいいのかもしれない。


「わかった、どうにかしてやるよ」

『すまないな。本当なら自分でどうにかしたかったのだが』

「何かの縁だ。だから助けてやる。あ、一応見返りを示してくれ。やる気が出る」

『なら魔術書を渡そう。俺の宝物だ』


 魔術書か。確か偉い学者でも解読不能と言われる文字が羅列されてるって言われる代物だが、何かに使えるだろうか?

 まあ、そんなのはいいや。亜季を助けないといけないし、報酬のためにも頑張ろう。


「わかった、忘れるなよ約束」

『ああ。頼むぞ、人間』

「界人だ。そんじゃ行ってくるな、ジャック」

『カイトか。俺の兄弟分はお前の連れと一緒に閉じ込められている。頼んだぞ」


 俺はこうして亜季だけでなく、ジャックの兄弟分を助けることになった。助けるためにも、ちょっと無茶しないといけないな。

 そんなことを思いながら救出へ俺は向かったのだった。

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