第34話 異能美少女と女性襲撃者②
スマホが着信し、別動隊が所定の位置についた、と知らせてきた。準備はすべて整った。ミッション・スタートのタイミングは、ジーナに一任されている。
脈拍数と呼吸数に変化はない。ジーナの心は穏やかだった。右手の人差し指が、静かに引き金を絞る。轟音が静寂を破り、フルオートの銃弾が超音速で打ち出された。
その瞬間、ジーナはスコープ越しに、アンノウンと眼が合った気がした。彼女は左手をスッと顔の高さまで持ち上げて、掌をジーナに向けたのだ。
M16から放たれた全弾は、アンノウンの両脚に命中した、はずだった。なのに、ジーナには手応えが少しも感じられない。前回、バリアーに阻まれた時とも異なる。何か、奇妙な現象が目の前で展開していた。
ジーナはスコープで確認した。アンノウンは傷一つ受けていない。100ヤードの距離をものともせず、上目遣いでジーナを見つめていた。ソフトクリームを舐めている口元に浮かんでいるのは、間違いなく笑みである。
銃弾は一体どこに消えたのか? ジーナよりもアンノウンに近い別動隊が、その答えを教えてくれた。
「信じられません。銃弾が虫のように、空中を飛んでいるんです。そちらからも見えませんか? まるで、蜂のように自由自在に飛び回っている」
ジーナがスコープで探してみると、確かに、アンノウンの周囲を飛んでいるものが、いくつか見えた。これもアンノウンの能力なのか? ジーナは自分の目が信じられない。
次いで、別動隊の悲鳴が上がった。蜂のように飛び回っていた銃弾が空中で停止した後、突如方向を変えて、空き地の草むらに潜んでいた別動隊に襲いかかったのだ。
すべての銃弾は別動隊全員の両脚を高速で貫通していた。皮肉にも、ジーナの銃弾が彼らを行動不能にした形である。
アンノウンはベンチからゆっくりと立ち上がり、100ヤード先のジーナに微笑みかけてきた。そのまま左手を頭上に上げると、素早く前方に振り下ろす。次の瞬間、ジーナは背筋が凍る体験をすることになった。
視界の隅でキラッと光るものが見えた瞬間、それは右頬をかすめて後方に抜けていったのだ。
スーパーナチュラルによる狙撃だ、とジーナは察した。アンノウンの手に落ちた銃弾、寝返った銃弾が自由自在に動き回る。空中で制止したりカーブの軌道を描いたりしながら、予想もつかない角度からやってくる。
動くな、動いたら当たる。それは、ジーナの直感だった。銃弾を避けようとして逆に当たってしむことは、銃弾が飛び交う現場ではよくあることだ。
2発以上の銃弾が右上から、さらに3発以上の銃弾が左上から来て、ジーナの髪の毛を幾筋か引きちぎっていった。別動隊を襲った銃弾が5発以上。ジーナが放ったのは6発だ。数が合っていない。
まさか、別動隊を撃ち抜いた銃弾を再利用しているのか? この攻撃は際限なく続くのか?
どこだ、どこから来る? ジーナは立射の構えのまま、周囲の気配を探る。
その時、スコープの中で、アンノウンが妙な動きを見せた。左の人差し指を天に向けて、くるくる回している。合わせて、ジーナの目の前に、蜂のように飛び回るそれらが現れた。
目の錯覚ではない。手を伸ばせば届く場所に、6発の銃弾が飛び交っているのだ。
ジーナは焦っていた。銃声を聞きつけた付近住民が騒ぎ始める前に撤退しなければならない。バックアップのワゴン車は別動隊を収容できただろうか?
静かに後ずさろうとした時、ジーナは気がついた。6発の銃弾はすべて「目」をもっていた。豆粒ほどの大きさだが、それらはまつ毛や虹彩まで備えている。明らかに人間の「目」だった。
6つの視線にさらされて、ジーナの背筋は凍りついた。
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