第2.3話 怪我の原因を推測せよ!

同じ怪我を繰り返しているということは、何らかの原因が隠れている可能性が高いと推測できる。この世界では、回復魔法があるので、物理的に発生した怪我をその場で治せるのだろうが、怪我をしやすい動きのクセは回復魔法で修正されないのではないか、そんなことをフジカルは考えていた。


もし、そうであるならば、怪我のリスクが高い動作パターンがクセになっているのかどうかを探す必要が出てくる。それには、まずは実際の動きを見てみるのが手っ取り早い。


「よし!さっそく取り掛かろうか!」


とフジカルはサリーに声をかけた。


「じゃあ、まずは動きを見せてくれ!ちょっと準備するから待っててね!」


そう言いながら怪しくウィンクをしてみせた。中年細マッチョのウィンクはなかなか暑苦しい。


そして、気がつくと、何やら怪しげなポーズを取り始めた。

「フン!」と叫んで地面を叩くと、少し離れたところに人と同じぐらいの高さの土でできた人形が登場した。

これは土魔法だったのだろうか?


登場した土人形に向かって指を差しながらフジカルがサリーに対してリクエストする。


「じゃあ、まずは、あそこにある土人形に向かって走って、ギリギリのところで右側に向かって直角に方向転換してみてくれ。スピード感は本気の50%ぐらいで。」


(まずは、どういう動きをしているのか、怪我のリスクが高い動きをしていないか、走って方向転換するフリーアプリケーションをやってもらってチェックだな)

そう考えながらフジカルは、サリーが走って方向転換を行う姿を観察する。


サリーは指示に従い、土人形に向かって走ってからギリギリのところで90度の方向転換を何度か繰り返す。

50%ぐらいの速度感なので、どちらかというとダッシュというよりもジョグに近いような速度感で土人形に向かって走っている。


(抱えている課題のひとつとして、まず、走っているときの進行方向に対しての減速に課題があるな)

そのようにフジカルは感じた。


「もうちょっとスピードを上げてみようか」


フジカルはサリーに要求した。


先ほどよりも少し速いスピードで土人形に走って行ったサリーは、勢いをつけすぎてしまったみたいで、土人形の手前で多少前につんのめりながら、土人形に手をついてから横への方向転換を行った。

次に走ったときには、前回と比べて多少手前から足を小刻みにステップさせながら人形に近づいてから横へと方向転換を行っていた。


(やはり、減速に課題がありそうだな。スピード感を上げるとエラーが顕著になっている。)

そう思いながらフジカルは観察していた。


スピードを上げて土人形へと走って行ったものの、最後は土人形に手をついて身体を止めていたということは、土人形に向かってのダッシュからの減速が十分にできていないことを示している。


さらに、その次の回では、土人形を手で触れる事態にはなっていないものの、十分な減速が行えないので、それを誤魔化すために減速を開始するタイミングが以前よりも手前になってしまっている。


手前から減速を行うことで、長い距離をかけて少しずつ減速を行えるが、それでは魔物をかわすのが難しくなってしまう。

相手に向かって走りつつ、直前で急激な方向転換を行って相手をかわすどうさは"カッティング"と呼ばれているが、カッティングによって相手をかわすには、急激な減速が大事だ。


目の前で急激な速度変化が発生するからこそ、正面に向かって走って行った状態で方向転換して相手をかわせる。


走るサリーの姿を観察するフジカルを見ていたエリカが、少し顔を傾けるかわいい仕草で質問している。


「これは何をしているのですか?」


サリーの走る姿を見続け、エリカの方は向かずに、フジカルがエリカの質問に答える。


「同じ怪我を繰り返しているみたいだから、その原因になりそうなリスクの高い動作パターンを探すために方向転換をしてもらっているんだ」


続けてエリカが質問する。


「リスクの高い動作パターンって何ですか?」


エリカは、おそらく、フジカルが持っている知識と技術を学びたいのであろう。良いポイントで疑問を持ち、質問をしてくる。興味を持ち、疑問を感じることは、学ぶうえで大事なステップだとフジカルは考えている。


「いくつか代表的なパターンはあるけど、実際は人によってさまざまかなぁ。あと、複数の問題が絡み合ってる場合もある」

「サリーの動きで、いくつか気になるポイントがあるから、それをこれから見ていこう」


そうエリカに伝えると、何度か走ってから戻ってきたサリーに対してフジカルは声をかける。


「オーケー、オーケー!じゃあ、怪我を予防するための修行を始めようか!」

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