第26話 バレちゃった……!?



「あいあいー!」


「わぷっ」


「もー、どこ行ってたの! 心配したよー!」


 尊に手を引かれ、愛は恵、山口と合流した。

 愛を見つけた恵はすぐに駆け寄ってきて、隣にいた尊を押しのけ、愛を抱きしめた。


 その力強さに、恵がどれだけ心配してくれていたのかがわかる。


「ご、ごめん……」


「でも、怪我とかしてないようでよかったよ」


 恵の背後から、山口が歩いてくる。

 彼は、尊と比べるとやはり貧弱なイメージを受ける。まあ尊と比べると、クラスのほとんどが貧弱になってしまいそうだが。


 そんな山口に想いを寄せる恵。

 彼女の着ている水着は……



『うーん……うん、これいいね!

 オフショルビキニ! この……フリルがついてるやつ! 色は黒!』


『く、黒かぁ……ちょっと、派手じゃない?』


『ちっちっち。男ってのは、単色かつシンプルなデザインを好むものなんだよ。

 それにめぐみさんは、スラッとしててかっこいい感じだから、黒が映えると思う』


『そ、そうかなぁ……

 でも、同じ水着でもいろんな種類があるよね』


『そうだね。えっと……この肩紐つきのやつ、かな。こっちのが、他のより清楚感があるからね。

 この水着はセクシーに見せられるけど、逆にセクシーを狙いすぎて下品に見える、なんてこともあるから、組み合わせには気をつけないと』


『し、師匠……!』



 水着選びの際、渚との間にそんなやり取りがあり……選んだのは、フリルのオフショルビキニだ。

 上下ともに黒で、モデルのような恵のスタイルがよく映える。


 試着したときもそうだったが、やはりプールという環境だからか、なんだか余計に似合っているようにも思える。


「ところで恵」


「なぁにあいあい」


 恵に抱きしめられたままの愛は、小声で恵に話しかける。

 その姿に、恵は首を傾げた。


「山口くん、なんて言ってた?」


「!? な、なな、なんでそこで山口くんが出てくるのよ!?」


「だって山口くんに見せるために買ったんでしょ」


「ぅ……」


 愛からのいきなりの突っ込みに、恵は顔を真っ赤にした。わかりやすい。

 これでよく、今まで個人への好意を悟られないようにできたものだ、と愛は感心する。


 ちなみに本人は気づいていないが、好意を隠しきれていなかった愛とは大違いである。


「ほらほら、言っちゃいなよ」


 ニヤニヤと笑いながら、愛は先の言葉を促した。

 適当に誤魔化してしまいたい恵だが、そもそも山口のことが気になっている……と話をしたのは恵本人だ。


 だからこれは、別に面白がっているわけではない。ただ恵の恋の行方を気にしているだけなのだ、と愛は自分に言い聞かせた。


「その……に、似合ってるって、言ってくれた。スラッとしてて、きれいだって」


「ぉおおおぉおおお……!」


 普段は見せない恵の女の顔に、不覚にも愛はドキリとしてしまった。

 あぁ、その場面をぜひとも見たかった。山口がどんな顔をして褒めたのだとか、褒められた恵はどんな顔をしていたのだとか。


 つくづく、あの時現場にいなかったことが悔やまれる。

 本当に、あの怪人は余計なことをしてくれたものだ。あと百回くらい殴っておけばよかった。

 怪人はもういなかったが。


 ……そうだ、怪人といえば……


「そういえば尊、あの女の人はどうしたの?」


「んぁ?」


 あの時、尊と一緒にいた女性。怪人に襲われそうになり、足を捻ってしまっていた。

 それを、尊はお姫様抱っこで共々避難したのだ。


 ……尊のファーストお姫様抱っこ(多分)を奪った女だ。思い出しただけでも憎たらしい。しかも、盗っ人だ。

 本来なら気にするべきではないが……それでもやはり、愛はヒーローだ。

 だから、ちゃんと避難できたのか、気になる。


「女の人って、あぁ……あの足捻っちゃった人か。係員さんに届けて、そのままだよ。無事ではある」


「そっか」


 よかった……と、愛はほっと胸をなでおろす。

 だが……


「ところで……愛はなんで、そのことを知ってんだ?」


「え……ぁ」


 それは、当然の疑問でもあった。

 尊が、動けない女の人を助けた。それは事実だが、それを知っているのは尊本人と……あの場にいた、レッドだ。

 愛では、ない。


 愛が知らないはずの情報を、なぜ愛が知っているのか。そういう話だ。


「ん? なんの話?」


 そして恵は、なんの話がされているのか理解していない。

 山口も同じようだ。つまり、尊はこの話を、二人にもしていない。


 ならばますます、なんで愛がこの話を知っているのだという話になる。


「……お前、もしかして……」


 ふと、尊の視線が鋭くなる。

 その視線を受け、愛は体の奥に熱が灯ったように……いやそれどころではなく。なにもかもを見透かされたような気持ちになった。


 まさか、バレてしまった……? 愛が、レッドだということを。

 これは、どうごまかすべきだろう。それとも、ごまかしきれないのだとしたら……?


 心臓の音が、大きくなっていく。

 次に告げられる尊の言葉を、愛は、目をぎゅっとつぶって聞いて……


「どっかで、俺があの人を運んでるところ見てたのか?」


「……へ?」


 間の抜けた、声が漏れた。

 きょとんと目を開いて、パチパチと何度か、まばたきをして。


「違うのか?」


「へ……あ、あぁ! そう、見てた! 見てたんだよ!」


「なんだそうか。だったら、声かけてくれよ。わざわざあれから探したんだから」


「あはははは、ごめんごめん」


 尊が人を運んでいるのを、どこかから見ていた……そう、解釈したらしい。

 とんでもない勘違いだが、愛は全力でそれに乗っかる。尊が鈍感で良かった。


 わざとらしく笑う愛に、恵は終始、きょとんとした表情を浮かべていた。

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