第132話 子供心
ダンジョン学担当教師ことクルーブより、ピカピカの一年生たちへの通達が出た。
なんか夏前くらいまでに、筆記と魔法と剣の試験して、それに合格した上位数名をダンジョンにいれてくれるって話らしい。
令嬢たちはえー、そんなの別にー、ってテンションだったが、令息たちはめちゃくちゃ張り切っているのが後ろから見ていてもわかった。気持ちはわかるよ、腕試ししたいもんな、冒険したいもんな。
一部めっちゃだるそうにしてる割に、そわそわしてるやつとかもいたりして、性格がわかって面白い。
ちなみにルーサー君親衛隊(仮)たちは、俺にアイコンタクトを送って、任せてください、みたいな顔していた。
うん、無理しないでいいからね。怪我とかされても嫌だから。
最終的にはどっかでダンジョンを体験することになるんだろうけど、いち早く入れるとそれだけで話題になるしなー。
まぁ、授業に身が入るのはいいことである。
それからヒューズ。
俺は余裕だけどね、みたいな顔して調子乗ってると落ちるからな。
お前、俺たちと一緒に勉強してた頃はそれなりにできたはずなのに、最近の試験の成績悪いの知ってるからな。剣術もそこまで得意じゃないみたいだし。
多分あの皆殺し伯爵、この5年間でヒューズに叩き込んだの魔法だけなんだろうなぁ。
というか、魔法しかやらせてもらえなかったんだろうなぁ。
おかげで魔法さえよければそれでいい、みたいな思考になってる気がする。
怖いね、情操教育。
「ヒューズ、今日も僕は剣の訓練に行きますが、一緒に来ますか?」
「いやっ、俺は魔法の訓練に行くぜ?」
断る時の声裏返ってるんだよな。
確かに毎日魔法の訓練はしてるみたいだけど、最低限の自己防衛手段くらい持ってた方がいいと思うんだよなぁ。
貴族なんて狙われることもあるだろうし。
この世界の剣術って、体術含めて全般の訓練するから、しっかり身につけておくだけでいざってときの生存率が段違いになるはずだ。
「……行きますよ」
がしっと腕を掴んで歩き出す。
先輩たちがやってくるまでに、ちょっとこいつの剣の腕確認しておこう。
あまり酷かったら、嫌がろうが何だろうが、これから放課後訓練の時間を設けることに決めた。
ひょんなことでヒューズが死んだりしたら困るからな。
「いや、俺は……」
「ヒューズ。苦手なことをそのままにしておくのは良くありません」
「……はい」
昔からヒューズの言動があまりに目に余る時は注意をしてきた。
その効果が今も残っていたらしい。
真面目な顔をして注意したら素直に言うことを聞いてくれた。
この世界、日本よりはよっぽど死が近い。
街では結構強盗とかあるし、戦争もあれば貴族間の裏側の争いもある。
そういえば父上の秘書をしているデアンという人物がいるんだけど、何でも彼はセラーズ家の裏仕事を統括しているのだとか。
昔話された時は、子供だと思って適当なこと言ってらーって思ってたけど、いざ自分が剣術を修めてみれば、デアンの隙のないことがよくわかる。
どうやらあれは冗談ではなかったらしい。
そんなわけで、暗殺者とかも普通にいる世界である。
一度デアンの息子を紹介されたことがあるんだけど、きちんと挨拶するのは一人前になってからということになっている。
きっと将来はデアンのように、俺の近くにいることになるんだろうなぁ。
ヒューズを連れてやって来た訓練場にはまだ人がいない。
実は訓練場って複数あるらしく、ここはガタイのいいお兄様方が占領しているせいで、他があまりやってこない。なんか
「いや、俺も別にさぼってたわけじゃないんだぜ? でもさぁ、訓練する時間があまりなかったっていうか」
「さぼってなかったのはわかってますよ」
手のひらを見れば、なんとなくそれくらいのことはわかるのだ。
武器を持ってある程度振っていると、自然と指の根元当たりの皮膚が硬質化していく。
ただまぁ、これだけ嫌がるからには、きっと対人とかの実践訓練はしてこなかったんだろうなって。
構えは昔戯れに俺と一緒に訓練した時のままだ。
剣術自体は別に学園でもやることだから、予習してなくてもいいんだろうけどなぁ。割と名家の跡取りがそれは問題あるんじゃないのか?
「打ってきてください、どのくらいのものか確認します」
「わかった、いくぞ!」
振りかぶって振り下ろす、それだけの動作でやっぱりヒューズが対人戦をしてこなかったのがわかった。
動作が振り下ろすところで終わってしまうのだ。
戦いにおいては、動作を切れ目なく次につなげることができないと隙になる。
どうしても呼吸する部分があるから、一般的にはその瞬間で隙ができるんだけど、ヒューズの場合はただ一振りで隙だらけだ。
次の攻撃はまた振り上げて振り下ろす。
攻撃のパターンが一つしかないのだろう。その動作だけで見ればそれなりに洗練されてるんだけどなぁ。
一撃ですべてを決める示現流じゃないんだから、もうちょっと繋がりを意識できるようにしないとダメだ。
体力はあるらしく、数度攻撃を受け止めても息切れはしてない。
形さえちゃんと教えれば、付け焼刃なりに使えるようになりそうだ。
「わかりました、ちょっと一緒に
ついでに先輩たちがきたら適当に相手でもしてもらって、度胸もつけてもらうか。
あの人たち見た目怖いし丁度いいでしょ。
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