第2.4話 1歩前と2歩前の減速が大事!(1)
サリーの走る姿を見て、これからどういうトレーニングを行うのかをフジカルが判断した。怪我のリスクが高いと思われる動作パターンをいくつか発見したのだ。
「まずは、土人形に向かって走っていって、最後の2歩でストップする練習をやろう。最初はゆっくり、徐々に自分の限界を探ってスピードをあげていこう!」
「慣れてきたら、土人形の目の前で止まるときの最後の一歩は右足にしよう!」
そう説明をすると、今度は、サリーに対して走る合図を出した。
「オーケー、GO!」
フジカルが元気よく叫ぶ。
フジカルは、練習内容の細かいところをアスリートに伝えすぎないことを気をつけていた。できるだけ、いま、この瞬間に注意すべきことに集中してもらいたいためだ。そのため、どういう意図で、その練習プログラムを行っているのかに関して、トレーニングを行っている相手には伝えないことも多かった。
この様子を見ていてエリカは疑問に思った。先ほど、怪我のリスクが高い動きと言っていたが、まっすぐ走って行って止まるのが、リスクの高い動きなのだろうか?
そもそも横への方向転換で怪我をしたのではなかったか?
土人形へと走っていき、目の前でストップする練習を繰り返すサリーを見ながら、エリカがフジカルに聞いた。
人差し指をアゴと頬の間ぐらいのところに軽く添えるような形を取りながらも、顔を少し傾けて不思議そうな表情をするのが少しあざとい。
「方向転換をするときに膝を痛めてしまうのに、何で土人形に真っすぐ走っていって止まるだけの練習をしているんですか?」
質問に対し、フジカルは少しニヤッと嬉しそうにしながら答えた。
「良い質問だねー。グッド・クエスチョン!」
親指を上に向けた、いわゆる"いいね"のジェスチャーをしている。
「方向転換を行うときに、最後の足、今回の場合は怪我をした左足側ばかりが着目されがちだけど、実は、その2歩前と1歩前がすごく大事なんだ。」
「そして、なぜ減速が大事か、だが、、、、」
と言ったあと、「論文召喚!」と叫び、手元に何かが書かれた紙の束があらわれた。神からゲットした地味なチートスキルである。
紙の束を両手に持って、嬉しそうにフジカルは早口で語る。
「この2019年の論文[DosSantos2019]と、2022年の論文[Harper2022]によると、最終的に方向転換を行う1歩前の足と、さらにその1歩前の足、すなわち、方向転換1歩前と2歩前の足の接地が凄く大事なんだ。」
(このペースで語り始めた内容は、基本的に理解できないヤツだ)
そう思いながらもエリカは聞いた。
そんなエリカの不安には全く気がついていないフジカルは、絶好調で専門的な表現満載の説明を続ける。
「この論文では、最終的に方向転換を行う際の足での設置をFFC(Final Foot Contact)、1歩前をPFC(Penultimate Foot Contact)、2歩前をAPFC(Ante-Penultimate Foot Contact)と表現していて、APFCおよびPFCで発生する地面反力は、FFCと比べて著しく多いことが紹介されている。」
何を言っているのか理解できないエリカは聞いた。
「2019年とか2022年って何ですか?あと、言っていることが難し過ぎて意味がわかりません。」
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参考文献
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[DosSantos2019]
Dos’Santos, T., Thomas, C., Comfort, P., & Jones, P. A. (2019). Role of the Penultimate Foot Contact During Change of Dir
ection: Implications on Performance and Risk of Injury. In Strength & Conditioning Journal (Vol. 41, Issue 1, pp. 87–
104). Ovid Technologies (Wolters Kluwer Health). https://doi.org/10.1519/ssc.0000000000000395
[Harper2022]
Harper, D. J., McBurnie, A. J., Santos, T. D., Eriksrud, O., Evans, M., Cohen, D. D., Rhodes, D., Carling, C., & Kiely, J
. (2022). Biomechanical and Neuromuscular Performance Requirements of Horizontal Deceleration: A Review with Implications for Random Intermittent Multi-Directional Sports. In Sports Medicine (Vol. 52, Issue 10, pp. 2321–2354). Springer Science and Business Media LLC. https://doi.org/10.1007/s40279-022-01693-0
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