遠くへジャンプ!新人冒険者の薬草採取

第6.1話 プロローグ:薬草採取の通り道

どれだけの幅をジャンプできるのか?ときとして、それが非常に重要な意味を持つことがある。

そして、遠くへのジャンプが苦手な人がその課題を解決するためには、ときとして工夫が必要となる場合もある。


パタヘネ、後に勇者と呼ばれるものであるが、今はまだ誰も知らぬ新人冒険者だ。


パタヘネは冒険者として活動を開始して、まだ間もないが、森の奥にあるレアな薬草が多く生える地域に辿り着けずにいる。

薬草採取は冒険者の定番クエストのひとつであるが、今の時期は森の奥の特定の地域でしか採取できない種類がある。

そこへ至るまでは、川に隔たれた部分があり、橋もないので飛び越えるしかない。

しかし、飛び越えるべき幅をうまくジャンプできないと、下の川に落ちてしまう。

進みたい先は、崖から少しはみ出す形になっており、川から登って行くことは困難なので、定番の位置からジャンプするのがセオリーとなっている。

逆に言うと、そこをジャンプで飛び越えられる冒険者のみが達成できる種類のレア薬草採取クエストである。


新人冒険者のパタヘネは、ジャンプ力が足りず反対側に行けない。

今日も、飛距離が足りずに下の川に落ちてから帰ってきたようだ。


クエスト失敗の報告を受付嬢のエリカにすると、世話好きのエリカは提案した。


「このクエストで失敗続きですが、何か理由がありますか?」


「俺、ジャンプ力が足りないんだ」と事情を説明する。


「では、ジャンプ力を上げる訓練を受けてみませんか?フジカルさんは、ちょっと変わった人ですが、ジャンプ力を上げてくれると思いますよ」


パタヘネは、いまいち納得してない雰囲気であったが、他に選択肢がなさそうなので、しぶしぶ承諾した。


---


エリカは少し覚悟していた。これまで、地下訓練場に入ると、だいたいフジカルが何やら怪しいことをしている。心の覚悟が必要なのだ。


地下訓練場に入ると、白衣を着たフジカルが何かを覗き込んでいる。


「何をしているんですか?覗き込んでいる、その道具は何ですか?」と、いつも通りの質問をする。


「菌の同定をしているんだ!」

「覗き込んでいる、この道具は電子顕微鏡という道具で、小さなものを拡大して見ることができる優れものだ!」


「そして、何で菌の同定をしてるかとういうと、しょうゆと味噌を作る準備をしているんだ!」

「米と合う料理を作るには、醤油と味噌が欲しい。でも、それには麹菌が必要だ!」

「だから、まずは麹菌を探す必要があるんだ!」


「もしかしたら副産物で日本酒ができてしまうかも知れない。いずれにしても夢は拡がるぞ!」


また何か食べ物に関して追求しているらしいということ以外は何もわからなかったが、話を進めたいのでエリカは流した。


「はいはい。がんばってください。それよりも、新しいお客さんですよ」


流されたことで少しスネかけたフジカルは、


「しょうゆと味噌が完成したら、食べた瞬間に着ている服が弾け飛んだり、うーーーまーーぁぁあいいいぃぃぞおぉぉぉぉぉ!!!!!!!と叫びながら口から光線をださせてやるからな!」


と涙ながらに意味不明なことを訴えつつ、地下訓練場をトレーニング可能な環境に整えた。


---


いつも通り、エリカが事情をフジカルに説明する。


「じゃあ、まずは、その現場に行こうか!まずは達成すべきタスクを正確に把握したい!」


とフジカルが提案した。


「森に入るんですか?」とエリカが驚いた。


「神から色々なチートスキル盛り合わせパックをもらったし大丈夫じゃね?」とフジカルが呑気な答えが帰ってきた。


パタヘネも驚いていたが、フジカルが魔物との戦いでどれぐらい活躍できそうなのか少し興味があったので、そのまま聞いていた。


逆に、フジカルがエリカに対して、


「エリカも来るのか?」


と聞いたところ、


「こう見えて、私も元は冒険者ですから」

「準備をしてきます」


と言って準備をしに行き、少し経ってから鎧を身につけ、剣をもった姿で戻ってきた。


見慣れた受付嬢の姿ではなく、冒険者的な姿のエリカは新鮮な感じがした。いつも丁寧ながらも、どこか芯がありそうな雰囲気は、こういったバックグラウンドがあるからこそなのかも知れない。


充実した装備のエリカと比べて、フジカルは軽装だった。金属製の鈍器を持っている以外は何もない。シャツ姿だ。


そのような姿を見て心配したパタヘネはフジカルに聞いた。


「そんな装備で大丈夫か?」


それに対し、フジカルは、「大丈夫だ、問題ない」と答え、一向は出発した。


---


森の奥に向かった一行は、目的の箇所に向かって探索を進めていた。フジカル、エリカ、パタヘネに加えて、タヌキ姿のマミがフジカルの肩に乗っている。


道中、フジカルは金属製の鈍器を振り回しながらゴブリンなどのモンスターを殲滅していた。

「hahahahahaha」と笑いながら、「圧倒的じゃないか、我が軍は」と意味不明なことを口走っていたが、彼は軍隊ではない。

相変わらず謎である。


そうこうしているうちに、一行は目的地に到着した。


目的の箇所に到着したフジカルは、飛び越えるべき溝の手前まで歩き、立ち止まった。


「距離が測りたいなぁ」とつぶやいてから、


「マミ、巻き尺に変身してくれ!」


とマミに声をかけた。


「はいぃぃぃ。 拝承(はいしょう)なのです!」


そう叫ぶとマミは巻き尺に変身した。


巻き尺に変身したマミを持ったフジカルは、先端部分をエリカに渡した。


「ちょっと、この先端の部分を持っていて欲しい」


そう言って、溝から離れて助走を行える距離測った。


次に、今度は、そこから助走して溝とピョンと飛び越え、反対側に立って溝の長さを測った。


そして、反対側からジャンプして戻り、何かブツブツと言っている。


「助走を取るエリアは坂になっていて、反対側もこちら側よりも少し高さがあるようだ」


その姿を見て、パタヘネは驚愕した。


「この、おっさん、普通に飛び越えやがった。。。」


自分が、苦労している距離を平然とジャンプしてしまったのだ。あんな風に軽く飛び越えられるようになりたい、とパタヘネは思った。


最初はフジカルに対して半信半疑であったが、そのジャンプを見てから、フジカルを見る目が羨望の眼差しに変化したようだ。


「師匠と呼ばせてください!」


とパタヘネが言い始めた。後に勇者となるパタヘネの師匠にフジカルがなった瞬間であった。


パタヘネが飛び越えるべき溝を行ったり来たりしながら、その後も、フジカルはあれこれ調べていた。そのうちフジカルは戻って来た。


「目指すべきタスクは見えた!これから帰って飛び越えられるようにするためのトレーニングをするぞ!」


とエリカとパタヘネに伝え、3人は冒険者ギルドへと帰っていった。これから地下訓練場でのトレーニングが開始されるようだ。

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