第二章 秘薬安駝駝 1
「好きなだけ食べろ。足りなければいくらでも言え」
大きな貝殻のようにぐるっと円形に囲まれたソファー席の中央で、紅害嗣は惜しみなく言った。その卓上には既にたくさんの料理が並べられている。
派手に飾り付けられた前菜から、ふかひれスープ、北京ダック、チンジャオロース、色とりどりの点心に到るまで、どれも美味しそうな湯気を立てている。紅害嗣お気に入りの店らしい。
一仕事終えた玄奘は八戒から打ち合わせがあると聞き、指定のスタジオに赴いたところ、待っていたのは紅害嗣ただ一人だった。
あれよあれよという間に車に乗せられ、高層ホテル内のチャイニーズダイニングに連れてこられてしまったのだ。紅害嗣と二人きりで会うのは、あの誘拐事件以来である。今度は何を企んでいるのだろうか。玄奘はさすがに血の気が引いた。
「そんなに硬くならなくてもいいだろう?お前をとって食おうと今は思っていない。同じ音楽を作る仲間としてより深くお前を知りたいだけだ。乱暴な真似は一切しないと誓おう」
紅害嗣は礼儀正しい態度を崩さず、紳士的に玄奘をエスコートしてくる。玄奘は困惑しながら尋ねた。
「あの……打ち合わせと聞いたのですが、他のメンバーはどこでしょう?」
今すぐに悟空に連絡をとりたいが、マネージャーの磁路にスマホを預けたままで連絡手段がないのが痛恨の極みである。
「打ち合わせは俺の歓迎会に変更になった。他のメンバーは後で来る。それまではお前が俺を歓迎してくれ。さあ、食べろ」
「しかし他の人を待たなくては」
「主賓が良いと言ってる。何の問題もないだろう?冷めてしまえば味も落ちる。お前は料理人の心尽しを無駄にする気か?」
ウェイターも冷えた紹興酒をグラスに注ぎ、是非にと勧めてくる。
無理に逆らえば怒らせるかもしれない。玄奘は仕方なく席に着いた。
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