第130話 小さな派閥
この間呼び出された件で、後ろの方にいる奴らの大半を警戒する必要がないことが分かった。ちらちらと俺の方を見ていたのは、ただセラーズ家に恩があるから俺のことを気にしていただけだったというわけだ。
気負い過ぎだったな。
「まぁ、そんなわけなのであの人たちは気にしないで大丈夫です」
「ふーん、何かあったら俺が蹴散らしてやろうと思ってたのに」
こういうところ変わらないけど、昔と違って、いざ本番になった時も俺の後ろに隠れることは流石にないだろう。
皆殺し女伯爵より怖い13歳なんてこの世界にはきっと存在しない。
そういえば剣術の授業の時、ヒューズとは手合わせしなかったけど、こいつの実力はどうなんだろう?
「ヒューズは剣術の稽古もしてきたんですよね? 今度手合わせでもしますか?」
「……うん、まぁ、いや、どうしてもって言うなら」
「……機会があったらにしましょうか」
こいつ絶対に魔法の方の訓練を偏重してたな。
まぁ、戦場に出る時は間違いなく指揮官であるヒューズが、接近戦馬鹿強い必要はないんだけどさ。
今日の授業もいつもと変わらず、予習の範囲内。
本来退屈な授業のはずだが、結構な頻度で本に書かれていないような教師の見解が混ざるから結構面白い。
クルーブがダンジョン担当の教師であるように、各分野の一流が授業をしてくれているのだから、当然っちゃ当然だ。
今は歴史の授業が進められているが、王国成立以前のプロネウス家の詳細とかを楽しげに語り始めた教師に、少しだけひやひやする。元々はただの一領主だったとか。子供が多くて、同盟と政略結婚をうまく使ってとか、数百年前とはいえ、王家の醜聞ともとれるような話がしばらく続く。
まぁ殿下があまり気にせずに熱心に聞いているから、突然身分をはく奪されるようなことはないだろう。教師に向いている人と学者に向いている人は違うから、学園は教師を雇う時にちょっと考えたほうがいいかもしれない。
まぁ、俺はこの先生結構好きだけど。
俺の席からは教室全体を一望することが出来る。
殿下が前の真ん中、ローズがその隣。
マリヴェルとイレインは、すました顔してその派閥の端っこの方に座っている。
イレインはもう少し避けられるかと思っていたのだが、マリヴェルが貴族令嬢に人気があるため、休み時間とかになると周りに人が集まっている。
はじめのうちイレインは、そっとその輪から逃げ出そうとしていたのだが、今では諦めて静かに勉強をしているふりをしている。
逃げ出そうとすると、マリヴェルがそっとその裾を掴むのだ。
イレインはそれでも何度か逃げ出そうと試し、一度は成功したのだ。
まぁ、その後ろにマリヴェルがついてきてしまったので、結果的には成功と言えなかったかもしれないけど。
あいつ意外と優しいから、一人にして欲しいとかマリヴェルに言えないんだろうな。
多分マリヴェルからしても悪気はない。
元々交流が得意でないことによる寂しさや不安、それと、イレインが教室で受け入れられるように頑張ろうと思う気持ちなどがあの行動の原理だ。
まぁ、俺がイレインの立場でも断れる気がしない。
お友達がいっぱいできてよかったな、イレイン。
俺もこっそり友達が増えたよ。
「ルーサー、この後どうする?」
「いつも通り訓練場。ヒューズも行きます?」
「いや、俺は魔法訓練場に行く」
俺たちも毎日放課後までつるんでいるわけじゃない。
一度だけヒューズをあの放課後剣術倶楽部まで連れて行ったことがあるのだが、ガタイのいいお兄さんたちがいっぱいいて怖かったらしく、二度と誘いには乗ってくれなくなった。
怖いのか、と煽りたい気持ちがあるのだけれど、流石に大人げないから我慢している。キャラでもないしね。
脳筋の先輩たちが来るのはちょっと遅めだから、ヒューズが立ち去った後も俺は図書館から借りてきた本を開いて教室でのんびりしていた。
朝一番もそうだけど、人が少ない教室が俺は割と好きだ。
この世界に来る前は人と関わるのとか結構好きな方だったんだけど、しがらみが色々あるとちょっと面倒くさくなっちゃうんだよなぁ。
文字に目を落としていると、前の方から集団の気配が近づいてくるのがわかった。
教室から出ていくなら、前の扉から出ればいい話だ。
後ろの窓際付近に来るのなら、目的は俺しかいないだろう。
しおり紐を挟んでそっと本を閉じる。
ルドックス先生以前に書かれた魔法に関する本だが、内容は結構興味深かった。
先生も俺たちぐらいの年の頃は、この本を読んで育ったんじゃないかって思うと感慨深い。
「邪魔してすみません」
「いえ、丁度終わろうかと思っていました」
イレインと俺の外での会話は丁寧語だ。
傍から見たらこいつら仲が悪いんじゃないかと疑われること間違いなしだろう。
実際は仲がいいし、逆に親しさをだして、傍から恋愛のようにとらえられるのがだるいので、これぐらいでちょうどいい。
それにしてもなんだ?
マリヴェルとイレイン、それからその後ろに隠れるようにしている知らん令嬢たち。
好奇心半分、恐れ半分くらいの感じか?
視線を令嬢たちに移すとさりげなく目を逸らされた。
「何か御用でしょうか?」
「……みんなが、ルーサーと話してみたいって」
普段から言葉少ないマリヴェルが口を開くと、令嬢たちはわぁっと感嘆の声を上げた。
あ、わかった、こいつらマリヴェル王子ファンクラブだ。
女子寮の先輩たちの同級生版である。
止めろよイレイン。
俺まで巻き込むな。
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