◆6◆ 俺vsガラクタモンスター ラウンド2
ザァー、っとブラウン管テレビのノイズ音が響き渡る中、俺は倉本から受け取ったスマホをかざす。戦況はこちらに傾いた、はずだがただただ砂嵐と思える嫌な音だけが空間に飛び回っていた。
いや、そもそも何も起きてなくね?
というか、星猫の能力ってどうやって使うんだ?
『ゴロゴロゴロ』
ナビィが喉を鳴らしたような音を出している。その音は憑依したスマホのスピーカーから出ており、なんだか本物の猫が電話越しにいるような気がした。
よく見るとスマホ画面がナビィの顔になっており、フレームはというと猫耳らしいものが生えている。なんとまあ、かわいらしいことか。
って、いかんいかん。全く関係ないことを考えてしまった。戦いに集中しなくては。
『ビィー! ビィー!』
って、急にどうしたんだ? ナビィが騒ぎ出したぞ。
俺は思わずスマホ画面に目を落とす。するとそこには【ご飯食べたい】という文字が踊っていた。よく見ると猫らしいミニキャラがエサを待っているかのようにお利口お座りをし、ずっと俺を見つめている。
なんだろう、かわいい。
「界人さん、前!」
倉本が慌てたように叫ぶ。反射的に顔を上げると今にも鉄パイプを振り下ろそうとしているガラクタの姿があった。
俺は慌てて左へ飛ぶと、直後にガィィン、という嫌な音が響いた。
危ない危ない。ナビィに気を取られていたせいだが、あのままじゃあ確実に脳天をかち割られていたな。
ひとまずナビィのご飯は後だ。どうにかしてナビィの能力を発動させなければ。
『ザアアアアアッッッ――』
俺が手間取っているのを見てか、ガラクタは鉄パイプとバケツを発射してきた。俺は駆け出し、体勢を低くして攻撃を躱すが攻撃は止まない。
なぜなら鉄パイプとバケツはすぐに腕に生え、発射されるためだ。まるでピストルの弾倉のようにストックされているかのようだ。
弾切れが起きるまで逃げ回るか?
いや、仕組みがわからない。それに弾切れなんて起きるのか?
『ザアアアアアッッッ!!!』
攻撃できないと判断したのか、ガラクタはさらなる弾幕を張った。そのため逃げるしかできなくなり、反撃がさらに難しくなる。
打開するためにも、やっぱり星猫の能力をどうにか発動させようという結論に俺は至る。
しかし、ホントどうやって発動させるんだ? リリエルさんに聞けたらよかったんだが、今はそんな暇はないし。
『ビィー!』
ああもう、ナビィが怒ってるよ。そんなにお腹が空いたのかお前。
俺はもう一度スマホ画面に視線を落とす。するとそこには明らかに怪しいアプリフォルダがあった。
それは【星猫アプリ】という名前だ。試しに開いてみると、そこには【ニャンコマーケット】【ニャンコギルド】【ニャンコミュージック】【ニャンコクック】などなど妙なアプリが並んでいる。
もしやこれがナビィの能力か!?
なんて思ったがどれも役に立たなさそうだった。というかこれ全部、戦闘に使えなくね?
『ザアアアアアッッッ――』
「だぁぁ! うるせぇな!」
ガラクタが調子に乗ってやがる。その証拠にさっきよりも激しく撃ち込んできていた。
ええい、このままじゃあジリ貧だ。なんでもいいからアプリを開いてみよう。
俺はヤケクソになりながら【ニャンコマーケット】を開いてみると、唐突に『おめでとうございます』という文字が表示された。
〈はじめてのご利用ありがとうございます。初回限定のプレゼント【一万ニャンコイン】を贈呈いたします。さあ、楽しい買い物とビジネスをしていきましょう!〉
「ニャンコインってなんだよ!」
おい、肝心なところが全然説明されてないぞ!
ニャンコインってなんだ? もしかしてポイントみたいなものか?
ダンジョンでショッピングしろってことか? 買ってもいいけど届くのかそれ!?
『ザアアアアアッッッ』
「界人さん、何してるんですか! 死んじゃいますよ!」
ああくそ、ツッコミ入れてる暇もないのかよ。ええい、状況がヤバいしこうなったらヤケだ。
俺は攻撃を躱しながらニャンコマーケットの登録を速攻で済ませ、ショッピングできる体制を整える。そのままショッピング画面に移ると、なんとまあすごい数のアイテムと装備がずらっと表示された。
ひとまず手頃そうなナイフを見つけ、三千ニャンコインを支払う。直後、俺が持っていたスマホが翡翠色の光を解き放った。
『ご利用ありがとうございます。これよりあなた様は【バトルナイフ】が使用可能となりました。こちらは戦闘時、自身の攻撃力に強化付与される仕組みとなっております。通常時でも料理に探索にと活躍できる代物ともなっておりますので、大変便利でございます。さあ、目の前に強敵はおりますか? 派手に切り刻んであげましょう!』
説明が長い!
でもいいものが手に入った。おかげで戦えるようになったぞ。
俺はナイフを握り、攻撃するガラクタへ駆けた。そのまま懐に入り込み、そして横へ一閃する。
驚いたことに切った、という感触がなかった。ただ横にナイフを振ったという感じだ。
その感覚を抱いたままガラクタを見つめると、胴体になっている冷蔵庫が上下に分かれた。下半身は立ったまま、上半身は音を立てて落ちると天を見つめている。
『ガガガ……ザアアアアアッッッ』
ガラクタは何が起きたかわからないでいるようだ。ただガタガタと暴れ、起き上がろうとしている。だが、下半身とサヨナラしているため立ち上がれない様子だった。
「このナイフ、ヤバいな」
バトルナイフだっけ? とんでもない攻撃力だな。冷蔵庫を切ったし。
えっと、他にも使えるって説明してたよな。どのくらい使えるかわからないけど、まあいいか。いい買い物をしたよ。
「トドメを刺して、甲斐界人さん!」
リリエルさんが叫ぶ。
何気にガラクタを見ると、頭になっていたテレビだけが宙へ浮かんでいた。どうやらあれが本体のようだ。なら、テレビを破壊すればこいつは死ぬ!
『ザアアアアアッッッ』
「逃がすか!」
俺は逃げようとするガラクタに向かってナイフを投げると、それはそのままブラウン管テレビを貫いた。
完全破壊されたブラウン管テレビは事切れたのか力なく地面に落ち、画面が割れる。不快な砂嵐の音も消え、それがガラクタの終わりを知らせてくれた。
「やった、勝ったぁー!」
「すごい、あんなスキル見たことないわ」
倉本がバンザイするように手を振り上げ、喜びの舞をする。リリエルさんはというななぜか俺に感心をしていた。
どれだけすごい能力なのかわからないが、ひとまず無事に勝てたんだ。死にかけたがよかったよかった。
そう思った俺は、安心してその場にへたり込む。それと同時にナイフに変わっていたスマホは元の姿に戻ったのだった。
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