第7話 イメージは大事だよね
「あぁー、っつ……頭がふらふらする」
「ご、ごめんなさい……」
頭に包帯を巻いた博士が、壁を修復している。
先ほど、自分の頭が激突したことでへこんでしまった、壁をだ。
まさか、戯れレベルのスキンシップで、体が舞いロケットのように壁に突っ込むとは思わなかった。博士は思った。
新感覚だ。
「わ、私、そんな力強かったですか……?」
「そうじゃなぁ、まるでゴリ……ごっほん!
いやあ、まあわしの体が軽いだけじゃよ。こないだも、急激な突風に飛ばされそうになってのぅ」
「それ日常生活に支障きたしてません?」
正直、愛のことをゴリラだと認識した博士であるが、まさか本人に「お前はゴリラ女だ」などと言えるはずもない。
そんなことを言えば、花の女子高生であると自負している愛は、二度と立ち直れないレベルで落ち込んでしまうだろう。
なのでここは、やんわりとフォローしておく。
とはいえ、素であの力なのだ。多少気を付けてもらわないと、彼女こそ日常生活に支障きたすことになる。
「愛くんや愛くんや」
「なんですか博士」
「いや、あののぉ……愛くんがゴリ……力が強いってわけじゃないんじゃが、ヒーロースーツにはちょいとした作用もあってのぅ。スーツを長く着ておったら、スーツを着てない状態でも、多少身体能力が向上してしまうのじゃよ」
「えっ」
ここは、ヒーロースーツのせいにしてごまかす。
いやまあ、本当にヒーロースーツの影響で、スーツ非着用時にも影響が出ているかもしれないし。ありえない話じゃないし。
あとでじっくり調べて、その上でそれっぽいデータを作ってしまおう。
愛が元々ゴリ……力が強いわけではないのだ。うん。
「スーツを着てなくても、力が強くなってるってことですか? じゃあ……」
「うむ。日常生活に影響があるかもしれん。気を付けた方がいいかのぅ」
「そうですか……やだなぁ、ヒーロー状態ならともかく、普通の状態で尊より力が強くなったりしたら」
乙女として、男子……それも、好きな男の子より怪力にはなりたくないものだ。たとえば腕相撲なんかで、尊を負かしてしまったら、それこそ落ち込んでしまう。
あ、でも腕相撲と称して尊と手を繋げるのはいいかもしれない。
ともあれ、日常生活でも気を付けろ、ということだ。
「ところで博士、私を呼んだ理由って、ヒーロースーツのメンテナンスって話でしたけど……
ちゃんとやってるんですか?」
「なぁにを言うか。やっとるよー、愛くんと話しとる間にも、ちゃぁんとやっとるんじゃから」
本当ならば、休日なので尊を誘って遊びに行きたかった愛だが……
好きな相手を過ごすはずだった時間を今日こうして、小さなおっさんと過ごしているのには、ちゃんと理由がある。
学校がある日だと、放課後しか時間がない。しかし、ヒーロースーツのメンテナンスなどすぐ終わるものではない。
帰る時間が遅くなれば、親に心配をかける。ヒーローをしていることは、親にも内緒なのだ。
そのため、ヒーロースーツのメンテナンスは、学校がない日……休日に、限られてしまう。
「今、たけるちゃんを誘って遊びたかったと考えとるじゃろ」
「え、や、そ、そんな……」
「まぁったく。遊びに誘える勇気はあるのに、告白の勇気はないのかの」
「それとこれとは、話が別です」
今は他愛ない雑談をしているが、当然使用者本人のもいろいろ聞かれることはある。
ヒーロースーツに違和感を感じなかったか。なにかあった方がいい機能はないか。スーツのことでなくとも、ヒーロー活動に当たっての意見。
もっとも、愛については愛も知らないうちに博士に愚痴を漏らしている形になっているが。
そのほとんどが、想い人尊についてである。
「愛くんは、なにか要望とかないのかの? 他のヒーローは、それこそ休みが欲しいとか、ちょいちょい言ってくるんじゃが」
「スーツの色をレッド以外にしてほしいですね」
「それはだめ」
「ちぇ」
なぜか博士は、ヒーローレッドに並々ならぬこだわりがある。そして、レッドを愛が務めることに対しても。
一度それとなく聞いてみたが、レッドは戦隊ヒーローの要。だからこそ、愛にレッドをやってもらいたいのだと。
その理由が知りたいのだが、それ以上ははぐらかされてしまった。
レッドが要なのはわからなくもないが、ならばこそレッドは男の方がいいだろうに。
「他にレッドやりたい人、いるんじゃないんですか? ブルーさんとか、グリーンさんとか」
「二人とも、レッドは男の中の男だと思っとるから、そんな意見はないのぅ」
「げぇ」
他のヒーローも、レッドの正体を知らない。愛も、他のヒーローの中の人が誰なのか知らないので、まあおあいこではある。
男の中の男……やはりレッドというカラーは、そう見られてもおかしくない。
愛だって、ブルーやグリーンの中は、男だと思っている。ピンクはもちろん女の子。イエローは、どっちとも取れる。
しかし愛自身、レッドイコール女な自分なので、他のヒーローの中の人はイメージと逆の性別である疑いを持っている。
そんな中で、ピンクの中の人がむさいおっさんだったら……と考えると。イメージぶち壊しだ。
愛でさえ、そう思うのだ。なにも知らない、レッドイコール男と思っている人間が、レッドイコール女だと知ったら……
すごく、がっかりさせてしまうだろう。
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