第42話 ランチタイム



『お昼は、どこかで食べるつもりなの?』



 その質問の答えは、『施設内のどこかで食べようと思っている』いうものだった。

 尊の返信を受け、愛は『なら私がお弁当作ってあげる』とメッセージを返した。


 そして今朝、早起きをしてお弁当を作った。

 母に手伝ってはもらったが、ほとんどが愛の作ったおかずだ。


「あ、あそこ空いてるよ」


 遊園地内の、共有スペース。オープンテラスを見つけ、そこで少し早めの昼食をとることに。

 二人用のテーブルを見つけ、愛と尊は対面する形で座る。


 愛は、鞄から弁当箱を取り出す。


「はい、こっちが尊のね」


「おう、サンキュ」


 今日まで、お昼の話はしてこなかったが……尊も、期待しているのだろう。

 弁当箱を受け取り、嬉しそうだ。


 尊の弁当箱は、愛のものよりも一回り大きい。


「結構でかいな」


「いっぱい食べるかと思って」


 尊は、青色の包みを解いていく。

 弁当箱は二つが重なっており、一つはご飯、一つはおかずのものだろう。


 愛も同じく、桃色の包みを解いていく。


「おぉ……うまそう!」


 弁当箱を開くと、そこに広がっていたの光景に尊は目を輝かせた。

 卵焼きに、ミニハンバーグ。ウインナーにブロッコリーと、弁当の定番というおかずが詰められていた。


 特に、尊の目が引き付けられたのはハンバーグだ。


「これ、全部愛が?」


「全部、ではないよ。お母さんにも手伝ってもらったし。

 あんまり、自信はないんだけど……」


「なに言ってんだ。お前の作るもんはいつもうまいっての」


 普段、尊と渚が柊家で食事をするときは、愛も料理を手伝う。

 そのため、愛の料理の腕を、尊は知っている。まずいはずがないのだ。


 対いて愛は、普段とは違う環境での料理に、本当においしくできたのか気がかりで仕方がない。

 母は、ちゃんとおいしいと言ってくれたが……


「ま、まあ、とりあえず食べよっか」


「おう」


 箸を渡して、二人で「いただきます」と手を合わせる。

 遊園地で、彼のためにお弁当を作ってきて、二人で食べる……周りからはいったい、どのように見られているのだろうか。


 まずはハンバーグを箸でつまみ、尊はそれを口に運ぶ。

 口の中で何度か咀嚼し、飲みこんだ。愛はその様子を、黙って見ていた。


「ど、どうかな」


「ん……うん、うまいよ」


 もぐもぐ、と味わっていた尊の答えに、愛の表情が輝く。

 尊の好物でもあり、愛が一番気合いを入れて作ったのが、このハンバーグだ。


 安心した愛は軽く笑みを浮かべ、自分も食事を開始する。

 一応自分でも味見をしたが、緊張のせいか味がよくわからなかった。


 ……うん、おいしい。


「ね、ね。これ食べたら、次はどれ乗ろうか」


「そうだなぁ。やっぱジェットコースター……いやでも、食った直後は厳しいか」


「あはは、かもね」


 食事をしながら、こうして次の予定を話しながら笑い合う。なんて、幸せな時間だろう。

 これまでは、怪人の出現に意識を持っていかれ、純粋に楽しむことができなかった。


 だが今日は、博士のおかげで愛の端末には、怪人出現の報せが行かないようになっている。

 以前のプールのように、愛のいるところに怪人が現れる可能性も、百パーセントないとは言えないが……


 あんなこと、早々あるもんじゃない。

 今は、この幸せな時間を、楽しもう。


「お、たこさんウインナーだ」


「あー! お弁当の残りは、かいのお昼にって思って半分はたこさんにしてたんだけど……混ざっちゃったみたい」


「ぷはは。いいじゃん、こういうのも」


 尊も、先ほどのトラウマのことは忘れているようだ。

 いや、忘れることなんてできないだろう……でも、少しでもこうして、彼の抱える気持ちを、軽くしてあげたい。


 もっと、近くで支えてあげたい……そんな想いが、愛の中で大きくなっていく。


 ……もし、尊ともっと親密になれたら。恋人みたいに、あーんなんてしちゃうのだろうか。


「どうした、顔赤いぞ」


「ふぇ!?」


「もしかして、気分とか……」


「ちちち、違うから! まったくもって健康体だから!」


 昔から、体は強い方だが……ヒーローをやり始めてから、風邪なんか引いたことがない。

 だから、これは風邪ではない。顔が赤いのは、もっと別の理由だ。


 愛は、おかずを食べるスピードを上げていく。

 その姿を見て、尊が柔らかく微笑んだのに、気づいてはいない。


「んぐっ……ぷはぁ! 我ながらおいしかった!」


 お茶を飲み、喉を潤わせた愛は、自らの料理の腕前ににやりと笑みを浮かべた。

 尊も遅れて完食し、お茶を飲んだ。


「あぁ、うまかった。ごちそうさま」


「うむ、お粗末様」


 きれいになった弁当箱を見て、愛は頬が緩むのをなんとか抑えるのに限界だった。

 ご飯粒一つすら、残っていない。彼のために、作ったかいがあるというものだ。


 弁当箱を片づけ、鞄に収めていく。


「しっかり、弁当箱二つに水筒まで……重くなかったか?」


「だーいじょうぶ、これくらいなんともないって」


 それは、強がりでもなく事実だ。

 普通であれば、多少なり重くは感じるのだが……良くか悪くか、愛は普通ではない。


 ヒーローをやっている愛は、怪人との戦いを経て腕力とかもろもろ強くなっている。

 身体能力上昇のヒーロースーツ着用時でない平常時でも、以前よりはかなり鍛えられていた。


 それに気付いているのかいないのか、愛は鞄を肩からかける。


「さ、行こうよ尊! 時間は有限、待ってはくれないよ!」


「おう」


 愛は立ち上がり、次になにに乗るかを決めていく。

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