第6.2話 速さは地面にかけた力の積分だ
ジャンプで飛び越えないと先に進めない箇所の下見を終えた一行は、ギルド地下訓練場に戻ってきた。
「これから、ジャンプ力を上げるためのトレーニングを行おうと思うが、その前に、これからやることの背景を説明する」
「何で、そういうトレーニングをするのかを理解したうえで、しっかりとやっていこう!」
「まず、最初に、今回のタスクを振り返ろう」
「川をジャンプして飛び越えて、反対側の崖の上に移りたいということだが、助走距離が限られていることや、助走を行う場所が若干登り坂になっていること、飛び移りたい側が飛ぶ側よりも少し高い、といった要素がある」
「さて、それを踏まえて、遠くへジャンプするというのは、物理的にどういうことかを考えよう」
(あ、これは、また、理解できない話が始まるアレだ)、とエリカは思った。
「まず大前提として、ジャンプした後に空中では加速ができない」
「さらに、ジャンプした後の重心は放物線を描く」
「この2点が大事だ」
「ジャンプ中に手足を動かすと、少しでも遠くに飛べるような印象があるかも知れないが、それによって変わるのは手足や身体のパーツの位置だけで、それによって重心が加速するわけではない」
「重心に着目すると、重心は放物線を描くんだ。手足を動かすと、身体に対して重心の位置は変わるかも知れないが、重心そのものは放物線に沿って移動するわけだ。」
「そして、ジャンプしているときの対空時間は、地面から離れる瞬間の加速に依存する。」
「ジャンプのときの鉛直方向への速度は、地面から離れて最高到達点までは重力加速度に応じて減速していき、最高到達点で速度が0になり、そこから地面の方向に向かって重力加速度に応じて加速していく」
「その時間が対空時間だ」
徐々に早口になっていく。
「そして、横方向への移動は、地面から最初に離れたときの速度に対して滞空時間を掛け算した値だ」
「そこからわかることは、遠くにジャンプするためには、長い対空時間と地面からの踏み切りを行った瞬間の水平方向への速度が大事だということだ」
「鉛直成分、および水平成分の、それぞれに対して十分な速度が求められるわけだ」
「水平成分の速度は、すなわち助走でのスピードだ」
「2016年の論文[Bridgett2016]では、助走のスピードが速ければ速いほど、遠くへジャンプすることにとって有利であることが確認されている」
「現場を見てきたが、今回は限られた距離しか助走ができない」
「では、速度をどのように出すかだが、出せる速度は、どれぐらいの力を地面にかけたのかによって変わる」
「ニュートン力学にある、ニュートンの質点に関する運動の法則の、第3法則、作用反作用の法則というものがある。
「それは、物体に対して力が加えられたときを"作用"とし、その作用に対して反対向きに同じ値の力、すなわち反作用が発生するという法則だ!」
「地面に対して身体が重力で引っ張られることによって発生する作用に対しても、反作用が発生するわけだ」
「地面に対して、大きな作用を発生させたとき、それに対する反作用も同時に発生するが、体重が変わらないのであれば、その力は速度を発生させることで同じ力の値として釣り合う」
「速さはそれまでの加速度の積分で、加速度は地面にかけた力によるものなので、速さは地面にかけた力の積分だ」
「ということで、地面に対して大きな作用を発生させることが、速い速度を生み出すわけだ!」
「地面に対して大きな力をかけるためには、筋力が大きな要素になってくる」
「大きな力を出せるだけの筋力がなければ、大きな力は出せない。そこで、大きな力を出す能力を効率良くあげる方法、すなわち、効率的なトレーニング内容とトレーニング量が大事になってくる。」
「ただし、ジャンプするときには地面に接地している時間は非常に短いので、その短い時間でどれだけ大きな力をかけられるのかが鍵となる」
「力があることと、それを短い時間で発揮できることは、それぞれ別の話なんだ」
説明が意味不明で宇宙猫状態のエリカが、ボソッとぼやいた。
「今日は、いつも以上に難しくて意味不明ですね。。。」
フジカルは、かまわず続けた。
「とにかく、力があることが大事なんだ。ただ、力があることと、それを短い時間で発揮できることは、それぞれ別の話なんだ」
「そこで、RFDを把握するという方法を使うわけだ!」
「RFDって何だ?」、パタヘネが質問する。
「RFDはRate of Force Developmentの略で、力の立ち上がり率、筋力発揮率と表現されたりもするぞ」
「瞬発的な筋力発揮の指標として使われている」
「ある時間で、力がどれだけ発揮されたのかを示しているんだ」
「このRFDの計測方法だが、このフォースプレートを使う。」
そう言ってフジカルはチート能力を使って地下訓練場の床に何やら装置を登場させた。
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参考文献
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[Bridgett2016]
Bridgett, L. A., Galloway, M., & Linthorne, N. P. (2016). The effect of run-up speed on long jump performance. In ISBS-Conference Proceedings Archive.
RFDに関しては、2020年に発表されたNSCAによる論文が日本語に翻訳されていて読みやすいのでお勧めです。
Taber, C., Bellon, C., Abbott, H., & Bingham, G. E. (2020). 筋パワーを最大化するための最大筋力と力の立ち上がり速度の役割. Strength & conditioning journal: 日本ストレングス & コンディショニング協会機関誌, 27(2), 42-48.
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