◆7◆ 僕と鳥かごに囚われたゴリラ〈Side亜季〉

「出せぇー! ここから出せぇー!」


 僕は必死に、とにかく必死に叫んだ。だけど、どんなに叫んでも見張りゴリラは振り向いてくれない。

 うぅ、言葉が通じないのかな。でもあの白いゴリラは理解していたからわかりそうだけど。

 あ、もしかして無視!? わざと僕を無視してるの。くぅー、そうですかそうですか。そっちがその気ならもっと叫んでうるさくしてやる!


「見張りのゴリラさん、聞こえてますかー! 僕はここにいますぅー!」

「…………」

「こっちを見てくださーい! 僕の目を見てくださーい!」

「ゴウゥッ」


 僕の声に反応したのか、イラついたような目を見張りゴリラはしてきた。思わずビクッと身体が震えて「ごめんなさい」と縮こまりながら謝ると、見張りゴリラは壁を殴ってまた前を見る。

 うぅ、騒ぐのもうやめよう。


 それにしても、ここはどこなんだろう。なんだか変な建物に連れてこられたんだけど、一体どんな場所なんだか。

 たくさんゴリラがいたし、中には偉そうなゴリラもいたし。


 そんなことを考えていると『元気あるな』と声をかけてきた誰かがいた。視線を左へ向けると、僕と同じように鳥かごみたいな牢に閉じ込められたゴリラの姿がある。

 頭にはバンダナを巻いており、だけどどこか元気がない。白いひげを蓄えてて、ちょっと人間っぽいなって思っちゃった。


『アンタ、人間だな。なんでこんな所にいるんだ?』

「なんでって、ダンジョン調査してたら捕まったんですよ。えっと、あなたは?」

『グリーフって呼んでくれ。そうだな、見た通りアンタと同じ囚われの身さ』

「えっと、ゴリラですよね? どうしてここにいるんですか?」


『リーダーの逆鱗に触れたのさ。禁忌とされていた【叡智の書】を開いたのが運の尽きといえばいいな』

「叡智の書? なんですかそれ?」

『聞きたがりだな、お前』


 ちょっと面倒臭そうにしながらもバンダナゴリラのグリーフさんは教えてくれる。この感じ、悪いゴリラじゃなさそう。


『叡智の書は、知能を高くしてくれるアイテムさ。手に入れたリーダーはそのアイテムを使い、さらなる統率力を上げるほどすごい代物なんだ。だが、リーダーはその力を独占した。使うとしても利用できる忠誠心が厚い部下のみ。だから言葉を扱えるゴリラはそこまでいないんだ』

「へぇー、だからあそこのゴリラは言葉を話さないんですか」

『当然格差もできる。俺はそれをどうにかしたいと思い、リーダーに近づいた。そして叡智の書を開いたまではよかったんだ。だが、仲間の裏切りにあった』

「裏切りって――」


『俺は、兄貴分と慕っていたジャックに裏切られたんだ。あいつは、叡智の書を開いた瞬間に俺を抑え込み、リーダーに突き出しやがった!』


 グリーフさんの拳が震えている。たぶん、そのゴリラをとっても信頼していたからこその怒りなのかもしれない。

 でも、すぐにグリーフさんは肩を落とした。そしてそのまま腰を落とし、途方に暮れ始める。


『俺はもうすぐ処刑される』

「え?」

『反逆者なんだ。仕方ないことさ。だけど、このまま何もできないまま死ぬなんて嫌だ。嫌なんだが、どうすることもできない』

「えっと、腕っぷしでどうにかできないんですか?」


『できでたらとっくにどうにかしているさ。この牢はドラゴンですらおとなしくさせられる頑丈なもの。知恵をつけたとはいえ、一介のゴリラでどうにかできる代物じゃない』


 確かに。どうにかしてるならとっくに逃げているか。

 うーん、どうしよう。このままグリーフさんを見捨てるなんてしたくない。でも、どうにかしようにも僕にはドラゴンより強いパワーなんてないし。


 僕が頭を捻っていると『ミィ、ミミィ』という声が耳に入る。

 そういえばいろいろなアイテムを詰め込んだバッグが取られそうになったから、スマホだけとっさに隠したんだった。えっと、確か内ポケットにしまってたはず。


『ミィー』

「ごめんごめん。ユニィちゃん、お腹空いた?」

『ミィー』


 ああ、かわいー! スマホ画面に映ってるユニィちゃんの姿がとっても愛らしいよ。スマホの憑依を解いて抱きついてスーハーしたいよ!

 あ、そうだ。そういえばユニィーちゃんも星猫だからスキルが使えるんだった。


 えっと、確か界人さんはこんな感じに操作してて――


「あ、あった!」


 スマホ画面を操作していると界人さんが使っていた【星猫アプリ】を僕は見つける。界人さんに習ってニャンコマーケットを開いてみるけど、役に立ちそうなアイテムはない。

 うぅん、困った。何かを買ってどうにかってことはできそうにない。じゃあ他に役立ちそうなものはないかな?


「ニャンコSOS?」


 なんだろう、このアプリ?

 僕は気になってタップをしてみる。すると突然「えすおーえすっ、にゃ! えすおーえすっ、にゃ!」という軽快な音楽と一緒に歌が流れ始めた。


 何の役に立つアプリなんだろう。というか、何のためにあるんだろ、これ。

 画面を見るとユニィーちゃんが楽しそうに踊っている。かわいいけど、今はそんなの求めていないよ。


「ん?」


 僕が困って笑っていると唐突にスマホ画面に【サインを受信した端末があります】というメッセージが表示される。タップして開くと、そこには〈甲斐界人〉という名前があった。


 界人さんが来ている!

 もしかしたら、このアプリって僕の居場所も教えてるのかな? だとしたらここから出られる可能性があるかも!


「グリーフさん、諦めちゃダメです!」

『気休めをいうな。俺はもうすぐ――』

「僕の仲間が助けに来てくれてます。だから、だから、一緒にここを出ましょう!」


 グリーフさんは驚いたように目を見開いていた。そう、そうだ。まだ可能性があるんだ。だから諦めちゃいけない。

 僕は、僕のためにも折れかけているグリーフさんを励ます。

 そうしなきゃ僕も押し潰されそうだからだ。だから、僕は自分を励ますようにグリーフさんに声をかける。


「絶対に助かります。そうです、助かるんです。だから、死ぬなんて考えないでください! 僕が、いえ僕達があなたを助けます!」

『悪いが、そろそろ俺は――』

「処刑なんてさせません。考えもさせません。一緒に出るんです! 僕と、仲間と、一緒に! だから諦めないで!!!」


 僕はグリーフさんのために、自分のために、ただ希望を口にする。

 絶対に助かるって、信じて――



◆◆◆◆◆


お読みいただきありがとうございます。

これにて第2章は終わりです。


まさかの展開に私自身驚いております。

ゴリラがダンジョンに現れるなんて考えてもおりませんでしたよ(笑)


とはいえ、これも出会い。界人と亜季にどんな影響を与えるでしょうか。


楽しみでたまりませんね!


ここまで読んでいただきありがとうございます。お気に召しましたら作品のフォロー、評価、感想コメントをいただけたら嬉しいです。


もう頑張っちゃいますよ!

レビューもお待ちしておりますー!

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