第31話 デートしましょう!



『私とレッド、同じ日を休日にしてください!

 レッド、その日デートしましょう!』



 ピンクの、その堂々たる宣言。

 それを聞いた一同は、みな一様に固まっていた。


 その中でも、一番衝撃が大きいのは……当然、正面からデートを申し込まれたレッド、愛だ。

 彼女は、言葉を失っていた。


(な、な……なに言ってんの、この人……!?)


 頭の中は、もはやパニックだ。

 これまでの人生の中で、告白されたり、いわゆるデートに誘われた経験が、ないとは言わない。愛としても、女としての魅力を自覚するため悪い気はしなかった。


 それでも、これまで誰の誘いも受けなかったのは、意中の相手が愛にはいたからだ。彼は愛のことを女として見ていないのかもしれない……

 それでも、彼を想うこの想いを、裏切ることはできなかった。


 ……そんな愛でも。さすがに同性にデートに誘われるのは、初めてだった。しかも、こんなみんなの前で。


「えと、と……ぴ、ピンク……?」


 なんとか、声を絞り出す。

 震えてしまって、いつもの威厳ある声をキープできているだろうか。ちゃんと男っぽい声を出せているだろうか。


「その……今の、は……」


「あら、もちろん本気よ」


 困惑するレッドに、ピンクは真正面から見て返す。

 顔は見えないが、きっと彼女は真っ直ぐな目をしていることだろう。


 彼女が、悪ふざけでないのはわかった。

 だが……


「その……すまない、俺は……誰とも、付き合うつもりは……」


「あら、私はまだ付き合って、とは言ってないわよ?」


 なんとか断るための言葉を見つけようとするレッドに、ピンクは言葉を重ねた。

 今のは、デートに誘っただけで付き合ってとは申し込んでないと……まだ。


 確かに、デートに誘うイコール付き合う、ではないなと、愛も納得する。


「これは、デート。お互いの親睦を深めるための、ね。私たちまだ、プライベートで遊んだこともないじゃない?」


 もっともな、ピンクの言葉。

 だが、プライベートで遊ぼうなどと……愛にとっては、無理な話だ。


「俺は、素顔を晒すつもりはない。ピンクだって……」


「私は、別にレッドになら素顔を見せても構わないけど? でも、そうね……嫌がるレッドを無理強い、っていうのもそそるけど、まだそういうのは早いわよね……」


 素顔を見せてもいい……それは、どれほど覚悟の決まった、言葉であろうか。

 なんだか途中に不穏な言葉が聞こえてきたが、愛は聞こえないふりをした。


 そして、なにかを思案したピンクは……


「なら、この姿のままでのデートはどう? 私が素顔でレッドとデート、っていうのも考えたけど、今の世の中スキャンダルにうるさいから……

 その点、レッドとピンクなら、ヒーロー同士だし問題ないんじゃない?」


「大アリだろ!」


 名案だと言わんばかりに、手を叩くピンク。ふふん、と見えはしないがおそらくドヤ顔を決めているピンクに、ツッコミを入れるのはイエローだ。

 その案には、問題がある。その意見には愛も賛成だ。


「なにが問題なのよ」


「なにもかもだ。……だいたい、レッドとピンクが交際疑惑だって、充分スキャンダルだろ」


 そういう意味だけではないが、愛的にもイエロー寄りだ。ヒーロー姿のままでピンクとデートするというのは、いろいろ問題だ。

 ピンクは、なにが問題なんだ、と言わんばかりの表情を浮かべているが。


 だいたい、ヒーロー二人が揃ってお買い物なんて……


「それこそ、人に囲まれて終わりだろうな」


「そうそれ!」


 ブルーの指摘に、イエローが手を叩く。

 仮にレッドとピンクの姿で一緒に出かけた場合……ヒーロー目当ての人々に囲まれて、身動きが取れなくなるのは、目に見えている。


 ヒーロー一人でも危ないというのに。


「むぅ……なら、やっぱり素顔でデートしましょ! それなら私たちがヒーローなんて、わからないわ!」


「それはできない」


 こうも好意を向けてくれているのは、愛にとっても悪い気はしない……相手が女性で、かつレッドに対してでなければ、だが。

 レッドの対応に、ピンクは負けじと食らいつくが……どれだけ言われても、愛が首を縦に振ることはない。


 しばしの問答の末……


「はぁ……わかった、諦めるわよ」


 渋々、といった形で、ピンクは諦めを告げる。

 しゅんとした姿を見ていると、少し悪いことをした気にもなってしまうが……ここで情けをかけては、いけないだろう。


 それほどまでに、レッドとデートがしたいだなんて……


「でも、そこまで頑なに拒否するなんて……私、ちょっと傷ついちゃうわよ? 私結構尽くす方だし、胸だってそれなりに大きいんだけどなぁ」


「「「!!?」」」


 まさかのカミングアウトに、この場にいたブルー、グリーン、イエローが肩を震わせる。

 男性もいる前でこの発言とは、ピンクには羞恥心がないのだろうか。


 しかし、このままではピンクの自尊心を傷つけてしまいかねない。

 なので……


「いや……ピンクに、問題があるわけではない。俺個人の、問題だ」


 キミは悪くないと、フォローを入れる。

 こうしておけば、ピンクが負ったダメージも少なく済むはずだ。


「レッドの問題? ははーん、中身は結構おじさんとか? 私そういうの全然気にしないわよ、私はあなたの中身を気に入ったんだから。

 それとも……あはっ、まさか実は女の子とか?」


「!?」


 レッドが自分の誘いに乗らない理由を考えるピンクは……指を立てて、次々と言葉を滑らせていく。

 その中に、レッド……愛にとって、決定的となる言葉があることに、ピンクはまだ気づいてはいない。

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