第30話 ヒーロー会議



「それでは、月に一度のヒーロー会議を始める」


「……」


 座るヒーローたちを見て、博士が切り出す。

 月に一度の恒例である、ヒーロー会議。今日がその日だ。


 プールから帰った愛は、次の日がヒーロー会議の日であることをすっかり忘れていた。

 次の日にヒーロー会議とはツイてなかったが、愛にとってはプールの疲れなどを次の日にまで引きずることはない。


 その愛は、当然ながらレッドの姿だ。ヒーロー会議は、五人のヒーローが一堂にかいし、博士の研究所の一室で行うものだ。

 そのため、ヒーロー服で集まるのが暗黙の了解だ。


 愛の他に、ブルー、グリーン、イエロー、ピンクがいる。

 ブルーとは、この間ショッピングモールでニアミスした。素顔だが。

 グリーンは、プールの件で駆けつけてくれた。


「あの……ピンク?」


「えぇ、なぁに?」


 それぞれ、ヒーロー活動に真摯で、愛としても見習うところがある。

 そんな中……ヒーローとして尊敬はしているが、人として困惑する人物もいる。


 今、レッドの右腕に絡みついている、ピンクがそうだ。

 彼女は、レッドの右腕に自らの腕を絡ませ、レッドの右半身に上体を預けている。そして、己の胸を、これでもかと押し当ててくるのだ。


(ホントなんなのこの人……! この女……!)


 押し付けられる膨らみは、間違いなく女性のそれだ。

 ヒーロースーツは伸縮自在で、体型を隠す性能性に優れている。そのため、本当は女の愛も、レッドが男であると偽ることができている。


 だが、偽れるのはあくまで見た目の話。

 こうして直に触れ合ってしまえば、体の硬さ、柔らかさもわかってしまう。


 まあ、自分からわからせようとでもしない限り、体型がバレることはほぼない。でないと、ふと触れ合った瞬間にレッドの正体がバレてしまう。こうしてピンクに触らせるわけない。

 それに、だ。


「あぁん、レッド……細腕なのに逞しい筋肉……」


「……ども」


 怪人を、倒して倒してバッタバッタ倒しているせいだろう。

 愛は、同級生の中でもわりと腕に筋肉がついてきていた。目に見えて、腕が太くなったわけではないが。

 そのせいで、男だと信じられやすくなっている。


 これもヒーローとしての功績だと言われればそうなのだが、だとしても年頃の女の子として複雑だ。

 もしもピンクが尊で、尊に腕をさわさわされるのだと考えれば……


 それは、アリだ。


「ピンク、会議中だ」


「うるさいわねカレー色。気安く話しかけないで」


「カッ……」


 レッドにべたべたしているピンクを注意するイエローだが、ピンクは気にもしない。

 このように、ピンクは同じヒーロー同士でも他人に厳しい……レッド以外には。


 レッドにべたべたの理由は、まあわざわざ話すまでもないが……


「あぁ、ええよええよ楽にしてくれ。

 それより最近、怪人の出現も活発化しておる。じゃが、それをいち早く察知して、レッドが処理してくれておる」


「さすがレッドだわぁ」


 ……このように、要はレッドラブなのである。

 いつからかはわからない。どうしてかもわからない。ただ、ありのままを話すと……気づいたらこうなっていた。


 博士含め、他のメンバーにバレてもお構いなし。むしろ見せつけているすらある。

 さすがに、うっとうしいからと引きはがすわけにもいかないが……


(胸! さっきから胸押し付けてくるこいつ! む! ね!)


 腕に押し付けられる大きな膨らみに、愛はイライラをなんとか隠していた。

 押し付けられる感じ、愛よりも大きい。そんなものを押し付けられれば、男なんて一発だ。

 ピンクはそう思っているのかもしれない。


 だがレッドには通用しない。だって女だから。


(それにしても、よくもまあこんなものを隠せるよなぁ)


 まさにスーツ様様だ。中の人が女性とはいえ。

 愛的に助かってはいる。あと動きやすそうだ。


「……それで、レッドからの案で、ヒーローにも休みが必要ということになってのん。いやぁ、もっと早く気付くべきだったんじゃが」


「仕方ないでしょう。怪人が増え始めたのは最近……以前までは、出動することなんてあまりなかったですし」


「しかし、休みかぁ。そう言い出した張本人が、怪人を倒していたら世話ないぞ? はっは!」


「お、同じエリアにいたからな……」


 話題は、ヒーロー休日日問題へ。

 イエロー、グリーンの発言を受け、レッドが答える。休日でも、さすがに同じエリアに怪人が現れては、放ってはおけない。


 結果的に、仕事熱心みたいになっているが。


「あぁ、そんなレッドも素敵ですわ」


「ははは……」


「それで、みんなからはなにかあるかの」


 ヒーロー会議は、博士とヒーローたちとの情報共有会だ。

 もちろん、このような会議がなくても、情報は逐一みんなに共有している。それでも、顔をあわせることが重要なのだ。


 まあ、顔はみんな隠しているが。


「やっぱり最近は怪人の活動が……」


「オレこないだ女子高生にサインねだられちゃったよ」


「地域活動にも参加していて……」


 と、このようにそれぞれ感じたことを話し合う。

 中には他愛ない話もあるが、それも含めてのヒーロー会議だ。


 愛としては、この会議は自分の正体がバレないか、緊張の時間でもある。

 とはいえ、用事もないのに欠席するわけにもいかない。愛は真面目だった。


「ふむふむ、なるほどの。ピンクからは、なにかあるかの」


 交わされる言葉を受け、博士がうなずく。そして、話の先は先ほどからレッドにべったりの、ピンクへ。

 それを受けたピンクは、はい、とまるで子供のように元気に手を伸ばして。


「私とレッド、同じ日を休日にしてください!

 レッド、その日デートしましょう!」


「……ん?」


 とんでもないことを、言い出した。

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