プロローグ 2
少年の顔に商人の唾がかかる。よほど興奮しているのだろう。
すると衛兵の一人が商人の方へ向いて尋ねた。
「あなたは野良犬に餌をやっているのですか。法令では野良犬に餌を与えると罰金三十万バレル。もしくは禁固5年以下の実刑がつきますが」
ぎょっとした商人が慌てて訂正した。
「衛兵さん、これは物の例えで私は今まで野良犬に餌なんぞやってません!ほら、早くこの汚いねずみを牢屋に放り込んでください…!」
衛兵は商人の顔をじっと見つめている。商人は余計なことを言ってしまったと冷や汗をかいている。
衛兵は『聞かなかったことにしよう』と言い残して、少年を連れて王宮に向かって歩いていった。。
商人は嫌な汗をぬぐって安堵の表情を浮かべていたが、気を取り直して商売の続きを始めようと店に戻る。
少年が盗もうとした果物は当然のように廃棄された。
野次馬が次々と解散されていく。
赤ん坊を抱えた母親らしき女が、不機嫌な商人の横を通り過ぎた。
(赤ん坊なのに白髪なんて…やっぱりおかしいわ)
腕に抱えた赤ん坊をちらりと見た女は忌まわしい者を見るかのような目で、赤ん坊を見る。
同じ組織に所属している同志に知られてしまったら何といわれるか分かった物ではない。それこそ異端者として手打ちにされてしまうかも。
そんな予感が女に焦りをもたらした。
(この子を急いで引き取ってもらわないと…!)
女は王国が運営する託児所に子供を預けるつもりだ。
異様な子供とはいえ腹を痛めた我が子だ。
そこに【愛情】はないが、【同情】する余地くらいはあるはずだ。
女のほんの少しだけある良心から、我が子に手をかけずに王国に預けしまって自分の知らないところで育ってくれればいいとすら思っていた。
女の異様な雰囲気に感づいたのは先ほどの衛兵。背の小さいほうの衛兵だった。
「そこのお母さん…ちょっと」
「…!!今は急いでいるので!」
そう言い残すと女は早足に去って行ってしまった。
呆気にとられた衛兵は女の後ろ姿を見守ることしかできない。
「何かあったのか?」
スラっとした背の高い衛兵が心配になったのか声をかける。
「ううん、なんでもないよ。それより早くその子を」
今抱えている子供はまぎれもなく犯罪者だ。
見つかってしまっては下手に事が大きくなりかねない。
面倒事も子供が貧困に陥り犯罪者として世間に周知されるのもこりごりだ。
衛兵二人は脇に抱えた子供を連れて王宮内へは入らず、路地裏へと姿を消した。
悠久の時も久遠の闇も、黎明の光と共に君が照らす たけまる @Takemaru1for
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