第8話 お買い物にでも行こう



 他のヒーローと活動することはある。が、それはヒーロースーツ着用後でのこと。

 スーツを着用していない状態、シラフでの交流はない。誰の中身が誰なのか、性別すらも不明だ。


 もっとも、そのおかげでレッドの中の人を詮索されなくて、済んでいるのだが。


「最近は愛くんがあっちゅうまに怪人を倒していくから、他のヒーローと関わることもないしのぅ」


「ぬぅう……それはまあ、そうなんですけど」


 別に、他のヒーローと密接になりたいとは思わない。だが、同じヒーローをやっているのだから、少しくらい仲良くなっても、とは思う。

 しかし、ヒーローが集まるのは基本、怪人が現れ現場に集まったときくらいだ。


 その機会を、愛自らが踏み潰しているのだから、目も当てられない。


「他にも、ヒーロー集合の場を設けようと思えばできるぞい。たとえば、このメンテナンス時とかの」


「それは嫌です!」


 愛の要望で、ヒーロースーツのメンテナンスは、他のヒーローと時間をずらすようにしてもらっている。

 少なくとも、愛は他のヒーローとメンテナンス時間が被ったことはない。


 ヒーロースーツのメンテナンスなど、今から素顔で会いましょうと言っているようなものだ。だってスーツを着用していないんだもの。

 そんな勇気は、愛にはない。

 まあそもそも、ヒーロースーツのメンテナンスを他のヒーローも一緒にやったら、ヒーロースーツが使えないのでいざというときに出動できないのだが。


 今や、ヒーロー同士で直接会ってあれこれ相談することはほとんどなく、博士を介して話し合うことが多い。

 他のヒーローの声も、通信で聞いたことはある。が、愛のように声を変えている可能性もあるので、性別がわかることはない。


「さて……メンテナンス、終わったぞい。異常なしじゃ」


「よかったぁ」


 一通りのメンテナンスが終わり、ヒーロースーツの問題ないことは確認。


 ちなみに今更ではあるが、ヒーロースーツは物理的なものではない。愛たちヒーローに渡されたスマホの中に、ヒーロースーツのデータがある。

 スマホを操作することで、内部にあるデータが具現化……使用者に着用される。

 そのため、メンテナンス時にはスマホを解析し、異常がないかを調べることになる。


 愛は、博士からスマホを渡される。


「……これ、今更なんですけど……このスマホの色が、赤いのって……」


「もちろん、レッドだからじゃよ」


「やっぱり……」


 安直である。


「ま、いいや。メンテナンスも終わったし、あとはぶらぶらとショッピングでもしよーかなー」


「もっとわしとお話してもええんじゃよ?」


「ノー、です!」


 メンテナンスが始まったのがお昼あたりで、今はだいたい三時間くらい経っている。

 これから少し、ショッピングモールでもぶらぶらすれば、いい時間帯になるだろう。


 愛はそそくさと、帰り支度を始める。


「釣れないのぅ。女子高生ともっとお話ししたいんじゃよ」


「そのセリフだけ聞いたら絶対通報されますよ」


 博士は、だいたいをこの研究室で過ごしている。あまり外に出ることはないらしい。

 なので、博士が人と会うのは、メンテナンス時か緊急の集合で呼んだときなど、そのくらいしかない。

 どのみちヒーロー相手である。


 話し相手がほしいなら、もっと外に出ればいいのに……と愛は思うが、口には出さない。


「じゃ、私帰りますね、博士」


「うむ。今後のシフトについては、追々伝えるからの〜」


「あはは」


 まるでバイトのようなやり取りに、愛は苦笑い。

 バイトで人々を守るために怪人と戦うとは、誰が想像するだろう。


 愛は、部屋を出て、その足でショッピングモールへと向かった。


 ――――――


 休日ともなれば、モールは人で賑わっている。

 お昼を過ぎていても、ある程度の数はいる。油断したら、人に酔ってしまいそうだ。


 家族連れ、恋人同士、友達……いろんな人たちがいる中で、愛は一人、足を進める。


「最近暑くなってきたし、なにか涼し気な服買おうかな……」


 そんなことをつぶやき、やってきたのは服屋だ。

 モールには、階層ごとどころか同じ階にも、複数の服屋がある。ここを選んだのは、ポイントカードを持っているからだ。


 別に、今日これを買おう、と決めたわけではない。

 それに、だ。


「このあとは、尊の誕プレでも見に行くかなー」


 服を眺めつつ、幼馴染である尊への、誕生日プレゼントを探すことも考える。

 尊の誕生日は八月。あと一ヶ月ちょっとしかない。


 それまでに、尊が欲しそうなものをリサーチしておくか。

 その前に、自分で候補を決めておくのも、悪くはないだろう。


「あ、この服かわいー」


 目に入ったのは、白のワンピース。シンプルなデザインだが、こういう清楚系なものに憧れる。

 普段持っている服といえば、動きやすいズボンスタイルのものばかり。怪人が現れたとき、走りやすい服装にしておくためだ。スカートでは走りにくい。


 ちなみに、ヒーロースーツに変身するとき、元着ていた服は、ヒーロースーツを解除すれば元に戻る。

 どういう理屈かはわからないが、そうなっている。


 いつも、ヒーロー活動のことばかり考えていたが……愛だって、女の子だ。

 こういう、ザ女の子、といった服を着れば、少しは尊に意識してもらえるだろうか?


「ん? 愛じゃん、なにしてんだ?」


「へ?」


 尊のことを考えていて、ついに幻聴が聞こえてきたか……そう思ったが、自分に語りかけてくるその声に、愛は振り向いた。

 そこには、幻聴ではない……本物の、尊がいた。

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