第4.5話 バーベルでデッドリフト(2)

「まずは、フォームを練習するためにプレートをつけずにバーだけで行くぞ!」


そう言うと、フジカルは、バーの両端の下に台を置き、バーが地面から30cmほど浮く状態にした。

バーを地面にそのまま置いてしまうと、バーを手に持つために深く前に倒れ込む必要があるが、バーの高さを台で上げておけば無理なくバーを持つことができるためだ。


「じゃあ、まず最初に、バーベルの前に肩幅で立つ!」

「バーベルと身体の距離は、スネにバーベルが触れるぐらいだ!」

「そして、足の位置をそのままにして両手を下げてバーベルを持つ!」

「今回は、手のひらを自分の方に向ける方法でやろうか」


バーベルをどのように持つのかには、いくつかのパターンがある。両手の手の平を自分に向けるのか、それとも両手の甲を自分に向けるのか、はたまた片手だけ手のひらを自分に向けるのか。今回は、オーソドクスなパターンである、自分の方に手のひらを向けるパターンで行うことにした。


「バーベルを持つときに、背中や腰が丸まってしまわないように注意!」

「そして、背中や腰がまるまってしまわない状態を維持しながら、バーベルを持ち上げる!」

「バーベルを持ち上げるというよりも、足裏をしっかりと地面に向かって押して、結果として身体が持ち上がる感覚を持とう!」

「地面をしっかり押して、身体を縦にまっすぐにしていくことでバーを持ち上げる感じだ!」


地面を下に向かって押す感覚は大事だ。地面を下に押した反力で身体が上に起きるのだ。


「バーベルを持ち上げたら、今度はゆっくりと下げる!」

「まずは、これを6回ぐらい繰り返そうか」


「せっかくだから、3人で一緒にデッドリフトのフォームの練習だ!」


いきなり重たいウェイトでデッドリフトを行ってしまうと、重たいものを持ち上げることが目的になってしまい、フォームを意識することが難しくなってしまう。まず、最初にデッドリフトそのものに慣れていない場合には、軽い重さでフォームの練習を行っていくのがフジカルのやり方だ。


そして、三人でデッドリフトの動きを確認しながら何度か繰り返す。


次に、フジカルはバーにプレートを取り付け始めた。


「今回は初めてだから、少し軽めのプレートをつけよう」

「まずは無理をせずにフォームを確認しながらできる負荷でやっていこう!」


そして、プレートをつけて重さを増やしたバーベルで3人はデッドリフトを繰り返す。


プレートをつけてから、明らかにエマが苦しそうな表情をするようになってきた。バーだけでフォームを確認していたときのエマは、ホイホイとデッドリフトを行っていたが、プレートをつけて重くしてからは、デッドリフトで身体を上下させる度に顔を赤くしながら苦悶の表情を浮かべていた。


途中、フジカルが叫ぶ。


「ゆっくりと下げるときに、バーベルの重さを味わうのが大事だ!今回は3数えるぐらいのゆっくりさで行こうか!」


ゆっくり下げるという指示が出た後のエマの苦悶の表情は、さらに険しくなる。ゆっくりと下げるのは地獄の辛さだった。


「ゆっくりゆっくり、重みに感謝しながら、この負荷の味を楽しむ!」


楽しむという表現が信じられないエマだった。(私には、そういう趣味はない)、そう思うエマであった。


「速く走るために、噛み締めて、味わう!」


速く走りたい!という想いは強いエマだったので、苦しいながらもデッドリフトを続けた。


「下げるときに、ゆっくり重力への感謝を込めて、重さを味わい、重さを楽しむのだぁぁぁぁ!」


もう意味がわからない。自分は何をしているのだろう、そんなことを思うエマだった。


1セット目は6回、2セット目は5回、3セット目は3回と少しずつ回数を減らしたセットを行った。

このように、徐々に回数を減らしていくという方法もフジカルがよく使う手法だ。


デッドリフトを終えたエリカとエマは、その場に仰向けに大の字になって倒れていた。

やっと終わった。少しホッとする2人であった。


ただ、まだ今日のトレーニングは終わらない。小休止しながら次の種目の説明を開始するフジカル。


「次は、レッグカールをやるぞ!」


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参考文献

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[Bezerra2013]

Bezerra, E. S., Simão, R., Fleck, S. J., Paz, G., Maia, M., Costa, P. B., ... & Serrão, J. C. (2013). Electromyographic activity of lower body muscles during the deadlift and still-legged deadlift. J Exerc Physiol Online, 16(3), 30-9.

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