◆6◆ 俺なりのスタイリッシュ潜入

 妙なゴリラから攻撃を受け意識を失っていた俺は夢の中で不思議な少女【羽瑠】と出会った。彼女は連れ拐われた亜季が待っている神殿の真ん中にある何かを確認して欲しいと頼まれた。

 一体何を確認すればいいのかわからないが、どのみち亜季をゴリラから助け出さないといけないしそのついででいいと言われたので仕方なく首を縦に振った俺である。


 そんなこんなで意識を取り戻した俺は、スライムの王冠を被りスライムを従わせたカロルと一緒にさらに南へ進んだ。そこには亜季を連れ去ったバカでかいゴリラが言っていた神殿らしき建物が現れる。

 空がすっかり闇に包まれてしまったためその全貌はわからないが、これまたとんでもなく大きな建物だ。空で輝く星の大部分が隠れてしまうほどのもので、そんな所になぜゴリラが来いと言ったのか俺はわからないでいた。


 ひとまずこの中へ侵入をしよう。そんな試みを抱いていると妙なモンスターを発見した。

 それは目から光を放ち、音もなく飛び放つフクロウだ。


「なんだあれ?」

「カロル、静かにしろ。あと絶対に音を立てるな」


 まるで警備しているかのように飛び回るフクロウは、岩陰に隠れている俺達に気づくことなく通り過ぎていく。しかし、一匹のスライムが『くちゅん』とくしゃみをしてしまった。俺は慌ててそのスライムの口を塞ぎ、フクロウを確認する。

 どうやら気づいていないようで、何ごともなかったかのように飛び去っていく。

 よかった、とそれを見て俺は胸を撫で下ろし、フゥーっと息を吐いた。


「なあ兄ちゃん、あれなんだったの?」

「ガーディアンって名前のモンスターだ。レアアイテムやボスモンスターがいるエリアをよく飛び回ってて、見つかるととんでもない奇声を上げて仲間を呼ぶ。まあ、簡単にいえば厄介なモンスターだ」

「そんなモンスターがいるんだ。あ、じゃあこの建物にはレアアイテムがあるってことなのかな?」

「あるかもしれないし違うかもしれない。ただ言えることは、ガーディアンが飛び回るぐらい重要な何かがあるってことだな」


 そんな所に亜季は連れ拐われた。ゴリラは何のために俺をここへ呼んだんだ?

 もし単純に排除が目的ならそんな手間をしなくても済んだし、そもそも力の差は歴然だった訳だしな。


 何か思惑があるに違いない、ってことでいいか。


「それで兄ちゃん、これからどうすんの? 正面から乗り込む?」

「そんなことしたらあっという間にやられるっての。確かにスライム軍団はいるからそこそこ戦えるかもしれないけど、向こうの情報はないんだ。下手に正面からいかないほうがいい」

「じゃあどうすんだよ? このままだと朝になっちゃうぜ」

「俺の言っていたこと聞かなかったのか? 正面から行ったらやられる可能性が高い。なら、正面から行かなきゃいいだけだ」


 カロルは顔をしかめ、疑問符を浮かべて頭を傾げた。どうやらあまり理解していないようだ。

 ということで、あまり理解できていないカロルのために俺はわかりやすく説明をする。


「まずお前とスライム軍団は待機。大勢で動いたらそれだけ見つかる可能性が高くなる」

「あ、そっか。ガーディアンも飛び回っているしね」

「そういうこと。っで、俺はそのガーディアンの見張りを掻い潜ってあの建物の中へ侵入する。そんで亜季を見つけて助け出したらお前達に合図を送る」

「合図って、どんな?」


「そうだな、爆弾か何かを買って派手に暴れてやる。それが合図だ」

「何それ? 兄ちゃんそんなことして逃げ切れるの?」

「どうにかするさ。こう見えて機転が利くしな」


 ひとまず脱出の打ち合わせを終え、俺はカロル達と別れた。絶対に見つかるな、っとカロルに念を押しておいたがちょっと心配だな。


 まあ、そんな心配は頭の隅に置いて俺は素早く行動を開始した。

 飛び回るガーディアンに気をつけつつ建物へ近づき、そのまま壁の影へ隠れる。どこか入り口はないかと見渡してみるが見た限りそんなものはない。

 一体どこから出入りしているんだ、と思ってさらに周囲を見渡し確認していると妙な輝きが放たれている台座を発見した。


 それは何なのか。確認するためにも壁に沿って進み、ガーディアンに見つからないように近づく。すると台座にはたくさんのゴリラが出現し、立っていた。何やら大所帯でどこかへ去っていく。


 一体どこへ行くのだろうか。気になるが、それは後で確認しよう。

 見た限りあそこから出入りしているようだし。


 出入り口はわかった。しかし、困ったことにまた見張りがいる。しかもなかなかにでかいゴリラが二体いる。

 できれば騒がれたくない。かといって俺はただの社畜。特殊部隊に所属しているどっかのハードボイルドな主人公のような特別技能どころか根性も精神力も持ち合わせていない。


 さて、どうやって目を盗んで中へ入ろうか。


「ビィー」


 ナビィの声が聞こえ、スマホを取り出す。画面には大きくあくびをしている猫の姿があった。どうやら暇で堪らないようだ。

 落ち着いたらあとで遊んでやろう、と思いつつ視線を戻すと見張りゴリラも大きなあくびをしていた。


 今は何時なのかわからないが、もしかしたら結構な時間なのかもな。ゴリラだってちゃんと睡眠を取らないといけない時間なのかもしれない。

 とすれば、熟睡できるようにしてやれば喜ばれるだろう。


 そう考え俺はニャンコマーケットを開く。そこでたくさんのバナナを購入し、あとついでに【快眠サポート】という薬、そして注射器を買った。

 使い捨てカプセルが吐き出され、それを壊して中身を確認する。なかなかに美味しそうなバナナと、なかなかに毒々しい色をした液体薬品に注射器が目の前にそろう。


「くくく、極楽に送ってやるぜ」


 そんな柄にもないことを言葉にしてこぼしつつ、快眠サポートをバナナに注射しまくる。全てを注入したところで、頑張って起きているゴリラのすぐ横にバナナを置いてやった。あとはバナナの山に辿り着けるように道を作る。


「準備完了」


 いい感じに仕掛けができた。あとは気づいてもらうのを待つだけだ。

 そう思っていたらバナナを拾って歩いてきているゴリラの姿があった。バナナが大好きなんだろうな、見張りゴリラは争うようにバナナを取り合いながら突き進んでくる。


 そしてそいつらは、バナナの山を見て口をあんぐりと開いた。あまりのごちそうに驚いているのか、それとも相当お腹を空かせていたのか大量のヨダレをだらしなく垂らしている。そして「ウホ」「ウッホホ」と歓喜の声を上げ、ケンカをしながらも仲よく食べ始めた。


「睡眠薬、いらなかったかな?」


 まあ、念のための保険だ。ひとまず台座から引き離すことには成功したからいいや。

 そう思うことにして俺は出入り口になっている台座へ向かう。見た限り、何の変哲もない台座だけど、どうやって中へ入るんだろうか。


「おっ?」


 何気なく立つと、唐突に体が光に包まれる。あまりの輝きに目を瞑り、光が消えるのを待った。

 いつしか光は消え、俺は目を開く。目の前に広がっていたのは薄暗い通路だ。足元には先が見える程度の照明があり、それがここを頻繁に利用していることがわかる。


「潜入成功っと」


 ゴリラが何をしようとしているのか。わからないけど、いい予感はしない。だからとっとと亜季を助けて脱出しよう。

 そんで亜季を助けたらナビィと遊ばないとな。


 そんな風に今後のことを考えつつ、俺は進み出す。未知が待ち、危険が手招きして待ち受ける建物の中へ足を踏み入れるのだった。

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