第159話 あちらからのコンタクト
ダンジョン見学は思っていたよりもずっと和やかに、そして滞りなく行われた。
暴れだすのではないかと思われたアルフレッド君も、ぶすったれた顔をしながらも、三人の先生方がどうやって
俺はと言うと、とっくに見慣れていたからあまり興味がなく、後ろの方を陣取ってダラダラとついて行っていた。
こういう時って何かトラブルが起こるものじゃん?
それを警戒して、殿下とゆかいな仲間たちの身を守るために参加したけど、はっきり言って拍子抜けだ。
ついでに俺の周りにはヒューズとマリヴェルとイレインが集まっている。
命の危機があると散々脅かされた生徒たちが、先生たちを見失わないよう、魔物に不意打ちをされないようびくびくしているおかげで、後ろにまで気が回らないらしい。
時折俺の指先に触れながら歩くマリヴェルはにっこにこである。
いつまでたっても子供だよなぁ、マリヴェルは。
よほど一緒に遊べなかった期間が寂しかったらしい、ということにしておく。
「楽しいですか?」
「うん……!」
あ、そー……。
まぁ、いいんだけどね、かわいらしいし。
ゆっくりと丸一日かけて2階までの探索。
間抜けな子が一人転んでひざを擦りむいたくらいで、他には何の怪我もなくダンジョン見学会は終了することになった。
ついてく必要なかったなぁ。
そうして帰り道。
今日もここの近くにある古い訓練場へ立ち寄ろうと、皆と別れて別方向へ進む。
「おい、待てよ」
わかってたよ、着いてきてたのは。
後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはアルフレッド君がたっていた。
この間の先生との立ち合いに文句でも言いに来たのかな?
「なんでしょうか?」
「お前、何で今日ずっと後ろにいたんだよ。ダンジョンに興味あるんじゃねぇの」
お?
なんか全然違う角度から攻めてきたな。
ずっと前方に集中してたように見えたのに、意外と俺のいる位置とかきにしていたんだ。
「前の方は混みあっていたので。よく後ろにいるのに気づきましたね」
「お前、強いだろ。俺と同じだと思ったけど違うのか?」
言葉足らずで何が言いたいかわからない。
あまりコミュニケーションは得意でないらしい。
「同じというのは?」
「だから、もっと強くなるためにダンジョンに潜って訓練したいんじゃないのか?」
「どうしてそう思ったんです?」
「レーガン先生に実力を見せつけたのはそのためじゃないのか?」
「……実力を見せることと、ダンジョンに入ること、何の関係があるんです?」
おやおやおや?
思ったより子供っぽいぞ、アルフレッド君。
聖女ユナちゃんとはだいぶタイプが違うようだ。
俺が質問で返すことを繰り返すせいで頭をがりがりとかきむしっているから、短気なことには違いなさそうだけど。
「だから! 特別に許可がもらえるかもしれないだろ!」
「なるほど……。しかし僕はレーガン先生相手にかなり卑怯な手を使いましたよ? あれで認めてもらおうって言うのも虫のいい話だと思いますが」
この際だからアルフレッド君の価値観とか人間性とかを確かめておくか。
幸い近くに聖女ユナちゃんはいないようだし。
あっちからコンタクトを取ってきてくれる機会なんて、これから先あるかどうかわからない。
適当な古ぼけたベンチに腰を下ろすと、アルフレッド君も少し離れて座った。
意外と付き合いがいいな。
「それでも俺よりはいい勝負をしてた。お前が俺より強いかどうかは別として、俺より相手を見る目はありそうだ」
「ものすごい形相で睨んでいたから、嫌われたかと思ってました」
俺が笑って答えると、アルフレッド君はむっとした表情をした。
「なんだよ、お前も俺のこと見てたのかよ。それならなんか言えよな」
うおっ、こいつ肩パンしてきた!
四大伯爵家の跡取り息子の俺にむかって肩パンしてきたぞ!
いや、そんなことで目くじら立てたりしないけどさ。
「なぁ、俺、どう見えた?」
まだまだ子供だから仕方ないけど、相変わらず言葉が足りないなぁ。
ま、大人な俺はそれをすべてくみ取って答えてあげようじゃないか。
「強かったですよ。作戦も悪くなかったですし、何より思い切りがいい。剣筋は荒いですけど、勢いと力強さがありました。この間の訓練場にいた中では、頭一つ抜けて強かったです」
事実イス君とやりあったら、10回やって10回アルフレッド君が勝つだろう。
俺は正直、最初の一件のせいで、アルフレッド君とユナ嬢のコンビにあまりいい印象を抱いていなかった。
そんな俺から見ても、アルフレッド君の動きは良かった。
粗削りながらも肉食獣が食い掛る様な、貴族の坊ちゃんでは出すことが難しそうな気迫があった。
思い出して頷きながら横を向くと、アルフレッド君が目をかっぴらいて俺のことを見つめていた。
なぁんか怖いんだよなぁ、顔が。
でも変なことも言ってないし、怒っていないはずだ。
黙って待っていると、アルフレッド君は目を逸らして口を開いた。
「……なぁ、お前名前なんて言うんだよ」
知らないで話しかけてきたのかよ。
「ルーサーですよ、アルフレッド君」
「じゃあルーサー。お前ももっと強くなりたいだろ?」
「ええ、まぁ」
確信を持って問いかけられると、嫌な予感がしてもノーと言いづらい。
「なぁ、今度ダンジョンいかないか?」
「……外のですよね?」
アルフレッド君は俺の質問に答えずに続けた。
「命懸けで戦わないと、中々強くならないからな。……ここで素振りしてたってちっとも強くなった気がしない。なぁ、ダンジョン、行くだろ?」
ああ、なんか入る方法が見当ついてるんだな。
その連れ合いとして、俺はお眼鏡にかなったってわけだ。
はっきり言って、悪くない気分だったけれど、ダンジョンに幾度も入ったことのある先輩として、言わなければいけないことがある。
「アルフレッド君。ダンジョンをよく知らないで入るのは良くありません。そんなに急がなくても、アルフレッド君くらいの実力があれば、来年くらいにはダンジョン探索も許可されると……」
なだめるようにそこまで行ったところで、アルフレッド君は立ち上がった。
ため息をついて首を振り、元来た方へと戻っていく。
「気が変わったら言えよ」
「アルフレッド君、妙なことはしないでください。死んだらそれで終わりですよ」
「うるさい、そんなこと知ってる! 俺は強くならなきゃいけないんだよ!」
バッドコミュニケーションだ、怒らせてしまった。
あー、相手の裏事情とかがわからないから、何が地雷か分かんないんだよなぁ。
学園にあるダンジョンは、管理されていて勝手に入ることが出来ない。
アルフレッド君がどんなに切望しようが、最終的にクルーブが許可しない限りは入ることが出来ないはずだ。
えー……、俺、これをクルーブにチクらないといけないの?
嫌だなぁ、そのポジション。
俺、いいとこのボンボンの、すごく悪い奴みたいじゃんか……。
立ち位置的にはそのものではあるんだけどさ。
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