第7話 はじめてのおふかい?

 「んー、池袋ってすげぇ」

 コスプレイベントの会場を少し散策した後、僕はサンシャインシティ内を散策することにした。

 サンシャインシティには有名アニメのグッズショップが何店舗かあり––見ているだけでも面白く、限定商品なんてのどから手が出そうだった。

 そして、テーマパークがあったりして“池袋で事が全て済む”なんて思わされる。

 しかも、サンシャイン通りの方には中古のアニメグッズや日本で一番大きいであろうアニメショップがあった。

 「行きたいけど…こ、今度いこうかな」

 コスプレイベントを行っているということは……そこは戦場になっているかもしれないし。

 あ、ならママに言われた場所に行こうかな。

 僕はスマホでママに場所の住所を教えてもらうことにした。


 「……ココ?」

 そこは複数点在している中古アニメグッズショップの一つで大きく“同人館”と書かれていた。

 しかも、よく見てみると女性しかその店舗に入っていかない。男性は?

 「……」

 僕のコミュ障が更に加速させる中––ママの注文もあり店内へと入ることにした。

 店内は今まで巡ったお店とは違い、静かで––詩人が自分にあったペン(武器)を探すかのように吟味する––女性しかいなかった。

 「…………」

 僕はその場の空気を読むかのように……静かに店から出た。

 そして––

 『ママ!!変なとこに連れて行かないで!!!!!』

 『え…?聖書だよ?というか、オタクなら通ってる道かと』

 『知らないよ!!!』

 『えー……まあ、最初はソフトなものからっと。あ、今度私が描いた漫画やイラスト見せるね。神様は喜んでたよ』

 ……どう返事すればいいかわかんないので、僕はスマホをポケットにしまった。


 ブー、ブー。

 ポケットを閉まった瞬間に音が鳴る。

 着信音はあまり好きじゃないので常にバイブレーションにしているのだが、神様とママは定期的に来るので違う着信音(振動)にしている。

 ……なので、この振動は誰なんだろう?

 僕は早速閉まったばかりのスマホを再度取り出し––通知画面を確認する。

 

 『やっほー!さっきはありがと!まだ池袋にいるかな?』

 

 さっきのコスプレイヤーの片方、つばめさんからDMが届いていた。

 僕は一瞬誰か忘れていたが、耳や尻尾に残る感触が思い出させてくれた。

 『まだいますよ。どうしました?』

 そう返事を送ると––数秒で返信が帰ってきた。

 『んにゃ、今着替えを終わってイベント会場から出ようと思うんだけどお腹空いちゃって……一緒にご飯でもどうか?ってお姉ちゃんが』

 『え?』

 『せっかくのご縁だし~とか色々と言ってるけど、友達が欲しいんだとおもう。人見知りだから』

 『……同じですねw』

 『同じ匂いを感じたんだと思う!まあ、私も改めて謝罪もしたいし、耳とかどう作ってるか聞きたいからさ!』

 『えっと、どこに行けばいいんですか?』

 『あ、えっとね––』

 多分、今までの僕なら断ってたんだろうけど––池袋というのは何かを変えるんだろうな。それに、ママのせいかもしれない。

 だってさ、目についた表紙が……。





 「あ、いたいたー!……って、メイクやウイッグは外しな?」

 「わざわざありがとうございます」

 モヤモヤした感情を持ったまま––集合場所へと来てしまった。

 それにしても、この2人は似ている気がする。まあ姉妹ならそうだけど。

 「あ」

 「え?」「ん?」

 僕の声は途切れる––今思ったけどコミュ障だぞ?何話せばいいんだ?というか、

どこからどこまで話せばいいんだよ。

 「え、えと……ご飯はどこに?」

 「あ、じゃあ行きましょうか」

 何かを察したかのように、姉のすずめさんは先導して店へと案内してくれた。

 

 池袋というのは色々なお店があるんだけど、その中で姉妹は半個室のお好み焼き屋を選択した。

 まあ、その方が話せるってこと…?

 「お酒飲まないと!」「飲もう!」

 あ、そっちか。姉妹のはっちゃけ具合に少し緊張が解けた。

 「じゃあ……適当に頼んで大丈夫?」

 妹のつばめさんが僕とすずめさんの顔を見ながら適当にタブレットで注文を行い––飲み物は各自選んで頼むことにした。

 つばめさんは酎ハイ、すずめさんはビール、僕はコーラ。

 「え?飲まないの!?」

 注文を終えた僕を見て、つばめさんの驚き––それに、僕は驚いた。

 まあ、飲めないことはないけど醜態は晒したくないし。

 

 数分もしないうちに、ドリンクが運ばれてくる。

 それを各自の目の前へと店員が配置してくれ––僕らは乾杯した。

 普通に思うけど……どんな心境なんだよ。僕。

 「こ、こんな混ざっちゃっていいのか…」

 まあ、そうだよね。

 ちょびっと飲んだコーラを自分の右側へと置き、一気に飲み干そうとしている2人を見た。

 「…っかぁ!!!一仕事終えた後の酒は美味い!」

 「生き返るってこのことなんだ~!」

 彼女達の普段の生活が少し見えた気がする。社会は怖い。

 そして、すぐさま2杯目を注文しようとタブレットを覗く2人は話し始める。

 「一期一会ってこと。もちろん、合う合わないもあるし一目見ただけでダメって思う人もいる。でも、別に嫌じゃなかったし!そのコスプレのクオリティとかの話も聞いて勉強したいじゃん?」

 「もちろん、私達が嫌なら別ですよ?でも、来てくれるってことは嫌じゃないってことですよね?安心しました」

 なんか、若い人あるあるかもしれないけど事の進み方がラノベじゃ。

 「ま、まあ」

 そして、気の利いた返事もできない僕もダメじゃ。




 そこから店員が持ってきたお好み焼きの元を焼きつつ軟骨から揚げ、イカの一夜干し、ホッケの開きをつまんで話をする。

 「とりあえず、さっきの事はごめんね。大丈夫だった?」

 「だ、大丈夫」

 「ん?緊張する?別にしなくていいのに」

 「いやいや、無理でしょ!」

 「え~?あの箱のVtuberも言ってたじゃん。“エロマンガみたいな事期待した方が面白い”って」

 「ま、まあ、あの子はそんな事言っても実はウブなんですけど」

 「そうそう!男性Vにガチ告白っぽいことされた時見ててもわかるくらいテンパってたもんね」

 「そうそう、またそこが可愛いんですけどね」

 「わっかる~!……あれ?姉ちゃんもその子好きだよね?」

 「好きだよ~?」

 「じゃあ、今度コスプレしよ!えっと……私があの子のコスプレするから」

 「うん、いいよ」

 ……こんな感じで次のコスプレが決まったりするのかな?

 というか、この2人酒飲んでるのに顔色変わんないの凄いな。僕は飲んで直ぐに赤くなるのに。

 

 「というか、今更だけど…なんて呼んだらいいの?」

 つばめさんは今まで姉と話していた矢印を僕に送ってくる。

 僕はいきなり来るとは思わず––飲んでいたコーラを少し零してしまった。

 「……えと、“いぬ丸”って呼んでくれれば」

 「OK!」「わかりました」

 姉妹の返事は違うけど、どっちからも悪意はない素直な返事が聞こえて少し心地よかった。

 

 そこからは、つばめさんを中心に色々な事を聞かれた。

 ・好きなアニメ

 ・好きなVtuber、最推しは誰か

 ・コスプレはどのくらいしているのか……etc

 箇条書きにすれば少ないけど、1つ1つが長く話していた。

 ……特に後半の方は答えに困ったけど。

 コスプレに関しては「していない」と答えると––「耳や尻尾は?」「確かに髪色違う」「もったいないじゃん」……本当色々な変化球や直球が来て答えに困った。

 なので、僕は助け船を求めることにした。


 『神様いる!?』

 『ほえ?な、なんじゃ?買ったか!?』

 『それはないけど、困ったことになったんだよ––』

 事の経緯を全て話した。

 興奮して耳や尻尾が出た事、バレたこと……全て。

 すると、神様は『ほむほむ』と考えている様で、考えていない言葉を書いた後––


 『まあ、いいじゃないか?全て話しても。おぬしもわらわもそれで何かが劇的に悪い方向には転換しないじゃろうし。……いぬ丸の今日の占いでもそうだったじゃろ?』


 そう言って、了承を出した。

 いや、神様は別に現世にいないから良いけどさ……僕はここにいるんだよ。

 『ま、ま。わらわに任せなさい。今目の前におるんじゃろ?』

 『う、うん』

 『なら、通話機能を使って話そうぞ』

 そう書いて数秒もしないうちに、着信がなる。

 

 「おー!いぬ丸が動いとる!!はっはっは!面白い!」

 「ちょ!」

 「あ~、面白い!…あ、そうそう……いるんじゃろ?」

 「う、うん」

 「わかった」

 神様こと––猫神まろんが姉妹に見えるようにスマホの画面を動かす。

 姉妹は「え?なに?」という言葉を言いつつスマホの画面を凝視する。

 猫神まろんは配信と同じような可愛らしい姿を見せながら自己紹介を始める。

 

 「わらわは猫神まろんじゃ~!この世界で崇拝してくれる者を探しておりゅ~!!おぬしらはわらわに忠誠を誓うかの?誓えばたちまち幸せじゃ~!」


 少しだけ間が空く……神様も「え?」って言ってるようだが、この責任は神様に取ってもらう事にしよう。

 「「かわいい!!!!!!!!!!!!!」」

 姉妹は画面に近づいた後、大声を上げた。

 

 「「うるさ」」

 ……はじめて僕と神様が同じ感情を持った瞬間だった。




 そこから、神様が僕に変わって色々な説明をしてくれた。

 まあ、その間に肩の荷が下りた僕は––カルーアミルクを頼んだ。

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