悠久の時も久遠の闇も、黎明の光と共に君が照らす

たけまる

プロローグ

プロローグ 1

最新鋭の望遠設備を誇る王立天文台。

きらびやかな装飾に質のいい椅子、立派なステージを構える王立劇場。

ヴェントゥス王国の城下町は貴族が出入りできるよう上質な街づくり、金銀をふんだんに使った街作りをしている。


外れにあるスラム街。

王宮から見下ろせばきらびやかな街とは違って輝きのない下町だ。

ここヴェントゥス王国には階級制度が厳格に取り仕切られていた。


貴族・平民・スラム街の名もなき人達。


今日も一日が始まる。

ある人にとっては退屈で変わらない日常。

ある人にとっては商売で稼ぐ日。

ある人にとっては食料にありつけるかどうか瀬戸際の日でもある。






~ヴェントゥス王国・城下町の広場~


商人が手を叩いて客を呼び込んでいる。声を張り上げて道行く人々に商品のアピールをしていた。足を止めた貴婦人と商人は話し始める。

”身に着けている宝石が素晴らしい”とか”○○さんの旦那さんが浮気している”とかそんな類の話だ。


商人の出店を路地裏からこっそり覗く少年。

運よく商人は貴婦人との話に夢中で店から少し離れた場所にいた。

少年はぼろぼろになった服で足を引っかけないよう気を付けながら慎重に店に近づく。

今日の晩飯にありつけるかどうかだ。是が非でも手に入れたい。


慎重に歩を進めた少年は何とか出店の商品に手が届くところまで近づくことが出来た。リンゴ、ミカン、バナナと手に取って服の中に押し込んだ。


”あっ”


破れた服の間から盗んだ果物が零れ落ちそうになるのを間一髪防ぐ。

鼓動が早くなるのを感じた。

ふと足元を見ると、腹を空かせていそうな猫がいる。


≪ぼくにもなにかちょうだい≫


そんな声が聞こえてきそうなほど、猫の目から訴えかけられていた。

仕方なくもう一つ、猫の分の果物を盗もうと手を伸ばしたその時。


「なんだぁお前は!」


手首を男の手が捕まえている。先ほど見た商人だった。

逃げられそうにもないほど力が強く、振りほどこうにも振りほどけない。


「衛兵!!こっちに来てくれ!薄汚い泥棒がいるぞ!!」


少年はまずいと感じた。盗みを働かせた仲間が帰ってこなかったことは幾度もあったからだ。このままでは自分も…


「は、離して…!」


少年は体に隠した果物などお構いなしに身をよじらせて抵抗した。隠していた果物が床に落ちる。


「なにが離してだ!この汚いドブネズミめ!!」


商人の男は少年の首根っこを捕まえて地面に押し付けると、少年の背中に座り込む形で圧し掛かった。

商人の体重は見るからに100キロは超えている。少年は成すすべもなかった。


騒ぎをかきつけて近くにいた人々が野次馬になって周りを囲んでいる。

みなコソコソと話していたり嘲り笑っているものもいる。先ほど商人と話していた貴婦人もその一人だ。


『どけ!』『通せ!』


野次馬の民衆をかき分けて少年と商人の下へやってくる人たち。

二人組の衛兵がやってきた。

がたいのいい衛兵に、身長の小さな衛兵だ。


いくつか言葉を交わすと、商人は立ち上がって少年を解放した。

代わりに衛兵が少年の両腕をがっしりと捕まえる。

圧し掛かられたことから意識が朦朧としている少年を指さして商人は言う。


「今度うちの店に来てみろ!その細い手足をちょん切って野良犬の餌にしてやる!!」

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