第16話 プール行こうよ!
「ねーねーあいあい! プール行こうよプール!」
「……どうしたのさ藪から棒に」
その日の昼休み。いつものように真面目に授業を受けていた愛は、屋上で昼食をとっていた。
この学校は屋上が解放されており、昼休みなどは生徒のたまり場となっている。
ベンチに腰掛け、食事をする愛に話しかけてきたのが、隣に座っている恵だ。
「プールだよプール!」
「いきなりだね恵は……あーむっ」
「もー、たけたけがいないからってつまんなそうな顔しないの」
「! んっ、ぐ……っ! ……ぷはっ。
は、はぁ!? 別に、そんな顔、し、してませんけど!」
だし巻き卵を口に含んでいた愛は、恵の思わぬ言葉に口の中のものを吹き出しそうになってしまう。
なんとか耐え、お茶を飲み喉を潤せば、真っ赤になった顔で恵を睨みつける。
ただしまったく迫力はない。
昼食は、愛と尊は別々で食事を取っている。
愛としては、お昼も尊と一緒にいたい気持ちはある。のだが、尊にも尊の付き合いがある。
なので、それぞれ同性の友達とお昼を過ごしている。
恵は、その中でもよく愛と一緒にお昼を食べている。
「そーんな慌てなくてもいいじゃん。あいあいったらー」
「ぬぐぐ……」
さりげない言葉に、予想以上の反応が返ってきたため、恵は楽しそうだ。
対して愛は、やられた、とばかりに悔しそうだ。
「そ、それで……なに、プールって」
「ふふん……これよこれ!」
気を取り直して、話題を戻す愛。そんな愛に、懐からなにかを取り出した恵は、それを愛の眼前に突きつける。
それは、長方形の紙だ。なんの紙だろう、と目を凝らせば、そこにはカラフルになにかが描かれている。
そこには、プールの割引券と書かれていた。
その紙が、一枚、二枚……四枚ある。
「プールの、割引チケット?」
「そう! 実はこないだ、商店街の福引で当たったんだよ。
あぁその日に、怪人が現れてね。もうだめかと思ったら、レッドが現れて、いやぁあの日は運がいい日だったよ!」
「そ、そう……」
福引で割引チケットが当たり、生レッドに会え、素敵な日だった……と、恍惚とした表情を浮かべる恵。
そんな彼女を差し置いて、愛はチケットを一枚抜き取り、内容を確認する。
まあ内容もなにも、割引券以上の意味はないのだが……
一人一枚、このチケットが使えるようだ。そして、ここにあるのは四枚。つまり……
「私と恵、尊、あと一人か……」
このチケットを当てた恵は確定。プールに行こうと言い出しこのチケットを見せた愛も確定でいいだろう。
となると、残るは……
「あれあれー、アタシなにも言ってないのに、なーに当たり前のようにたけたけを含んでるのかなー?」
「!?」
恵に指定され、愛は再び顔を真っ赤にする。
指摘されて、気付いた。今愛は、自然に尊をメンバーに加えていたのだ。
「ご、ごめん! 私、勝手に……」
そもそも、このチケットは恵のものだ。誰にこのチケットを使う権利があるのか、それを決めるのは恵だ。
だというのに、愛は当たり前のように、尊を加えてメンバーを決めようとしていた。
自然と尊を加えていたこと、勝手にメンバーを追加しようとしたこと……二つの羞恥が、愛を余計に赤くさせた。
「別に怒ってないよ。そもそも、私だってあいあいとたけたけを誘うつもりだったし」
「え……そうなの?」
しかし、謝る愛に気にすることはない、と恵は言葉を返す。
どうやら、初めから愛と尊のことは誘うつもりだったようだ。ほっと一安心するのも束の間、愛はふつふつと別の羞恥が溢れてくるのを感じた。
勝手にメンバーを加えようとしたことは穏便に済んだが。尊を自然にメンバーに加えていたことは、事実なのだ。
やはり恵はにやにやしているし、やってしまった……と愛は顔を覆う。
「んもー、どんだけたけたけのこと好きなのよー」
「ぁうぅ……消えてしまいたい……」
顔を隠しても、耳まで真っ赤なのだからどうしようもない。
「まあ、あいあいがたけたけを大好きなのはわかってたことだし、今更気にしないって。ごちそうさまって気持ちはもらうけど」
「ぐぅう……」
「あいあいの反応を見ているのも楽しいけど……その、本題は、さ。残ったもう一人のこと、なんだよね」
このまま愛をいじるのも一興だ。しかし、恵がこの割引チケットを見せたのは、本題は別にある。
それを口にした瞬間、恵の態度が一変する。
先ほどまでの、愛をからかっていた姿とは違う。手に持っていたチケットを口元に持っていき、顔を隠している。
しかし、頬が赤く染まっているのを、見逃しはしない。
その様子に、愛は覚えがある。
自分自身と、同じ。
「その……さ。アタシと、あいあいと、たけたけと、その……や、山口も、一緒に誘えないかなーって」
「……山口くん?」
恵が口にしたのは、恵、愛、尊以外のもう一人のメンバーについて。誰を加えるか、だ。
それを恵は、すでに決めていた。いや、これから誘うのだから、決めていたというのは語弊があるが。
ともかく、恵にメンバー選択の決定権があり、恵本人が決めたメンバーを誘いたい……ならば、愛に断る選択肢などない。
だが、それはそれとして……この恵の反応は……
(もしかして、恵の本命……!?)
恋する乙女の、反応だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます