ぎっくり腰のドワーフ鍛治師

第5.1話 プロローグ:片刃包丁が欲しい!

重たいものを持ち上げるときに腰を痛める。さまざまな場所で耳にする話だ。

そして、腰を痛めないようにするための正しい姿勢が紹介されることがある。


しかし、床にべったり置かれている重たい物体を、いわゆる"正しい姿勢"と言われがちな方法で持ち上げるというのは、人によっては容易ではないことは、意外と知られていない。

人の身体は、個々人によって違っており、その個別性に応じて容易であることと困難であることが違うのだ。


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「のおおおおおおおおおーーーー!」フジカルが涙を滝のように流しながら叫んでいる。

白衣に白い帽子、片手に包丁を持っている。


「どうしたんですか?」とギルド受付嬢エリカが聞く。


「海鮮丼が食べたかったんだよ。海鮮丼!」

「米は田んぼを作って確保したから、次は魚で、海で釣ってきたわけ」

「いい感じの魚が釣れたから、刺身を作ろうとしたらここには両刃の包丁しかない!!!」

「両刃だけじゃダメなんだよ。魚を捌くには片刃の包丁も必要なんだよ!」

「魚の骨に沿って3枚におろすときとか、皮を剥ぐときとか、薄く切るには片刃の包丁なんだよ!」

「出刃包丁と刺身包丁が欲しいいいいいいいぃぃぃぃ!」


何を言っているのか全く理解できないと思いながら、料理用の刃物が欲しいと主張しているように思えたエリカは提案した。


「ギルドの中に鍛治部門があるので、そこで刃物を注文してみてはいかがでしょうか?


「おーけー、おーけー、それは素晴らしいぃぃぃぃぃ。レッツゴー!」


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エリカに連れられたフジカルは冒険者ギルドの鍛治部門に行く。

立派なあごひげのドワーフが椅子に座っている。

隣に、少し若そうなドワーフもいる。

座ってるのが鍛治部門長のギエルハルドだ。


「フジカルさんが料理に使う刃物について相談があるみたいなのですが。」


エリカが言うと、ギエルハルドは辛そうな顔をしながら、


「いまは無理。さっき、腰をやっちまった。ヒーラーを呼んでもらってるから、ちょっと待って」


「師匠、最近、腰をやっちゃうのおおいっすよねーーー」

「その度にヒーラー呼んで仕事がとまっちまうの、マジうけるんっすけど(笑」


どうも、ぎっくり腰を繰り返しているらしい。


「どういう状況で腰をやってしまったのか教えてもらいないか?」


「そこにおおきなインゴットがあるだろ。それを持ち上げようとしたらピキッときちまった」


そんな話をしていると出張ヒーラーが到着し、腰にヒールの魔法をかけて帰っていく。

腰の痛みが取れたギエルハルドの表情から険しさが消える。


この世界は、痛めてもヒーラーに治してもらえば良いので、怪我の長期療養やリハビリという概念が薄い。

怪我をした後のリスクが低くなっているため、結果として、同じような怪我を繰り返しては魔法で回復させているのかも知れない。

ただ、もし怪我を避けられるのであれば避けた方が良い。


フジカルが片刃包丁を無事に手に入れるためにも、鍛治師であるギエルハルドの腰も無事であって欲しい。

鍛治師が腰を痛めている時間が長いと、それだけ片刃包丁の完成も遅くなってしまう恐れがあるのだ。


「腰を痛めた持ち上げ方を見せてもらえないか?実際に持ち上げなくてもいいけど、どういう方法なのか見せて欲しい。」


フジカルが聞く。

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