第28話 この想いを伝える時!?



 四人それぞれが違った種類のアイスを注文し、空いている席を探す。

 幸い、アイスを買った人は店の席に限らずプールの縁や、歩きながらなどといろんな場所で食べているので、空いている席は簡単に見つかった。


 四人でも座れる、丸テーブル。愛、尊、恵、山口の形で、席に座る。


「うーん、冷えた体にアイスはもっと冷える……!」


「でも、今日はあったかいからそこまででもないよね」


 ペロペロと、ソフトクリームをなめながら会話を楽しむ。

 普段、尊と二人や恵と二人で話すことは多々ある愛でも、複数人で話をするのは新鮮で楽しい。


 特に、山口とはあまりしゃべったことがない。


「山口くんはどう、楽しい?」


「うん。誘ってくれてありがとうね」


「礼なら、割引チケット持ってた恵に、ね」


「!」


 ほらアシストしたよ、ナイスアシストだよ私! と愛は、恵にウインクを飛ばす。

 別に頼まれてはいないが、恵の気持ちを知った以上、恵のアシストをすると決めたのだ。


 山口から視線を受け、恵は顔を真っ赤にする。


「ありがとう、竹原さん」


「ふぇ!? い、いや、別に、これくらい……」


 ナイスアシスト……であると同時に、愛にはもう一つの企みがあった。

 普段、尊とのことで、恵にからかわれている愛。だが今回は、その逆襲だ。せいぜい恥ずかしく照れるといい。


 愛の超個人的な仕返しである。


「けどよ、なんで山口を誘ったんだ? 竹原と山口、そんな話してる印象ないんだが……

 あ、別に山口が不満ってわけじゃないからな」


「うん、わかってるよ」


 そこに、尊からのナイスフォローが入った。

 フォローとはいえ、尊は恵の想いを知らない。気持ちをアシストしようという気持ち、からかってやろうという気持ちもない。


 これは完全に、天然の尊だ。


「でも、ボクも気になるな。竹原さんはむしろ、ボクのこと嫌いなのかと思ってたし」


「ぅえ!? なんで!?」


 尊の疑問は、当の山口も抱いていたようだ。そして、ぶっちゃけられる事実。

 その内容に、恵は普段出さないような声を出した。愛もびっくりだ。


 だが、それも当然だろう。まさか嫌われていた、なんて本音を暴露されれば。


「だって、いつも竹原さんと目が合うと、目をそらされてたから……」


「ぁ……」


 目が合っても、目をそらされる……それならば、山口の勘違いも仕方ないだろう。

 じとーっとした視線を向ける愛に、恵はパクパクと口を開け閉じしている。


 それはきっと、目が遭って恥ずかしいからとっさにそらしただけだ。

 だが、それを知るのは本人である恵と、愛だけだ。


「そ、れはぁ……」


 この勘違いを解く方法は、一つ。あなたのことが気になっていたから、目が合ったら恥ずかしくてそらしてしまったのだ、と本音を暴露することだ。

 いくのか? いっちゃうのか?


 はらはらする愛、そして恵は……


「い、いやぁ……あはは。ほら、や、山口くんってば、たけたけと仲がいいじゃない!? だからほら、ね!? あいあいとたけたけはニコイチじゃないとだし、バランス的にも男子がもう一人欲しいなって!」


「!?」


 へたれた。しかも、思いっきり愛を巻き込む感じで。


 この女はいったい、なにを言っているのだ。誰と誰がニコイチだ。はっ倒すぞこの野郎。

 恨めし気な視線を向ける愛に、恵は「やっちゃった」という表情だ。


「そっかぁ、そりゃそうだよね。ボクなんて神成くんのおまけみたいなものだし」


 その上、あんな説明をするものだから、山口が自信喪失している。

 しかもその口ぶりから、"尊のおまけ"という扱いを何度か受けてきたっぽい。


 思わず地雷を踏んでしまい、恵は真っ青だ。


「いや、その、そういう意味じゃ、なくて……」


 ずーん、と落ち込む山口の姿に、恵は大慌てだ。

 さて、どうしたものか……さすがになにかしらのフォローはしなければいけないだろう。が、なにを言えばいいのか愛は頭を悩ませる。


 もういっそ、恵が本心をさらけ出せれば、楽なのだが……


「おいおい竹原、その言い方はあんまりだぜ。せっかく山口は、竹原に誘われたって舞い上がってたのによ」


「そ、そうだよ恵。山口くんは……んん?」


 ふと、尊が口を開く。こうなれば、彼の言葉に便乗しよう。

 事情を知っている愛だと、変なことを口走るかもしれない。だが、尊ならば……


 そう思い、うんうんとうなずく愛だったが……遅れて、言葉の中身を理解する。


「か、神成くん!?」


「ん? ……あ、内緒だったか。悪い悪い」


 なにより、山口の反応が、彼の言葉が嘘ではないと告げている。

 その反応に、愛も恵も、きょとんとしていた。


 それを受けて、山口は観念したように、うつむいた。


「いや、だって……た、竹原さんが、ボクを誘ってくれたって聞いたら……ち、ちょっと思うところあるっていうか。あんまり、話したこともないのに」


 山口からすれば、わけがわからなかっただろう。自分を嫌っていると思っていた恵からのお誘い。しかもプールだ。

 相手は、クラスの……いや、学校中の男子から人気の高い恵だ。そんな人物から誘われては、少しは期待もするものだ。


 もちろん、尊のおまけで、という考えもあったが……


「き、気になってた女の子に誘われたら、その……」


「や、山口くん……」


 思わぬ形で明らかになる、山口の本音。

 それを受けて、恵はごくりと息を呑んだ。


 「あ、あの、山口くん。じ、実はその、私も……」


 ここまで言わせて、まだ気持ちを隠すことなんて、出来ない。

 胸の前で手を組み、勇気を持って山口へと、言葉をかける恵。


 隣で、まさかの告白タイムが行われている中。それを前に、愛は……


(なんだこれ……)


 予想外すぎる展開に、もはや落ち着いた様子でそれを見ていた。


 友人の告白シーン。普通なら、キャーとかウワーとか、黄色い声で色めき立つところなのだろう。

 だが、先ほどからの、温度差が激し過ぎる。愛の心の野次馬魂は、すっかりどっかへ行ってしまっていた。


 そして尊は、ソフトクリームを完食した。

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