第129話 派閥

 武器を飛ばしたり、寸止めしたりしながら、危なげなく何人かを撃退する。

 年上ばかり相手にしてきたから、いざ同い年を相手にするとあまり張り合いがない。

 というか、よくわからないけど、なんとなくこいつらが遠慮をしているように思える。もしかして対人戦とか慣れていないのか?

 訓練してる様子はあるし、そんなことないと思うけど……。


 ただこいつらがグルなことは確かなようで、戦っている間そいつをこっそりみんなで応援しているのがわかった。周りの観察ができるくらいには俺の余裕があるってことなんだけどな。


 10人も相手をすると流石にちょっと疲れてきたけど、だからといって剣筋がぶれるような半端な訓練はしていない。俺が父上やクルーブから習った大事なことの一つは、コンディションが悪い時でも力を発揮できるようにすることだ。

 これぐらいのことで同い年の子供に負けるようだと、父上に顔向けできない。


 油断なく構えていたところで最後に出てきたのは、俺よりも背が高く、随分と恰幅の良い少年だった。

 多分相撲取りとかの才能がある。

 この世界に相撲はないけど。


「頼む……!」


 囲っている連中のうち誰ともなく漏らした言葉が聞こえてきた。

 何人も相手をし続けてる俺の方が苦労してるはずなのに、まるで悪者のように思えてくるからやめてほしい。


 恰幅の良い少年の構えは、正直いって微妙だった。

 体でかいのにもったいないなぁ。

 今までのやつらの方がきちっと型にはまった構えをしていた気がする。


 囲みの一人がはじめの合図をすると、少年は剣で、というより体全体で俺に向かって突っ込んでくる。


 いやいや、それじゃあ串刺しになるだけだろ。

 分からせてやるつもりで剣を顔のあたりにひょいっと伸ばしてやる。


 おい、おいおいおい、こいつ目を閉じてるじゃん!

 マジで大けがするぞ!?


 慌てて剣を引くと、そいつは構わず俺の方へ突っ込んできた。

 身をかわして足をかけると、そいつはゴロンゴロン地面を転がって、やがてさかさまになってぴったり止まった。


 受け身とかとってないけど、大丈夫か……?

 ていうか、なんで挑んできたんだよこいつ。


「大丈夫ですか?」


 流石に心配になったので駆け寄ってみる。

 まずい怪我でもしてたら治癒魔法でもかけてやった方がいいかもな。


「だ、大丈夫、です」


 意気は上がってるし擦り傷ぐらいはありそうだが、意外と元気そうだ。

 ついている脂肪と丸い体が怪我から身を守ってくれたのかもしれない。


「せ、セラーズ、君、て、手紙のところに、今日は来てください」

「え?」

「お、お願いします」


 ああ、手紙の主、やっぱりこいつらだったんだ。

 いやぁ……、こいつらだったら負けるような気はしないけど、放課後って人気のないところってのがなぁ。


「待ってます、ので」


 そういってぱたんと大の字になった少年は、土まみれの顔で苦笑いをして見せた。

 うーん……、なんとなくだけど、こいつから悪意とか感じないんだよなぁ。

 見た目が平和そうに見えるせいだろうか。


 それとも動きがコミカルだからだろうか。


 まぁ、いい加減手紙も面倒になってきてたし、ちゃんと警戒だけして顔を出してみるとするか。




 放課後になった。

 いつの間にかルーサーが周りにいる不良たちを締めたらしい、みたいな噂が流れているけれど、これは絶対に俺のせいではない。

 挑まれたの相手してやっただけなのに不名誉な話だ。

 まぁ、こんなことがずっと続くんだろうって最初から分かってたから、腹が立ったり落ち込んだりとかしないけどさ。


 うわさ話に耳を傾けながら、気配を殺して校舎内を歩く。

 殿下の話が多めか。

 あとは俺の話に……、ああ、貴族じゃない方の教室では勇者聖女候補の二人がなんかやらかしてるっぽいな。


 あっち側にも耳が欲しいけど、今のところ交流が持ててないんだよなぁ。

 もうちょっと俺に対する噂とかが落ち着いたら話をしてみたいけど。

 

 領民とかがどんな暮らしをしていたとか、よく見にいってたけれど、じゃあ仲いい友達がいるかというとそんなことはない。

 セラーズ領だとセラーズ家って相当に人気が高くて、よっぽどお忍びで行かない限りすぐにかしこまられてしまうのだ。友達を作る余裕なんてあったものじゃない。


 王都にいる間にもうちょっと街の人と交流しておくべきだったかもな。


 校舎を離れてダンジョンがある場所へ向かう。

 基本的に危ないから立ち入りを禁じられてるし、校舎や施設からはちょっと離れた場所にあるから用もなく人が寄り付かない場所なのだ。

 いや、正しくはダンジョンから校舎や施設を離して作ったんだろうな。

 どうだっていいけど。


 身を隠しながらその場に近付くと、昼間にいたやつらが全員そろっているわけではなかった。

 最初に相手をしたちょっと賢そうな奴と、最後に相手をしたでかい奴の二人だ。

 二人でいるのに喋ることもなく、不安そうな顔をして佇んでいる。


 えーっと、隠れてやつとかもいなそうかな。

 二人とも長い武器の類は持ってなさそうだし……、顔出してもいいか。


 隠れたまま少しだけ道を戻って、普通に角から姿を現してやると、二人はほっとした様子で俺の方を向き頭を下げた。

 うーん、やっぱ果たし状、みたいな雰囲気じゃねぇなぁ。


「ルーサー様、お越しいただきありがとうございます」

「……学園ではそういう呼び方はしないはずでは?」


 貴族位が低いにしても、そこまでへりくだるようなことは基本的にない。

 なんだこいつらは。


「はい。しかし立場をはっきりさせておきたかったので。……昼間に相手をしていただいたものたちは皆、セラーズ家に恩のある家のものです。接触が遅れてしまい申し訳ございません」


 ……ん?

 ……あー、あー! なるほど、ミーシャの家みたいな感じか!

 セラーズ家が今まで世話してきた、大きくない貴族の家の子供。

 言うなればセラーズ伯爵派閥って奴だな。


 ふ、ふーん、あー、そりゃあいるよなぁ。

 これまで接触してこなかったから、てっきり全部いなくなったのかと思ってた。


「……気にしていません」


 さも知っていたような顔をして答えておこう。

 慌てたりしたらダサいし。


「なかなかお時間を頂けなかったので、お怒りかと思っていました」

「いえ、先輩方と剣の訓練を約束していて忙しかったので。今日のことで、よほど急ぎなのかと思い顔をだしに来ました」

「何でも騎士関係の先輩方と良いお付き合いをされていると伺っています。お邪魔して申し訳ありません」

「気にしないでください。それに、もっと普通に話していただいて構いませんから。交流を持っていることを公にすることは避けたいでしょう?」


 まー、あまり評判良くないからなー、うちも。

 だからって恩知らずって思われるのが嫌で接触してきた感じかな。


「は、え、んん。そうですね、ルーサー様……ルーサー君がそういうのならそうします」

「はい、そうしてください」

「何かあれば僕たちはいつでもルーサー君の味方になれますので、覚えておいてもらえると嬉しいです」

「分かりました。でもまぁ、あまり気を遣わなくてもいいですから。他の人たちと仲良くするのも大事ですから」

「そう……ですか?」


 俺はボッチでもあまり気にならないし。

 というかヒューズもいるしな。


 あんまり俺に遠慮するあまり、友達がうまく作れなくなっても困る。

 敵対派閥と仲良くしてたからって咎めたりしないから安心してほしい。

 ちょっと俺に情報流したりしてくれてもいいけど。


「仲のいい人は多い方が充実しますから」

「……ああ、なるほど! わかりました!」

「え、はい、そうですね、うん」


 なんかすごい納得してる……。

 ちょっと変な奴だなぁ。



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