第24話 怪物を追う女②


 ジーナのミッションは常に、サムを通じてもたらされる。「東洋の島国に生息する異形を一匹生け捕りにほしい」。その奇妙な依頼には、破格の報酬が約束されていた。


 異形というのは、モンスターを指すらしい。ゴジラのような怪物だろうか。母方の祖母の故郷である日本には前人未到のロストワールドがあり、恐竜の生き残りが生息しているとでもいうのだろうか。


 何とも不可解な依頼だった。依頼人も正体不明である。表向き、南極の地下資源調査を推進するピッグマン財団の幹部になっているが、おそらくダミーだとサムは言う。不可解と言うより、いかにも怪しげな依頼である。


 後に、サムの調査によって、真の依頼者の名が判明した。ビル・クライム。ダークサイドでは伝説上の人物である。


 政府とマフィアを完全に掌握している黒幕。影の重鎮じゅうちん。複数の名前と身分、社会保障番号、国籍をもち、さりげなく市民に溶け込んでいる。ビルの正体を知った者は必ず行方不明になるという都市伝説もあるほどだ。


 依頼を引き受けた時点で報酬の半額は受け取れるが、リスキーな仕事になることは明らかである。ビル・クライムがらみが判明した時点で、サムは断固反対していた。ジーナの心は決まっていた。母方の祖母が生まれた東洋の島国には一度行ってみたかったのだ。


 こうして日系三世のジーナは、初めて日本に上陸した。


 新宿でバックアップチームと合流し、これ以降、彼らのサポートを受けることになった。ジーナがリクエストした銃器やバイクなどは、すべて万端にそろえられていた。サムから聞かされていたことだが、おそらくミッションの予算は潤沢なのだろう。


 当初、ターゲットは奥多摩山中にいると聞かされていた。ジーナはいつでも現地に向かうつもりだったのだが、しばらく都内で待機するように求められた。監視チームの報告によると、ターゲットは昨晩から移動を開始したらしい。


 五人のメンバーが交替を繰り返しながら、ターゲットに張り付いている。青梅、福生ときて、立川、国分寺、武蔵野、途中でJR中央線に乗り込み、新宿までやってきたらしい。


 この時点で「東洋の島国に生息する異形」がゴジラ的な存在ではないことは理解できた。ちなみに、バックアップメンバーは皆、ターゲットを「アンノウン」と呼称していた。


 アンノウンは新宿駅で山手線に乗り替え、さらに西日暮里で千代田線に乗り換えた。その後、北千住駅で下車して、大通りに沿って荒川方面に向かっている。このあたりで、バイクに乗ったジーナが監視チームに合流。自分の目での姿を確認した。


 そう、アンノウンは女性だった。しかも、小柄で童顔であるため、ジーナの目にはハイスクールガールにしか見えない。だが、愛くるしい外見はまやかしにすぎない、というのがスポンサーの持論である。


 世界には少年少女のテロリストが大勢の人々を殺害した例もある。決して警戒を怠ることはできない。アンノウンはスーパーナチュラルの持ち主であり、文字通りのアンノウンなのだから。


 アンノウンは国道沿いの歩道を軽やかに歩いていた。周囲にはまったくの無警戒だった。ジーナが10メートルほど後ろを歩いているのだが、気づいた様子はないし、振り向きもしない。


 それどころか、通りすがりのコンビニで大量のお菓子を買い込み、ムシャムシャと咀嚼しながら歩いている。ちなみに、チュコレートバーとソフトクリームがお気に入りのようだ。


 アンノウンの住処である奥多摩山中では手に入らない貴重なスイーツなのかもしれない。ソフトクリームをペロペロなめて満面の笑顔を浮かべている姿は、本当にハイスクールガールのようだ。


 だが、彼女が間違いなく異形であり、まぎれもなくモンスターであることを、ジーナは数時間後に思い知らされることになる。










 

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