第6話 はじめてのお使い~コスプレイヤーと出会う~

 『そういえば、池袋は行ったの?』

 僕が電車に乗り込み『今から帰るよ』とメッセージを送ったところ、ママからそう返信がきた。

 『池袋?』

 『そうそう、池袋は女性が中心にはなるけど“オタクの聖地”って言われているのよ。それに、池袋って面白いイベントも開催しているし行くといいかなって』

 『……あ、ここから近いんだ。わかった』

 『あ、同人誌とかいいからね!同人誌とか!』

 『??あ、わかった』

 “同人誌”ってなんだろ?

 僕が知るのは数時間後だった。

 


 池袋。

 秋葉原とは違い––色々な意味で若い人が多く、コスプレ紛いな恰好している僕は完全にアウェーだった。

 「やば……」

 ピンク色のパーカーな分余計に浮く。

 でも、着替えはロッカーに入れちゃったし……。

 「もう、どうにでもなれ……!」

 僕は意を決して––池袋サンシャインへと気持ち早く歩き出した。


 歩き出して数分もしないうちに通りが見えてきた。

 そこにはゲームセンターやアニメグッズのショップ等のオタク向けの店舗から映画館やカラオケ等の“若い子”が通うであろう場所が点々としている。

 「へぇ……なんか、ここは怖いな」

 今歩いている場所は“メインストリート”と呼ばれる場所で若い人だらけで怖すぎる。

 別に皆が皆僕を見ている訳じゃないけど……引きこもってた僕からすると「この人なんか凄い色のパーカーきてるぅ!うけるぅ!」って思われていないか不安なんだよね。わかるでしょ?

 でも……そんな人混みの中に––コスプレをしている人が何人も見えた。

 「え?」

 思わず声が出てしまう。

 人混みの中に、原〇、Vtuber、あんス〇、ブル〇カ……色々なコスプレしている人が見えたんだもん。

 この通りには––異色だけど、光輝くような素敵な人達すぎる。

 そんな人達は良く見ると通りの向こう側……サンシャイン60から歩いてきているのが見える。

 「ちょっと行ってみようかな」

 ……ほんの出来心だった。

 でも、これが僕の運命を更に加速させる。


 

 「わぁ!凄い…!」

 サンシャイン60の方に歩いていくと公園が見えてきた。

 その公園は––都心のオアシスのような木々に囲まれた公園だった。

 そんな公園の中や外で多くのコスプレイヤーが写真を撮ったり、喋っている。

 この光景は……祭りでも見られない異様さだ。

 「……え!推しのコスプレ…!?」

 僕の中でどんどんと熱くなるような、広角が上がっちゃうような高揚感がある。あ、変態じゃないです。

 でも、凄くこの光景が凄く嬉しくてたまらない。

 興奮した時とかって言葉にしにくいでしょ?それ。


 ただ、後々知った事なのだが【参加者以外の撮影はNG、会話もNG】みたいだ。

 でも、そんな事も今は知らない僕は––このコスプレイヤーの渦に入っていく。

 うん、本当に変態じゃないですよ。怖いもの見たさみたいなやつ。


 だってさ!だってさ!推しのコスプレいたら見たいじゃん!!!!


 「うん……この空間好き…しゅき」

 ……本当に変態じゃないですよ。

 ただ、好きなVのコスプレ、ウマ〇のコスプレ見て嬉しくなってるだけ。


 「こんにちは~」「あ、こら!」

 「え?」

 完全に口角を上げて油断している僕の背後から––何かを握られているような感覚と一緒に挨拶が投げかけられる。

 「このコスプレって男性化したナリタタイ〇ンのコスプレかな?身長はそこまで高くないからそうなのかな?……髪も似てるし、耳や尻尾なんてリアル。あ、でも尻尾は少し違う…??」

 「でも、この耳なんて凄くモフモフ!」

 2人のコスプレイヤーが何も断りもなく触ってくる。

 「ちょ!ちょっちょ!!!」

 元々口角が上がっていたからか、くすぐったいはずなのに変な声が出た。

 そんな僕を見て「どうしたの?」と2人はキョトンとしている。

 いや、僕が悪いのか?……あ、でもつい油断して耳と尻尾出てたのか。

 「あー、えーっと、えー……んー」

 ヤバい、コミュ障だ。

 というか、こんな人種知らない!ママ助けて!

 そんな慌てている僕を見てからか、2人は慌てだす。

 「大丈夫?少しビックリしちゃった?」

 「とりあえず、そこのベンチで休みます?開けていない水あるので」

 未だに視線がグルグルとしている僕の手を2人は取って、引っ張り、ベンチに座らせた。

 

 座った後、頂いた水を1口飲み––気持ちを落ち着かせた。

 でも、ここで耳と尻尾をとじるとバレるので出しておこう。

 「すいません」

 でも、コミュ障の僕の言葉はコレが精いっぱいだった。

 そんな僕を見て、2人のコスプレイヤーは「いやいや」とハモった後言葉を重ねる。

 「あんなイキナリ触ってきたらビックリするのは当たりまえですよね。すいません。ほら、つばめ謝って」

 「ごめんね」

 「あ、大丈夫です。僕が勝手にビックリしたので」

 僕は再度水を口に含み––視線から逃げるようにスマホに目を落とす。

 『おーい、パンツは買ったかの!?』

 スマホを開いた瞬間に––神様からのメッセージに水を吐き出す。

 幸い、2人にはかからなかったから良かったんだけど……この神様は本当に神様なのか?毒されてない?

 『買うわけないじゃん』

 そう返信して、スマホを裏返しにする。

 すると、2人は「あ!」と僕のスマホに目を向けた。

 

 「もしかして、このシール……この子好きなんですか!?」

 「というか、よく見たら他のVの待ち受けでしたよね!?箱推しなんですか!?」

 「わかりますよ!この子の配信面白いですよね!“アイシテル”って片言でいったり、“バーカ”って可愛い声で言ったり!!何ですか!あの天使!」

 「この子知ってます!?最近デビューしたんですけど、凄く人懐っこくて可愛いのに飲酒したらクールになるんですよ!?」

 ……あ、オタクってこんなに自分と同じ匂いを感じると饒舌になるんだ。僕もそうなのか?

 というか、今わかったんだけどこの2人のコスプレは片方が僕の推しウマ〇のコスプレだし、片方は好きなVtuberのコスプレだ。

 それに、全てに気を使っているようで本物そっくりだった。まあ、本物を知らないんだけど。

 と、というか……話が止まんない。

 「と、とりあえず落ち着いてください!」

 「「あ」」

 僕が止めないと1時間以上話してきそうなので止める––だって、この2人の顔が“同志よ!”って感じでグイグイ近寄ってくるもん。

 オタク語りを中止させられ最初は不満だったようだが、初対面の人に話す熱量ではないと悟ると「ご、ごめんね」と謝罪した。

 「私達、実は初めてこんなイベントに参加して……つい興奮しちゃいました」

 「っていうか、お兄さん?かな。この耳と尻尾どう作ったの?あったかいし、毛もリアルなような……」

 そう言って、片方のコスプレイヤーが再度触る。

 それを、もう一人のコスプレイヤーが「こら!」といって制止させる。


 「ごめんなさい。実は私達姉妹で私がすずめと言います。コスプレの衣装を作ったりしてるんです」

 といって、名刺を渡してくれた。

 すずめさん……推しVのコスプレしてる人ね。わかった。

 

 「私はつばめ!小道具とか作ったりしてるんだけど、まあ何か色々としてる!」

 ともう一人……僕の推しウマ〇のコスプレしている子も名刺をくれた。


 「あ、ありがとうございます。僕……名刺もってないです」

 というか、名刺の文化ってなんだ?

 コスプレイヤーにも色々な文化があるんだろうか?

 「あ、ならSNSのアカウント教えて!」

 つばめさんの方からそう言われたので––まだ本格的に稼働していない“いぬ丸”のアカウントのIDを見せた。

 2人は直ぐにフォローして「じゃ、コスプレ今度しましょ!」と言ってくれた後––カメラマンに撮影を頼まれて、離れて行った。


 「ふーん……」

 2人のアカウントを覗き、コスプレの写真を眺め––耳と尻尾をバレないように隠した。

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