◆4◆ 俺とデカすぎるゴリラ
どうにかこうにかスライムキングを倒した俺達は、無事にカロルを助け出したこともあり一息ついていた。ひとまず倒したスライムキングの身体が消えたのを確認し、残されたモンスター素材を確認する。
えっと、残っているのは【青いブヨブヨ】が十個に【スライムの王冠】か。青いブヨブヨはいろんな用途で使えるから便利な素材だ。着火剤になるし、ポーション類の役に立つしな。
ただスライムの王冠は何に使えるかわからないな。そもそも初めてスライムキングを倒したんだ。使い方がわからなくて当然だろう。あとでリリエルさんに何に使えるか聞いてみよう。
そんなことを考えていると、迷惑をかけた本人が声をかけてきた。
「すげぇー! すげぇーよアンタ! まさかスライムキングを倒しちゃうなんてすごすぎるよ!」
「何がすごいだ。俺達がいなかったらお前は死んでただろ、カロル!」
「そ、そうだけど。でもすげぇーことには変わりないって! なあ、どうやって倒したんだよ。俺に教えてくれよ!」
「反省しろ、クソガキ!」
俺は目を輝かせ、反省の色を見せないカロルの頭を小突いた。するとカロルはとても痛そうな表情を浮かべ、ちょっとだけ涙目になって小突かれた場所を押さえていた。
ひとまずこれでよし。いけないことはいけないと教えてやったし、後は亜季に任せよう。
「んだよ、ちょっとぐらい教えてくれてもいいじゃんか」
「界人さんが怒ったのはそういうことじゃないよ。君が危険を冒してついてきたから怒っているんだよ」
「……そうだけど」
「ねえ、どうしてついてきたのか教えてくれないかな? もしかしたら界人さん、教えてくれたら許してくれるかもしれないよ」
亜季がいい感じにカロルへ訴えかけてくれる。すると亜季の言葉を受けたカロルはちょっとだけ渋々とした表情を浮かべ、重々しく口を開いてくれた。
「姉ちゃんの役に立ちたかったんだ。姉ちゃん、いつも率先して戦って、みんなをまとめて、休むことをしないで過ごしてて。だから少しでも役に立ちたくて」
「だから私達についてきたんだね」
「うん。危険なのはわかってたけど、それでも助けになりたくて。ダメかな?」
話を聞いた亜季が俺を見る。ったく、あいつは甘いもんだ。本当なら帰れって追い返してやるところだが、モンスターが闊歩しているこんな場所から突き返すのはさすがにかわいそうってもんだ。
それにまだ調査の途中だ。だから仕方ないということにしておこう。
「あんまり離れて行動するなよ。何かあったら今度こそ助けてやれないかもしれないからな」
「それって、ついてきていいってことか!?」
「口の利き方に気をつけろ。あと、役に立ちたいなら危険を冒すな。わかったか?」
「ありがとう兄ちゃん! わかった、気をつけるよ!」
カロルは調子よさげに返事をし、笑顔を浮かべた。ったく、こいつはこいつで素直なガキだな。ま、あとで事情を話してリリエルさんからも説教をしてもらおう。
そんなことを考えつつ、俺は周辺を見渡す。ひとまず危険なモンスターはいない様子だ。
戦闘もしたし、身体を休めるためにもここら辺で休憩を取ろうか。
「界人さん、意外と優しいですね」
「役に立たなかったら突き返してやるよ。それより亜季、カロルがケガしていないか確認してくれ。万が一のことがあったら困る」
「はいはい、わかりました」
亜季がなんだかわざとらしい返事をする。
なんだかちょっとムカつくな。そもそも俺はそんなに優しくないからな。
まあそれは置いておいて。ここからどこを調べようか。今のところ、この草原はあの大岩ぐらいしか特徴といえる特徴はない。
あとはそうだな、ダンジョンウサギがたくさんいるってことかな。ユニーク個体が混じっているみたいだけど、それ以外は比較的安全に狩りができる環境といえる。それを考えればここを食料確保の場所としてもいいかもしれない。
問題は狩りをできる人材がいるかどうかか。こればかりはリリエルさんに聞いてみるしかないな。
俺はそんなこんなと考え、今後の方針を立てる。するとカロルの状態を見ていたはずの亜季が「きゃー!」と悲鳴を上げた。
「どうした? って、なんだ!?」
悲鳴を聞いた俺は振り返り、その姿を目にする。
それはスライムキングなんかよりも遥かに大きなゴリラだ。丸太かと勘違いしてしまいそうなほど太い腕に、これまた大きな手で亜季が掴まれている。
そんなゴリラは頭に妙な白い被り物をしていた。それには翡翠色の宝石が埋め込まれており、妙な輝きを放っている。
「は、放せー!」
亜季が賢明に暴れるが、あまりにも力の差があるためかただ手足をバタつかせているようにしか見えない。
ゴリラはそんな亜季を抱え、どこかへ行こうとする。そんなことをされては俺が堪らない。だから俺は星猫アプリを使ってスマホをバトルナイフに変えた。
「そいつを放せ!」
どこかに去ろうとするゴリラに俺は飛びかかる。だが、ゴリラは振り返ることをせず空いている手で地面を殴った。途端に俺の腹部をめがけ、何かが突起してくる。それが土塊だと気づいた時には俺は後ろへとぶっ飛ばされていた。
どうすることもできないまま俺は転がっていく。どうにか起き上がろうとするが、あまりにもダメージが大きくてできない。
ゴリラはそんな俺を見て、一瞬だけ足を止める。そして、こんな言葉を残した。
『この先の神殿で待っている』
ドスンドスン、という足音が遠くなっていく。俺は追いかけようとしたが、どうしても身体に力が入らず起き上がれなかった。
「兄ちゃん、大丈夫か!? しっかりしろ、兄ちゃん!」
カロルが心配して声をかけてくれる。しかし俺は、返事もできないまま意識が闇の中へ落ちたのだった。
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