第2話 設定という名のマジ卍

 「ふぃー……こんなこと配信者毎日してるんだなぁ」

 勝手にダウンロードしていた“必要そうなソフト”の一つ一つを起動しては設定を繰り返して––今は22時を回っていた。

 「とりあえず、ご飯でも食べておこうか」

 誰もいない部屋の誰かに問いかけるように呟き、台所へと足を運んだ。

 正直、この設定がどう作用するのかわからない。

 でも、適当に調べて出た設定の通りにしたから多分大丈夫だと思う。

 「お、ラーメンがある」

 そんな自問自答をしながら開けた冷蔵庫には生麺タイプの味噌ラーメンが入っており、もやしとキャベツが添えられていた。

 「……ママの仕業か」

 極力は野菜を食べない僕の健康を気遣ってくれるのは嬉しいけど……キャベツ1玉って……。

 

 「うー…食いすぎた…」

 元々もったいないと何でも口にしている僕なので––キャベツマシマシなラーメンを食した。

 麺は伸びきっていたけど、何か優しい味がして意外と美味しかった。

 でも、これじゃ動けないや。

 僕は食べ終わった食器を机の上に置き、パソコンで好きなVtuberの過去動画を漁ることにした。栄養補給は目からもしないとね。

 「あ、そういえば……“募集”みたいな動画あったよな……」

 ここ数日、暇なのに忙しかった僕のスマホに数件通知がきていた。

 その中に––今見ようとしている動画があったわけだが……。

 

 どこの世界、どこの媒体でも大体“サムネイル”という表紙みたいなものがある。

 配信者、Vtuber、ボカロP……どのジャンルでもこのサムネイルというのは重要で再生回数やコメント、登録者の増加に紐づくはずなんだけど––

 「真っ白なサムネイルってミスったのかな?」

 あまりにも不自然な白で驚いた。漂白剤でもこんなに白くならないだろってくらい。

 いや、あのアンミ〇さんみたいに「何百種類もあるんやで~?」とは言わないけどさ。

 しかも、よく見てみると白の背景に白文字で何か書いている。

 「……いや、読めないわ」

 目が痛くなりそうだから、僕は読むのをやめた。

 でも、気になるので再生ボタンを押す。


 再生された動画には––普通にいつも好きなVtuberがフワフワと動きながら雑談をしていた。

 「今日は来てくれてあんがと~」

 覚えたてのエモートを駆使しながら、視聴者に手を振るVtuber。

 ママからモデルをもらってからVtuberについて調べてみたんだけど、3Dモデルで話す子と2Dで話す子がいるみたいだね。

 歴史をそこまで詳しく調べてないけど、昔は3Dが主流だったけど……“アニメ調で表現力の高さを見せる事ができる”って理由かなんかで今は2Dが主流っぽい。

 だから、僕も今見ている子も2Dなんだけど。

 そんなことを––笑顔で「今日あった事」とか「食べた物」とか他愛のない話をしてお茶を濁す彼女の動画を見て思っていた。

 

 そういえば、このVと出会ったことは“運命”というと気持ち悪いけど……事実だ。

 「記憶喪失から記憶を取り戻す旅……皆と何かをつくる…」

 全てではないけど自分との同じ匂いを感じ––しかも、僕の好きなアニメのキャラっぽい見た目してるし。性格は違うけど。

 だから、再生数はそこまで高くないVだけど……ついつい見てしまう。

 

 そんな自己嫌悪なのか何なのかわかんない感情とダンスを踊っていた僕の耳に––声が聞こえてくる。

 「おーい、いぬ丸君いるんでしょ?」

 ……は?……僕の名前を呼んだ?動画じゃないの?

 「この動画見てるんでしょ?」

 その声は好き通った声の少女で……色気のあるママとは違う声色。

 それに、何か裏が潜んでいるようなゾクゾクする声だ。

 「んー……怖い?怖いよね。でも、怖がらなくて大丈夫だから!この動画、君にしか見えてないと思うんだよね~?再生数0だったでしょ?」

 「……」

 パソコンの先にいるVの表情が少しづつ顔を真面目に変えていく。

 「まあ、再生回数とか見てないか。一応言っておくけど、この動画は君にしか公開してない。だから安心してみて欲しい」

 「……ほ、ほお」

 心臓が早くなる、体の全てが寒くなっていく感覚とラーメンが上がってきそうになる。

 そんな僕の状況までも察知したかのように––少女Vは数秒の間を置いて話を始める。

 「とりあえず、転生もできたみたいでよかった。あと、隣に住む人……凄いでしょ?あの人は君の事を大事にしてくれるだろうから大事にしなよ?」

 「え?何で知ってる?」

 動画に返事するのって傍目から見ると滑稽だよな。

 でも、それくらい“見透かしている”という口調が僕を焦らせる。

 少女はそんな焦りまくっている僕を計算していたかのように––動画内で笑う。

 「あは!そっかぁ~……いぬ丸は私の顔わかんないもんね。ごめんごめん。先に言えばよかったねぇ~」

 少女は咳払いをしたのち––自身の事を話しだす。

 

 「久しぶりだね。私はあの神社の神様だよ~?今はこうやってバーチャルの姿になっておるけど……快適じゃのぉ~、可愛いし~!それに、いぬ丸や。この姿に見覚えはないのか?」

 「……んー、好きなアニメの子としか……」

 「はは!まあ、そうなるよねぇ!いぬ丸はショートの低身長な子が元々好きだったからなぁ」

 恥ずかしい。

 ってか、なんだよこの羞恥プレイ。


 神様と名乗る女性Vは見透かすように更に言葉を重ねていく。

 「まあ、いいさ。とりあえず元気そうでよかったわ。“いぬ丸”って名前何か可愛らしいけどママさんがつけたのかな?ママさんセンスあるじゃん!」

 「い、いいでしょ!?」

 中二男子みたいな返答しかできない。

 「はっはっは!とりあえず、記憶も少しは整理できたようだし良かった!……まっ、早速じゃが、私と君はある意味一度死んだ身じゃ。転生できた君には目標を立ててもらおうと思ったが……ママさんと同じ目標だったので割愛しよう。とりあえず、わらわはバーチャルでしか生きられぬ。だが、こうやって電波を飛ばすことや“えすえぬえす”という奴で通信ができる。だから、安心せい」

 「ほ、ほぉ~?」

 「情報の整理っていうのは難しいもんじゃからなぁ……とりあえず、その獣の耳に入ってきた言葉を頭の片隅に置いておくといい––」

 神様と名乗る女性Vは前置きをしたのち言葉を発する。

 その言葉は少しだけ難しかった。


 「わらわが“神様”としてソナタと同じ世界に降り立つことは可能じゃ。わらわの記憶や力を備えることが可能な……うぬ、可愛らしい女性がいいな。可愛い女子!その子が全てを受け入れ、そして仕える場所ができた際には同じ場所にいれるぞ?ただ、代償とかはあるかもしれぬから気を付けてくれ」


 言葉の全てを理解するのは難しいもんだ。

 でも、何でこんなにも嬉しいんだろう?高揚していく自分がいる。

 

 「とりあえず、この動画はきっと最後はドラゴン〇ールの禿げ頭のやつがよく使う技みたいになるから気をつ––」

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 言葉が終わる前に、パソコンの画面は出力限界を超えた真っ白な画面と音を鳴り響かせた。

 僕はそんなGが出た時以上の叫び声をあげて逃げた。

 

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