第34話 ショタニックカノンってなんなんですか!!??
「この鳴き声は!!」
扉を力任せに開いて部屋を飛び出し、左右に伸びる長い廊下を見わたす。ゲートへ続く道には異常はない。しかし、倉庫の方角からは黒い波が押し寄せて来ていた。
「おやおや、これはまた団体さんだね~」
1、2、3、4567……とにかく夥しい数のニクジキノタイリンが一直線にボクらを目指して突進してくる。絶望とは突然訪れるものだ。
「は、はやく逃げるわよ!」
セシルの切迫した声が聞こえたがそのままするっと通り抜けてしまう。
「コ、コハくん?」
ボクの頭では小1の思い出が間欠泉のように湧き出していた。あれは、ぼーっとアイスを咥えて自室でごろごろしていた退屈な夏休み。
『コハー! これ、一緒にやるわよー!!』と扉を蹴飛ばして入ってきたお姉ちゃんの手には銃を構える男女が描かれたパッケージが握られていた。生物兵器と戦う人気ホラーゲームで最初は楽しそうにお姉ちゃんがプレイしていた。しかし、当時中一だったお姉ちゃんでも怖すぎたのか、いつの間にかボクがプレイしているのを隣で見ているだけになっていた。ボクもほんとは怖かったし「そんなに嫌ならやめる?」と半ば祈るように聞いた。しかし……
『ク、クラスで流行ってる……から』とお姉ちゃんは首を振ってボクの腕にしがみついた。それで仕方なく進めていると、怪物の入った培養器が並ぶ実験室にたどり着く。やばそうな雰囲気にボクは初めこそびくびくしながら探索していた。でも徐々に慣れてくると隣で震えるお姉ちゃんをガン無視でガンガン調べまわった。そして……
『鍵……鍵よコハ! これでクリアじゃない!?』
ついに鍵を見つけて喜びを分かち合うボクたち。完全に油断して意気揚々と出口に向かって走り出した瞬間、培養器が割れて怪物が襲いかかってきた。家中に響く二人分の絶叫。ボクはコントローラーを放り投げてお姉ちゃんに抱き着き、お姉ちゃんもボクを抱きしめていた。
「コハくん!? しっかりして!!」
肩を揺さぶられて我に返る。
「お姉、ちゃん……?」
「へ?」
ぽかんと口を開けてお姉ちゃんがボクの顔を覗き込んでいる。でも驚いて瞬きしたら絵具みたいに溶けてアズさんの姿になった。
「あ、あれ? ごめんなさい……ボク」
「そんなに、似てたかい?」
「あ、いや……その」
困ったように笑うとアズさんはボクの手を強く握った。轟音が近づき緊迫した表情に一変する。
「もっとこうしていたいところだけど……」
「二人とも何してるのよ! さっさと走って!!」
懇願するようなセシルの張り詰めた声が合図となりボクたちは駆け出した。
◇◇◇◇
「にげろにげろにげろ~!!」
両手を大きく振って、果てしなく続く廊下を死に物狂いでかける。ドドドドと雷鳴のような足音が絶え間なく響き怪物の追跡を訴えていた。
『諦めちゃダメにゃん! もう少し頑張るにゃん! Never Give Up にゃん!!』
セシルの背中でフードから顔を出したノバが熱血コーチさながらの応援をしている。
「ひぃいい~!! アズ、もっと早く走りなさいよ!!」
「はあ、もうちょっと考えて喋りなよ……。ワタシたちが本気を出したらコハくんはどうするんだい?」
二人とも軽口を叩きあうくらいには平気そうだ。
「ボクのことは心配なさらず! スーツのおかげか全然疲れないんです!」
「そうなの!? すごいわね、『ゲート』までいけそう?」
「はい、余裕です!……でも」
「パスワードがわからないと袋の鼠だね」
アズさんは難しい顔で前方を睨んでいる。そうだ……この謎を解かないとシェルターからは出られない。考えろ考えろ考え――
「にゅわっ!?」
視界が沈み、ボクは顔面から床に激突した。鼻先にじんわりと痛みが広がり涙がにじむ。
「いったぁ…………ん?」
立ち上がろうと力をこめた手の下に何かがあることに気付いた。そのまま目の前に引き寄せてみる。
「ああ、鍵か……転んだ拍子に落とし……っ!?」
鍵穴に差し込む棒状の部分に何か文字が刻まれていることに気付いて息をのんだ。
「『BRANE‐WORLD』」
シャワー室で見たときはこんな言葉なかったはず。いつだ? まさか武器庫を開けたときに? ということは!?
「パスワードが分かったかもしれません!」
ボクは床に寝そべったまま意気揚々と顔を上げる。でも、振り返りボクを見ていた二人の顔は青ざめていて高揚感はすぐに消え去った。
「走って!! コハくん!!」
咄嗟に振り返る。怪物のつるがもう目のまえに迫っていた。
「だあああぁああ!!!!」
稲妻のようなスピードでセシルがボクの前に飛び出し、つるを斬り飛ばした。
「コハクは…………アタシが守る!!」
彼女は咆哮して剣を構えなおす。次々に繰り出されるニクジキたちの攻撃を凄まじいスピードでさばいている。だが、怪物の増援が続々とやって来る。さすがにこの数を一人で倒すのは無茶だ。
――ボクのせいだ……ボクが考え事なんかして転んだから。
「ボクも……戦う」
――立ち上がれ。剣を抜け。一人で耐えているセシルを助けろ。
「だめっ! コハクは逃げてっ!!」
「できるわけないだろっ!!」
セシルの前に躍り出てニクジキの攻撃を受け止める。衝撃で剣を落としそうになるのを堪えてなんとか弾き飛ばした。
「『
続けて爪、つる、尻尾、様々な角度から様々な攻撃が迫って来る。ボクにさばききれるのか……? いや――
「やってやる!!」
目玉がこぼれるぐらい見開き、剣を振りかぶる。
「『
そのとき、玲瓏な声が響き、不思議なことが起こった。アズさんがいつの間にか目の前にいて、怪物たちは動きを止めている。時間が止まったかのような現象にボクとセシルは言葉を失った。怪物は見えない壁に阻まれたように、がりがりと空中をひっかいている。
「も~、いつもワタシ抜きで盛り上がるんだからあ」
唇を尖らせたアズさんの横顔はとても不満気で、少し可笑しかった。状況に似つかわしくない能天気な振る舞いがボクの心に安らぎを与えてくれる。
「ふむ、試運転にはちょうどいいか…………『ショタニックカノン』展開」
アズさんが右腕を怪物に向けて伸ばすと、腕部装甲からアンカーが三本飛び出し床に突き刺さった。さらに装甲の外側が開くように弧を描いて変形していく。手を覆うように組み合わさり1メートルくらいの筒が形成された。巨大な砲身となった右腕に左手を添えるとアズさんは脚を大きく開き構える。
『ショタニウム充填率50%』
合成音成が流れて視線を移すと砲門が微かに光っていることに気付いた。その輝きが少しづつ強くなっていく。っていうかショタニウムってなに??
『充填率80%』
合成音声が再びチャージの進捗を告げるとアズさんは不敵に笑った。
「最終セーフティ……解除」
『……セーフティロック解除。ターゲット、ロック』
アズさんの目元に照準を定めるホログラムが浮かび上がる。
「この距離なら必要ないけど……雰囲気は大事だからね☆」
『ショタニウム充填率120%、臨界です』
「OK……全エネルギー解放!! 『
アズさんが叫んだ瞬間、砲門の光が一点に集束して弾けた。音を置き去りにして超極太のビームが怪物たちを包み込む。シェルターを揺さぶる振動と、空間を焼き切るちりちりという音がその威力を物語っていた。
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