第35話 神鏡全開(スクープ・ミラーズ)①
これも、アンノウンのスーパーナチュラルなのか?
異状をとらえたのは、ジーナの視覚だけではなかった。手にしていたM16が、いつのまにか得体の知れない異物へと変貌していた。グニャリと変形するほど柔らかくなり、銃の表面には無数の眼球が浮かび上がったのだ。
一斉に瞬きをして、次の瞬間、ジーナを睨みつけてきた。ジーナは反射的に、M16を投げ捨てた。セフティをかける余裕はなかったが、幸い暴発はしなかった。
依然として周囲では眼球つきの銃弾が飛び回り、無数の眼球が浮かんだM16は蛇のように身をくねらせている。さらに、テナントビルの壁や階段にも
まさに、悪夢のような情景である。
何百何千の視線に貫かれた恐怖から、ジーナの足元は大きくゆらいだ。いや、そうではない。コンクリートが泥沼に変わったように、ズブズブと彼女の足を飲み込もうとしている。
これは、実際に起こっている現象なのか? それとも、知らぬ間に催眠術にかけられたのか?
ジーナの頭脳は素早く、窮地を逃れるアイデアを弾き出す。とにかく不気味な眼球の群れから距離をとることだ。アンノウンの力が及ばない場所へと移動する。そこに行けば、正常な空間があるはずだ。
まず、両手で手すりに捕まって、ぬかるみと化したコンクリートから両足を引っこ抜く。勢い余って壁に肩をぶつけた。眼球びっしりの壁面は柔らかそうに見えるのに、肌で感じたのはコンクリートの硬さだった。
やはり、これは幻影なのだ。巧妙な催眠術なのかもしれない。眼球がびっしり浮かんでいたとしても、実際には何も変わっていない。
無味乾燥な壁と床であり、ただの階段にすぎない。不気味さと恐怖感に襲われはしたが、ジーナは己を叱咤して、眼球を踏みしめた。足の裏に伝わってくる感触は、やはりコンクリートそのものである。
ジーナは転げ落ちるような勢いで、階段を駆け下りた。
眼球つき銃弾と眼球つきM16が追いかけてくることは、背後を振り返らなくても、容易に想像がつく。
眼球から距離をとる手段が一つある。それも極めてシンプルな方法だ。
非常ドアの前に来る度に、足を止めてノブを回す。4階と3階の非常ドアは施錠されていたが、2階のそれは運よく開いていた。
ジーナは素早くドアを開けると、身体を滑りこませた。眼球どもがやってくる前に、ドアを閉じて施錠する。
そこはカビ臭くて埃っぽい部屋だった。ラック棚が整然と並んでいて、その中に段ボールケースがびっしり詰め込まれている。どうやら、資料室のようだ。
スチール製のドアに眼球つき銃弾が激突しているのだろう。ガンガンと騒々しい音を立てているが、分厚いドアを貫くことはなさそうだ。これでどうにか、不気味な眼球どもからは逃げ切ることができたらしい。
ジーナはホッと胸をなでおろす。
だが、アンノウンの追尾は甘くなかった。部屋の奥の方でビシッという音が上がり、それは外から飛び込んできた。もちろん、眼球つき銃弾である。サッシ窓を突き破って部屋に侵入し、大型のハチのように天井付近を飛び回っている。
まもなくジーナに襲いかかってくることは想像に難くない。すり足で後ずさって、背後のスチールドアのノブを後ろ手でつかむ。ドアの方に振り向いた時、ジーナは驚愕した。
ドア一面に夥しい数の眼球が浮かび上がっていたのだ。すべての眼球が同時に瞬きをして、一斉にジーナの顔を見つめてきて、強烈な視線で全身を貫かれた。
密閉された部屋に、絶叫が響き渡った。
アンノウンの使ったスキルが催眠術だったなら、ジーナはまんまと術中にはまったことになる。資料室の壁も床も天井も、すっかり眼球だらけである。悪夢のように、何百何千の眼球が、すべて、ジーナを見つめているのだ。
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