◆3◆ 俺vsスライムキング

 プルンプルンと巨躯が揺れる。飛び跳ねるスライムキングはイタズラ小僧に容赦なく襲いかかっていた。

 そんなモンスターから必死に逃げるカロルは、懸命に流れ出そうな涙を流さないように堪えている様子だ。さすが男の子、とちょっとだけ褒めてやりたいところだが泣いても泣かなくても危機的状況には変わりない。

 だから俺は星猫アプリを使い、スマホを先ほど買ったバトルナイフに変えスライムキングに立ち向かった。


「頭を下げろ、カロル!」


 俺は思いっきりナイフを振るう。するとナイフに宿っているスキルが発動したのか、生えている草花を切り裂きながらスライムキングに突撃した。

 いわゆる真空の刃が発生し、スライムキングへ襲いかかる。しかし、その攻撃はスライムキングの表面を軽く切り裂くだけでたいしたダメージにはならない。

 それどころか傷は瞬時に回復し、塞がってしまった。


「ブルルゥンッ」


 スライムキングは俺に振り返り、睨みつけてきた。思った以上にデカいこともあって俺は思わずたじろいでいると、スライムキングは俺に向かってぴょんぴょんと跳ねてきた。


 どうやら俺にターゲットを変えたようだ。ならこのままカロルから離れて戦おう。

 そう思って駆けていると亜季が唐突に「そっちはダメ!」と叫んだ。


「フンスフンスッ」

「ウッサウッサッ」


 俺が逃げた先にダンジョンウサギがいた。しかも通常の灰色とは違い、真っ白なのが二体いる。

 明らかにユニーク個体だ。ユニーク個体ということは、通常個体と違う能力を持っているということでもあり、それはつまり厄介という意味になる。


 そんなユニーク個体のダンジョンウサギ二体は俺を見た瞬間、目の色を変えた。


「フンスフンスッ! パワフルパワフル!」

「ウッサウッサッ! スピードスピード!」


 ダンジョンウサギは何かを叫んだ瞬間、スライムキングの動きが変わった。

 大きな巨躯は天高くへと跳び上がり、俺に向かってくる。どうにか左へ飛んで躱すと、ものすごい衝撃が襲ってきた。その衝撃の勢いに負け、俺は転がる。全身が痛む中、起き上がると土埃が巻き起こっていた。


 そこからむくりとスライムキングが起き上がると、妖しく目を輝かせ俺を睨んだ。


「プルンプルンッ」


 こいつはマズい。あのダンジョンウサギがパワーアップさせてくれたせいでスライムキングが手をつけられなくなったぞ。

 どうする? このままじゃあこっちがやられる。


 そんなことを考え、次に打てる手を探していると亜季が唐突に叫んだ。


「界人さん、そいつの弱点は火炎か氷結です!」


 俺は思わず亜季へ振り返る。するとそこには、鼻ヒゲメガネをかけた彼女の姿があった。

 えっと、これは素直にツッコミを入れてもいいよな?


「なあ、亜季。お前ふざけてる?」

「格安で【鑑定メガネ】を買ったんだから文句言わないでくださいよ! とにかく火炎か氷結です。あとはどうにかしてください!」


 どうにかしてください、ってどうしろと。そう言い返そうとした瞬間、俺はニャンコマーケットの存在を思い出す。

 そうだ、そういう武器を買えばいいんだ。だけどここで火炎属性の武器を買って使えばスライムキングどころか俺達も火だるまになる。

 とすれば、買うなら氷結属性の武器だ。


「プルンプルンッ」

「おわっ」


 スライムキングが調子に乗って飛びかかってくる。

 くそ、このままやられっぱなしでいられるか。目に物を見せてやる!


 俺はバトルナイフをスマホへと元に戻し、ニャンコマーケットを起動させる。そしてスライムキングの攻撃を回避しつつ手頃な武器を見つけ、買った。

 それはなかなかに大きなハンマーだ。名前は【氷結カナヅチ】らしい。五千ニャンコインとなかなかに高い武器で、結構な重さだ。


 俺はそれを担ぎ、飛び込んできたスライムキングに合わせて振った。するとスライムキングは吸い込まれるようにカナヅチに飛び込み、そのまま後ろへぶっ飛ばされる。


 ゴロンゴロンっ、と転がっていくとスライムキングはヨロヨロしながら立ち上がった。だが、まだ勝てると思っているのかまた同じように飛び込んできた。


「同じ手は通用しないぞ!」


 俺はタイミングに合わせ氷結カナヅチを振る。スライムキングはまた同じように後ろへぶっ飛ばされ、転がっていった。

 ヨロヨロ立ち上がり、スライムキングは逃げ始める。どうやらようやく俺に勝てないと気づいたようだ。


 だが、ここまで来たら俺はもう逃がす気はない。

 それにせっかくのスライムキングだ。倒してその素材をいただく!


「逃がすか!」


 ヨロヨロしながら逃げていくスライムキングに強烈な一撃を脳天にお見舞いすると、その身体は凍りつき始める。途端にスライムキングの動きは鈍り、跳ねることすらできなくなった。


 あとひと息!

 俺は完全に弱ったスライムキングにトドメの一撃を食らわす。

 スライムキングは「プルルゥゥンッ!」と悲鳴を上げ、為す術なく凍った身体が砕け散ったのだった。


「すげぇ……」


 感嘆とした声がカロルから聞こえた。だがそれよりも、俺は生き延びられたことに喜びを抱く。

 普通、モンスターと戦っても勝てる見込みはない。戦う時は打つ手がないかそうしなければならない時だけだ。


 何にしても勝ててよかったよ。


「やりましたね、界人さん!」

「ああ、どうにかな。それより亜季、その鼻ヒゲメガネはもう取ってもいいんじゃないか?」

「あ、そうですね。もう戦いは終わりましたし」


 俺の促しに亜季は素直に答え、鑑定メガネこと鼻ヒゲメガネを取ろうとした。だが、妙なことに何をしても取れない。必死に懸命に、何度も何度も引っ張っているんだが取れる気配がなかった。


「あ、あれ? 取れない。どうして?」

「お前、何ふざけてるんだよ」

「ふざけてませんよ! ホントに、あ、あれなんで!?」


 俺は仕方なく亜季が買った鑑定メガネを調べてみることにした。

 ニャンコマーケットを開き、そのページを探す。すると鼻ヒゲメガネが売られていたページにはこんな注意書きがあった。


【呪われているので注意】


 これはあれだな、亜季が悪いな。


「た、助けてください界人さん! と、取れないです!」

「それ、呪われてるみたいだぞ」

「え? うっそ、そんな! ど、どうにかしてくださいよ!」

「じゃあさっきの約束はこれでチャラな」


「そんなぁー!」


 こうして俺は亜季のために解呪アイテムを買う。亜季は泣いていたが、まあ仕方がないことだ。

 ということで俺達はカロルを助け、さらにスライムキングを倒しその素材も手に入れたのだった。

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