第25話 おじさんシェルターからの脱出、スタートです。
「ノバ、次の分かれ道を右だよ」
先行するふわふわのお尻にアズさんが何回目かの指示を出す。猫は暗闇でも目がいいという理由でアズさんが警戒役に任命したのだ。
閉じ込められたという事実に動揺したボクは「自分の目で見た方がいいよね」と困った笑みを浮かべるアズさんに手を引かれるままドーム状の部屋から出た。
廊下の壁に走る金属製の管(動力パイプ?)に目を奪われていると、セシルが飛び出してきて「あたしも行く!」と反対の手を掴んできた。それから3人で手をつないでアリの巣のように広がるシェルターをずっと歩いている。
『にゃにゃにゃ~、にゃにゃにゃ~♪』
緩やかに傾斜のついた薄暗い廊下をノバが軽い足取りで下っていく。床には青白く光る細い溝がどこまでも伸びていた。
「まったく、どこまで続いてるのよこのシェルター。もう、地下2階くらいの深さまで来てるんじゃないの? ねえ、あんたの言う『ゲート』ってのはまだ着かないの? もうかなり歩いてると思うんだけど」
「そうだねえ、一時間くらい歩いたから……うん、もうすぐ着くはず」
「ほんとでしょうね~? コハクも疲れてきたんじゃない? おんぶしてあげよっか?」
「あ! また抜け駆けしようとしてるね!?」
ボクを挟んでセシルとアズさんが例のごとく火花を散らし始めたとき、それは姿を現した。
『にゃあ? 行き止まりにゃん』
「ん? ああ、違うよ。これは壁じゃなくて……扉さ」
眼前には3メートル近い高さの巨大な鉄の扉が立ちふさがっていた。
「これが、シェルターの出口、『ゲート』? 扉っていうかもう隔壁ね」
「大きいですね……それに見るからに頑丈そう」
近づいてみると扉の脇にはアルファベットだけを抜き出したキーボードのようなものがある。試しにAを押してみると、すぐ上の細長いモニターに『A』と表示された。
「ほんとだ、アズさんの言った通りロックがかかってるみたいですね」
「ん……んぐぐぐぐっ!?!!」
セシルが顔に血管を浮かべるほど力を込めて押しても扉はびくともしない。くたびれたのか、そのまま寄りかかって腰を下ろしてしまった。
「はあ! はあ……!! ぜんっぜんだめ!! ねえ、ここしか出口はないの?」
「いや、もうひとつ似たような扉があったけど、そっちもロックがかかっていたよ。ここから出るにはパスワードを見つけるしかない……まったく、レオードのやつ面倒な真似をしてくれたよ」
アズさんは鉄の門を憎らし気に見上げると、やれやれと首を振った。
「『生きて会えたら』ってこういうことだったのか……最初からここに閉じ込めるつもりだったんだ」
レオードのいやらしい笑い声を思い出してだんだん腹が立ってきた。
「でも食べ物もシャワーもあるんでしょ? なに? ここで楽しく暮らせって? ふざけてるわ!」
セシルが力任せに床を叩いて、ノバがびくっと飛び上がった。
「案外当たってるかもね。実際しばらくは快適な生活が送れるだろうけど……」
「ボクには、時間がない……」
この世界に来てアズさんから伝えられた一年というタイムリミット。それまでに最深部の次元間移動装置で元の世界に帰らないとボクは死んでしまう。こんなところで、のんびりしている暇はなかった。
「でも、丁度良かったよ」
振り返ると、アズさんはにやりと笑顔を浮かべていてボクは思わずぞっとした。
「ちょうどいい? 何を言ってるんですか……?」
「閉じ込められたのなら、この施設をたっぷりと利用してやらうってことだよ」
「え?」
アズさんは人差指を立ててくるくるとまわした。利用? ボクは首を傾げた。
「コハくんは強くなりたいって言ったけど、それはワタシもなんだ。悔しいけど、レオードと戦って今のワタシたちじゃ力不足なんだって思い知らされたよ」
「……そうね、三対一でぎりぎりだった。下を目指すなら、あたしたちは強くならないといけない」
顔をあげてアズさんを見るセシルの瞳は熱く燃えていた。
「その通り、でも悠長にしてる時間はない」
「そんなの知ってるわよ、だからこの扉をこじ開けようと――」
「つまり、ずるをしようとしたんだよね?」
セシルにかぶせるようにアズさんは得意げな顔で続けた。
「ふふふ、強くなるにも裏技があるんだ。とっておきのね」
「裏、技……?」
「装備を強力なものに変えるんだよ! あいつの武器庫から拝借してね☆」
なるほど、そういうことか。確かにレオードはすごい装備を持ってた――あの振動する変な義手とか――。ここにも何か残っているかもしれない。
「いいわね、閉じ込められたモトをとってやりましょ!」
「おじさんの装備が手に入ればかなり戦力になりますね。カレーが置いてあった倉庫? には他にいいものはなかったんですか?」
アズさんは顎に手を当てて少し眉間にしわを寄せたが、すぐにほほ笑んだ柔らかい表情になった。
「ノバの首輪しかなかったと思うけど、見落としがあるかもしれないね……一応見に行ってみようか!」
「はい、パスワードの手がかりもあるかもしれません!」
「よし、なんか希望が見えてきたわね!」
『にゃにゃ~!』
ボクたちは鉄の扉に背を向けて意気揚々と歩き始めた。しかし、このときのボクはまだ気づいていない。
この判断が、後にとんでもない事態に発展してしまうことを……
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