第15話 友達相手にも気をつけよう
「じゃーねー、かいくん」
「う、うんっ。いって、きます」
朝食を終えた愛たちは、しばらくの間談笑したあと、登校の時間になり家を出た。
愛と尊は高校、渚は中学校、海は小学校だ。
高校と中学校はわりと近くにあるため、渚とはしばらく一緒に登校できる。
しかし、小学校は離れた位置にあり、かつ集団登校なため、海とは早々にお別れだ。
手を振り見送る渚に対し、顔を赤らめた海は小さく手を振って、足早に去っていった。
「あー、やっぱりいいなぁ弟。かわいいよー」
当の渚は、海のことを弟としか見ていない。
そこに秘められた想いなど、気づくはずもないのである。
それから、別れ道まで三人で登校することに。
週のはじめ、これが愛にとっての日常だ。愛としては、毎日起こしに行ってもいいのだが、それだと悪いし甘えすぎてしまうから、という理由で却下された。
なので、普段は愛は一人で登校していて、途中から追いかけてきた尊と合流するのが、常である。
「あ、ここまでだね。渚ちゃん、学校頑張ってね」
「あー、うぅ……あいちゃん、別れる前にあいちゃん成分補給させて」
「はいはい」
そしてこれも、いつもの光景。
別れる前に、渚は愛に抱きつき、あいちゃん成分とやらを補給しているのだ。
最近成長具合の良い愛の胸元に顔を埋め、ぎゅっと腰へと手を回して……存分に堪能した渚の顔は、それはもう晴れやかだった。
「これで、今日も頑張れるよ! いってきまーす!」
「い、いってらっしゃーい」
「いってらー」
本当にこんなもので効果があるのかは疑問だが、渚本人が喜んでいるのだから、よしとしよう。
愛としても、別に嫌ではないのだから。
それから、しばらく二人きりの時間……とはいかない。
学校もそれなりに近づいているので、登校中の生徒もちらほら。中には、クラスメイトもいる。
「やっほっほー、あいあいにたけたけ、おはよー」
そんな二人の背後から声をかけ、ポン、と気安く肩を叩く人物。
それが誰か、確認するまでもない。こんな呼び方をするのなんて、一人しかいない。
「恵ちゃん、おはよう」
「よっすー、竹原」
癖っ毛のある栗色のショートヘアを揺らすのは、二人のクラスメイト……そして愛の親友でもある、竹原 恵だ。
背が高く、モデル体型。それでお高く止まるわけではなく、気安く接してくれる。
愛とは高校に入っての付き合いだが、あっという間に仲を深めていった。
恵は、愛の隣に並ぶ。
「いやー、お二人は朝からお熱いですなぁ」
「も、もう、やめてよ恵っ」
「?」
にひひ、と笑みを浮かべて愛をからかう恵。その真意を、尊はわかってはいない。
恵は、尊に対する愛の気持ちは知っている。というか、知らない人が少ないくらいだ。
そのため、なんとか二人の関係を進展させたいところであるが、尊が思った以上に朴念仁なので、思ったように事が進まない。
「そういえば知ってる? こないだ、ショッピングモールで怪人が出たって話」
「!」
恵が話題に出すのは、この間の休日に現れた怪人のことだ。
その怪人はブルーが倒し、被害は最小限に抑えられた。
「それなら、俺たちは現場にいたんだよな」
「え、マジで!?」
やはり、怪人が近所に現れたともなれば、それなりに話題にはなる。
それを愛は、なんとも複雑な表情で聞いている。
愛の周りがそうなのか、それとも純粋にみんなそうなのか……ヒーロー好きが、多すぎる。
自分がヒーローだから、余計にそう感じてしまうだけなのだろうか。
「いやぁ、アタシも見たかったなぁ生ブルー」
「いいだろ」
「ふふん……けどね、たけたけ。アタシは、生レッドに会ったことがあるんだよね!」
「なんだって!?」
「!?」
ヒーローブルーに会ったことを、羨ましがる恵。正確には、会ったというよりも見かけただけなのだが、それは些細な問題だ。
得意げになる尊だったが、その表情は早くも崩れる。
逆に得意げになった恵から、思わぬ返答があったからだ。
そしてそれはそのまま、愛にもヒットする。肩を跳ねさせ、驚きから声が出そうになってしまった。
尊が、レッド大ファンということは、恵どころか尊を知っているほとんどの人によって周知の事実だ。
そんな彼に、私は生レッドに会ったのだ……と言えば、どうなるか。
「ほほほ、本当か!? 嘘言ってるんじゃないだろうな!」
こうなる。動揺から声は震え、また羨ましさから目の輝きが隠せていない。
その話は、正直愛も気になる。生レッドと会ったなどと……いったいいつのことだろう。
「嘘じゃないよ。こないださ、学校に遅刻しそうになったのよ。で、近道しようと思って商店街を通ってたの。
そしたら、そこにカニみたいな怪人が現れてね。なんで寝坊した日に限って……って、自分を呪ったよね。
でも、その時颯爽とレッドが現れたの! 目の前で、怪人相手に大立ち回り!」
(あのときかぁー!)
恵の話に、愛は内心ヒヤヒヤだった。
生レッドを見た……どうやら、レッドが怪人を倒した場面に、居合わせたらしい。
それも、ショッピングモールのときのような遠目ではなく、わりと近くに。
友達が近くにいた、とは。……バレることはないだろうが、正体が悟られないようにいっそう気を付けて振る舞わなければならない。
「いいなー、いいなー生レッド!」
「ふふん!」
「……」
生レッドを見たことに対して、尊は興奮しつつ恵に詰め寄っている。
その距離感に、ちょっとジェラっとする愛であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます