◆5◆ 俺vsガラクタモンスター ラウンド1

 人の形をしたガラクタ――そう呼べる奇妙なモンスターと退治するリリエルさんは不思議な杖を握りしめ、それと対峙していた。俺もすぐに参戦しようと立ち上がり持ち武器であるナイフを取り出そうとする。

 だが、いつも装備として携帯している部位を触ってみるがナイフはない。


 え、なんでだ? いつもはここに装着しているはずなのに。

 思わず身体中を触り、確認してみるがないものはない。一体どうして、と考えていると俺はあることに考えつく。


 俺達はダンジョン崩壊に巻き込まれ、ここに辿り着いた。もしかしたらその時に武器として使うナイフを落としてしまったのかもしれない。

 何にしても、今の俺にはあのガラクタに対抗できる力がない状態だ。どうにかして武器となりえるものはないか、と探しているとリリエルさんは戦闘を始める。


「ナビィ、今日のご飯は手の込んだスープだからさっさと終わらせるわよ」

「ビィー!」

「いくよ――ウィンドブロード!」


 リリエルさんは三回ほどナビィが憑依した杖を回し、その底を地面に叩く。途端に猫の形をした先端が「ビィー」という鳴き声が響くと共に翡翠色の輝きが解き放たれた。

 その途端にガラクタが奇妙な叫び声を上げながら突撃し、鉄パイプをリリエルさんの脳天に向けて振り下ろした。だが、解き放たれた光によってその攻撃が防がれ、そのままガラクタは後ろへぶっ飛ばされる。


 ガラクタが怯んでいる間に見たこともない紋章らしき何かがリリエルさんの足元に広がり、彼女の身体を包み込んだ。その光は次第に真っ黒なローブを大きく変えさせる。

 頭には翡翠色のベール、身体は白を基調とし、所々に翡翠色のフリルが施されたドレスだ。そのドレスから放たれる光は神々しく、おそらくとんでもなく強くなったことがわかった。


「さ、お片づけするわよ」


 パワーアップした彼女は猫の形をした杖の先端をガラクタに向ける。倒れていたガラクタは立ち上がり、再びリリエルさんに襲いかかった。


 今度は鉄パイプを突き出し、彼女の頭を貫こうとする。

 だが、その前にリリエルさんは「ショット!」と言葉を放ち、ガラクタに翡翠色の光をぶつけた。

 直後、ガラクタの身体が浮かび上がる。

 かと思えば一気に後ろへぶっ飛び、大きな砂煙を上げて緑が広がる森へ押し込まれていった。


「これでよし」


 リリエルさんは満足げな顔をし、ガラクタがぶっ飛んでいった痕跡を眺める。その強さは圧倒的といってもいい。もしかしたら俺よりも強いかもしれない、って感じるほどだ。

 そんな彼女が振り返り、見ていた俺達に微笑みかける。そして何かを言おうとした。

 しかし、その瞬間に何かが彼女の頭にぶつかる。思いもしないことにリリエルさんが膝を崩し、頭を押さえていると今度は鉄パイプが飛んできた。


「リリエルさん!」


 倉本が叫ぶ。だが、それよりも早く俺は飛び出していた。

 防ぐ手立てがある訳じゃない。それでも助けてくれた彼女を助けたかった。だから一か八かで俺は彼女を押し倒し、手にした鍋蓋で防ごうとする。

 しかし、鍋蓋は木製。当然ながら勢いよく飛ぶ鉄パイプを防ぎきれず鍋蓋を貫き、俺の胸に当たった。


「ぐぅッ」


 若干だが鉄パイプの勢いが落ちる。胸ポケットに入っているスマホのおかげもあって致命傷は避けられた。確実にスマホは壊れただろうけど。


 とはいえ、困ったもんだ。あのガラクタ、遠距離攻撃ができたのか。もしかすると他にも何かを飛ばしてくるかもしれない。


「だ、大丈夫ですか!?」

「なんとか。とにかく一旦ここから」

「それはできないわ。もしここを失ったら私達は死ぬしかないの」

「それはどうして――」


「ここは拠点だから。それにいろんなものが集まってくる場所なの。もしここを失ったら、私達は生きていけるかわからない旅をしなければいけなくなるわ」

「じゃあ、あいつを倒すしかないってことか」

「そう。でも、それもできなくなったわ」


 彼女は暗い表情を浮かべた。視線に合わせると、そこには完全に粉砕された木の杖が転がっている。

 俺は思わず目を大きくし、武器だったものを見つめてしまうと彼女はこう告げた。


「元々、限界に近かったの。だから一撃で倒せるように攻撃したんだけど、思い通りにはならなかった」

「そんな……でも他に武器はあるんですよね?」

「あるにはあるわ。でも、ナビィが気に入ってくれないとダメなのよ」

「それはどういうことですか?」


「さっきの能力はナビィのもの。ナビィの能力を使うにはこの子が気に入った物体じゃないといけないの。だから武器があっても、ナビィが気に入ってくれなきゃ使えないのよ」

「他の星猫は? ナビィ以外にも戦える星猫はいないんですか?」

「まだ戦いに慣れてないわ。もし憑依させたとしても、力を発揮できない」


 とんでもない制約があったもんだ。つまり、生き延びるためにはナビィの能力を使う必要がある。だけど、ナビィの好奇心をそそるものじゃないとその能力は発揮できない。

 見た限りだが、ナビィは転がっている鍋蓋に興味を持っていないから難しいな。


 さてどうする? このままじゃあ、俺達はあいつになぶり殺しにされるぞ。


『ザアアアアアアアッッッ――』


 くそ、考えている暇もないか。

 好機と見たガラクタが姿を現し、俺達を見下ろす。飛ばしたはずの鉄パイプとバケツはなぜか戻っており、再び俺達にそれらを向けて立っていた。

 くっ。せめてナイフさえあれば、と考えるけどないからどうしようもない。


 こうなったら肉弾戦でどうにかするしかない。そう考えていると「界人さん!」と叫んで駆け寄ってきた。


「何しに来たんだ倉本。隠れてろ」

「その、私も力になりたくて」

「いや無理だ。足手まといだよ」

「だけど、それでもどうにかしたいです!」


 ああ、もう。気持ちはわかるけど無理なものは無理だって。

 くそ、リリエルさんと倉本を守りながら戦うなんて厳しいぞ。ナイフじゃなくていいからせめてまともな武器さえあれば――


「あ、そうだ。最近こんなアプリを落としたんですよ。ほら、ネズミがあっちこっちから顔を出す【チューチュー叩き】ってやつです」

「お前、今の状況をわかってる?」

「かわいいじゃないですか! こうやってポンって叩くと〈くちゅー〉って鳴いて逃げていくのかわいいですよ」

「ホントにお前、状況わかってる!?」


「わかってますよ! ほら、これなら猫ちゃんは興味持つでしょ?」


 いやそれアプリゲームだし。そもそもナビィーが猫と同じとは限らないだろ。

 そう思っているとナビィーがずっと倉本が持つスマホの画面を見つめていた。


 おや、これはもしや――そう思っていると走り回るネズミに向かって肉球をぶつけ始める。そして叩かれたネズミは〈くちゅー〉といって巣穴に退散していった。

 ナビィーはそれが楽しいのか夢中になってスマホ画面を触っている。気がつけばナビィーの身体は翡翠色に輝きを放ち始めていた。


「わ、わ、光ってる!」

「倉本、その調子で続けろ! どうにか時間を稼ぐ!」

「わかりました!」


 こうなったらなんでもいい。そう思い、俺は倉本の作戦に懸けることにした。

 このままナビィーが興味を持ってさっきの能力が使えるようになったらこっちのもんだ。そう思い、俺は転がっていた鍋蓋を手に取った。


 ガラクタも気づいているのか、俺を無視して倉本に狙いを定める。だがそうはさせない。

 俺は鍋蓋を投げ、それごと足を蹴った。するとガラクタはバランスを崩し、ちょっとだけよろめく。

 すかさずタックルをし、そのまま押し倒した。ガラクタは起き上がると俺を振り払おうとするが、ずっとしがみついてやる。


 とはいえ、これではあまり時間稼ぎができない。だから振り払われるのも時間の問題だった。


「ビィー」


 そんな中、ナビィーは楽しそうな顔をしてスマホアプリを遊んでいた。身体から放たれる光でその形がわからなくなってきたその瞬間、ナビィーの姿が消える。

 倉本は慌ててナビィーの姿を探し、おもむろにスマホを見るとそこには猫耳を生やした翡翠色のスマホがあった。


「やった、成功した!」


 ナビィーがスマホに憑依した。これで戦う準備が整う。

 あとはあれをどうにか使って、このガラクタを倒すだけだ。


『ザアアアアアアアッッッッッ――』

「うぉおおおぉぉおおぉぉぉぉぉッッッ!!!」


 ガラクタが大暴れし始める。そのせいで押さえつけていた俺はぶっ飛ばされた。

 倉本の元へ突撃していくガラクタは、そのまま彼女を押し潰そうと飛びかかる。


「きゃー!」


 だが、倉本がスマホを盾にするようにガラクタへ向けた瞬間、その巨体は空中で押し止められる。そしてそのまま弾けるとガラクタは後ろへぶっ飛んでいった。


「え? な、何が起きたんですか?」

「でかした倉本! それをこっちに投げてくれ!」


 倉本は言われた通りにナビィーが憑依したスマホを投げ渡してくれる。それを受け取った俺は、起き上がってきたガラクタと対峙した。

 どのくらい使えるのかわからないが、やってやろうじゃないか。


「ナビィー、あとで美味しい何かを食べさせてやるよ!」

「ビィー」


 こうして俺はスマホに憑依したナビィと共にガラクタと戦うことになる。

 さあ、倍返しの時間だ!

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