第5話 はじめてのお使い~アキバのPC~
“ジャンクストリート”という秋葉原の奥地。
……といっても、そこまで怖い物が売っているということはない。
ゲーミングPCからジャンクPCまで様々なPCやスマホが販売しているのだ。
「んー……この辺りっぽいんだけどなぁ」
推しの服に近い服装に身を包んで––気持ちはふつふつとこみ上げるものがあるが、頭は冷静じゃないとダメだぞ、僕。
普通、家電量販店等は大きな通りに面していたり大きな看板を掲げている事が多いんだけど……秋葉原ってその常識があまり通用しないんだって。さっきの洋服店の店員さんが言ってた。
「あ、ここか」
目的の店へと着いた。
徒歩で約3分もかからない場所なはずなのに、何度も店の前を通りすぎて認知するのに10分以上はかかってしまった。
あ、でもよく見ると有名なVtuberさんのサインやパネルあるじゃん。
「…す、すいませ~……」
コミュ障あるあるの語尾落ち挨拶で反応を見る僕。
店内は明るく、落ち着いたBGMがうっすらとだが流れている。
「いらっしゃいませ」
店内へと入ってきた僕の姿を見るやいなや、店員と思わしき数名が僕の方へと挨拶を交わす。
その挨拶が……凄く怖くさせる。だって、怖くない?さっき、駅からここまで歩く時に「絵はいりませんか~?」ってポケットティッシュを配ってるような人に渡されたから受け取っただけなのに「じゃあ、店にきて」とか言うんだよ?…まあ、何とか逃げてこれたから今は大丈夫なんだけど。
「えっと……パソコンの事で聞きたいことが…」
思い出をフラッシュバックさせてしまって混乱状態なのに「冷静であれ!」という脳内信号が––よく考えりゃ“そりゃ、この店くるってことはそうだろ”とツッコミをされる言葉として発してしまった?させちゃった?
しかし、店員はそんなツッコミはせずに––
「どんな用途でお使いになる予定ですか?」
明るく、僕に答えてくれた。
「えと……配信用にパソコンを買ったんですけど、周りが型落ちで動作がスムーズかわからないと言われまして」
「なるほどですね。そのパソコンのスペックとかってわかりますか?」
「え!?ス、スペック!?……んー……んー…?……わかんないかもです」
ママも神様も何も言わなかったから簡単に済むと思ってた。
店員は少しだけ考えた後、「1つ提案があるのですが」と前置きしたうえで話し始める。
「ご予算次第にはなると思いますが、わが社の提供している“配信者向けパソコンパック”というのを購入するのはいかがでしょうか?現在使われているパソコンで動作に不備がないのであれば、閲覧用だったり、ゲーム実況を録るパソコンだったり違う用途で使用してみると良いかと。お客様のパソコンに増設という事も可能かもしれませんが、詳しい者がいないとパソコンが起動しなくなる可能性もありますので」
さ、さすが店員さん。上手い。
でも、僕も負けてられない。
「でも、お高いんでしょう?僕、他にも機材が必要で––」
「お任せください!」
店員が僕の声を遮ってきた。
しかも、店員は更に畳みかけてくるように僕の目を真っすぐにみる。怖い。
「今回、特別価格として“配信者にとって必要なミキサー、ゲームキャプチャー等”もセット価格に入っています!!さらにさらに!!!今はあの有名Vtuberさんのイメージを模したPCケースに入ってお届けですよ!」
「ま、マジですか!」
……そう、あまり興奮しすぎると良くないと思っていたんだけど……店頭に置いてるパネルの1人……推しなんだよな……。
「実は限定販売でもう1台しかないんですよね~……それに、お客様ってこのVtuber好きなんじゃないですか?」
「え!?」
「あまり良くないとは思いましたが、スマホの裏にその方のステッカー貼っていますよね?」
「洞察力凄い」
「いえいえ、どうも。さっ、どうしますか?」
にこっと笑顔で店員が最終判断を委ねてくる––スペックも店員さんが言うには「十分なスペックで不自由はない」と言っているし、推しと一緒にいれるし、機材も揃える…か。
「か、買います!!」
断る理由なんてないよね。
「PCケースは誰にしま––」
「この子で!!!」
店員は少しビックリした後「ありがとうございます」とお礼を言って、店内奥へとパソコンを取りに行った。
ただ、パソコンって手で持って帰るのには重すぎる。
そのため、後日配送をすることにした。
「本日はありがとうございました。配信活動されるんですよね?頑張ってください!」
皆にも言っているかもしれないけど、笑顔の店員を見て「がんばろう」と少し思えた。
しかし、思った以上にとんとん拍子に買えてよかった。
出費は凄いけど……まあ、先行投資だと思おう。
「あとはお土産かな?それと、聖地巡礼!」
そう言って、僕はまずはあのアイドルアニメの聖地へと足を運んだ。
男坂からの本殿……足が痛くなるけど、これをあのアイドル毎日してるって化け物すぎる。
まあ、その後何か面白いことがあったとかはないけど––普通、ウマ〇のキャラの服装に似ている格好しているオタク男子が神社で一人キャッキャしてたら不審に思われるかもしれないけど……さすが秋葉原だった。
それに、やっぱり神社は良いなって思えた。
「この空気が澄んだ感じ……またあの時みたいにならないかな」
そう呟き、近くにあったベンチに座ってから神様とママに『買うもの揃えたよ』とメッセージを送った。
そして、もう一つメッセージを送った。
『秋葉原に来たし、何か欲しいのある?』
神様のお金だとはいえ––お世話になっている人にお礼するのは当たり前だもん。
そんな、僕の善の心を無下にするかのように、数秒後2つ返事が返ってきた。
『メイドのパン〇』『推しVのグッズ全部』
……聞いた僕が馬鹿だったと思うので、駅前にあるラジオ会館の中にあるVの特製ジュースとお菓子、神様には前に流行った高校軽音部のメイド服メンバーのフィギュアを購入した。
「さて、これでいいかな?」
そう呟き、秋葉原駅の改札へと足を運んだ。
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