第32話 異次元最強はスク水スーツのおねえさんでした。ボクには刺激が強すぎます!!

 銃、剣、斧、ドリル、他にも見たことない武器が壁にずらりと並ぶ物騒な部屋でボクは絶体絶命のピンチに立たされている。この部屋で一番危険な凶器に心臓を狙われているのだ。


「コーハくん♡ ど~お? 新しいスーツ似合ってる?」


「は、はわわわわ……」


 壁に取り付けられた巨大なモニターの前でアズさんが膝に手を乗せたポーズでウインクしている。脚を覆うものは何もなく、やわらかそうな太ももがむき出しになっていた。反射的に顔を覆ったが、誘惑に負けて指の隙間から目の前に広がる光景を見てしまう。


「んっ……ちょっときつい、かも」


 アズさんは息苦しそうにググっと体を反らせた。薄っぺらな白い生地が伸びて、ただでさえ存在感のある双丘が猛アピールしている。泡まみれの姿をまた思い出してしまった。


「あ、あのっ! 防御力とかっ大丈夫なんですか!!? 前よりぴっちりしてるし、その……隠せてる部分も少ないし」


 アズさんが気持ちよさそうに伸びをするとスラっとした両腕のすべてがあらわになる。新スーツには袖もなく、まるで学校の授業で女子が着る……スクール水着みたいだ。


「んん~っ……大丈夫、だよ。これ高性能なやつ……んっ……だから」


 アズさんが変な声を出すから顔に触れる指先が火傷するぐらい熱い。それでも目を離せずにいると、アズさんは伸ばした両腕をそのまま頭の後ろで組みストレッチを始めた。二の腕が引っ張られ、丸見えになった腋が目に入りドキッとする。普段は隠されてるだけの、ただのくぼみにボクは釘付けになってしまった。


「んん~? ドコ、見てるのかなあ……?? おねえちゃんに……オ・シ・エ・テ?♡?♡」


「あ……ぃや、ちが……ちがい、ます」


 ボクの目線がどこに向けられているのか気づき、アズさんはとろんと目を細めた。


「……えっち♡」 


 三日月のような目に見入られて、気を失いそうになった。ドクドクとすごい速さで心臓が跳ねている。


――クラスの女子が着てるのを見たときはこんな気持ちにはならなかったのに……。なんで? 大人の人が着てるから? わかんないよ…………アズさん、だから……?


「ね、下向いてないで……ちゃんと見て?」


 アズさんの手が包み込むようにほっぺに触れた。優しい力で顔を引っ張られて、覆っていた両手も引きはがされる。


「……っ!?」


 防御力ゼロになったボクは妖しい微笑みの直撃を受けた。すっごくきれいで息が出来なくなった。


「ん~? ど~したの?」


 アズさんの顔が迫る。ぷるぷるの唇がボクの鼻先をかすって耳に急接近する。 


「顔、真っ赤っかだね……♡ かわいい……♡」


 くすぐるような囁きに、わけがわからなくなった。ぞわぞわと気持ち悪くて、でもとっても気持ちいい感覚が全身に走る。頭のなかがトロトロになった。


「ウレシイ♡ 新しいワタシも……気に入ってくれたみたいだね♡」


 ゆっくりと声が遠ざかっていき、目の前には満面の笑みでアズさんが戻ってきた。


「あらら、なんて顔……刺激が強すぎたかな? ごめんね♡」


 強いってレベルじゃない。腰が抜けそうだった。


「ふふ、コハくんの強化スーツもカッコいいよ☆」


 そうだった、憧れのロボットアニメのパイロットスーツみたいなものを着ることができたんだけど、もうそれどころじゃない。


「ふぁ、ふぁい……」


 やっとの思いで返事をすると、アズさんはぴょんと跳ねるように両手でグッドサインをした。文字通り目と鼻の先で、腕で押し上げられたおっぱいがたゆんと揺れる。まずい、このままじゃほんとに頭がおかしくなる。


「せ、せしるはどう思う!!??」


 ボクは咄嗟に顔を反らして、部屋の隅に向かって話しかけた。座り込んでぼーっとノバを撫でていたセシルが、はっとして顔を上げる。


「え……あ、うん。似合ってると思うわよ!」


『ワンもそう思うにゃん♪』


 それだけ言ったきり、また顔を伏せてノバを撫で始めてしまった。シャワーを浴びてからなんだか様子がおかしい気がする。大丈夫かな……。


「ふふふ~ん☆ コハくんのいい反応が見れたよ、ごちそうさま♡」


 視線をアズさんに戻すと、満足げな顔でブーツのような追加装甲に手をかけていた。装着しようと脚を持ち上げるのだが、お尻とかいろいろ見えちゃっている。ボクは慌てて目を壁の武器に向けた。


「これもすごい機能がついてるんだよ~、早く試したいなあ~☆」


 アズさんの楽しそうな声が響く。よかった、興味がそれてくれたっぽい? ほっと息をついて壁にかかっていた短剣に手を伸ばす。このサイズならボクにも扱えるはずだ。それに、剣ならセシルも教えやすいはず。


「ね、ねえ! セシルは新しい装備とかほしくないの?」


 剣を腰に取り付けながら、努めて明るく話しかけた。しかし、返事はない。しょんぼりしていると、かなり遅れて小さな声が届いた。


「あたしのは勝手に直るから、いらない……」


 振り向くと、セシルは立ち上がって沈んだ表情でボクを見ていた。勝手に治る? 


「ああ! そういえば、結構激しく戦って鎧もボロボロになってたけど、いつの間にか綺麗になってた!! すごいね!!」


 思いついた端からわざとらしく元気いっぱいに話してみるが、セシルの表情は変わらない。なにか、なにか話題を……。


「あ、あとさ! そろそろ、そのパーカー返してほしいんだけど……結構よごれちゃってたと思うし、その……匂い、とか……恥ずかしいから」


 照れながら言って後悔した。


「……っっ!!」


 セシルは一瞬目を見開き、自分の腕をぎゅっと握りしめてうつむいてしまったのだ。 悲しそうにきゅっと結んだ口元が目に入り胸が苦しくなる。なにか、まずいこと言っちゃったかな……?


「セシル、ごめん……そんなつもりじゃ――」


 駆け寄ろうと手を伸ばした瞬間、アズさんの背後で巨大なモニターがぶぅんと音を立てた。ボクたち三人の視線は突如電源の入った画面に集中する。そこには――


『ぃよぉ~? 元気してたかぁ??』


 見覚えのあるカプセルに腰を下ろし、にやにやと下品な笑みを浮かべるレオードが映っていた。

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