第128話 果たし状?

 勇者候補は他にも何組か学園の中に潜り込んでいるらしい。

 話してはいけないという規則もないけれど、べらべら吹聴するものでもないようだ。本当に勇者になれたならばともかく、なれるかどうかまだ分からないのだ。

 俺だったらあまり他言しようとは思わないかもしれない。

 

 まぁ、選定した教会関係者から、こんな感じで活動してねってアドバイスや支援を受けるらしいから、他の候補たちは素直にそれを守っているのかもしれない。

 あのあほ二人を選んだ選定者は、今頃困ってるかもしれないな。


 勇者の話はとりあえずその辺にして、俺は今日も元気に学園で授業を受けている。

 教室、というか、講堂みたいなその部屋には、決まった席などないのだけれど、数週間もすればおのずと大体の場所は決まってくる。

 つまりまあ、この教室の左後ろはほぼ俺の指定席である。


 今朝も早くからやってきたところ、本などをを突っ込んでおけるスペースに、手紙のようなものが入っていることに気が付いた。

 教室には俺一人。

 ここ最近俺しか座っていないはずの机だから、あて名はなくとも俺宛である可能性は高い。色気のないどこでも買えそうな封筒だから、ラブレターってことはないだろうな。

 貰ったとしても美人局としか思えないけどさ。

 13歳にしてハニートラップはやめてほしい。


 えー、これ中身見たほうがいいのか?

 開けてからお前宛じゃないんだけどとか言われても困る。

 今ならだれもいないから、開いて中身確認して、パッと魔法で燃やしてしまえば最初からなかったことにできる。

 気になるしそうするか。

 もし中身にあて名が書いてあったら、そいつがいつも座ってる机の中に突っ込んどいてやろう。


 爪先に魔法を纏わせて、ひと息にぴっと開封をする。

 窓を開けて外へ上半身を乗り出しながら中身の確認。


 えーっと、何々?

 放課後にダンジョン準備室前で待ってる?

 あそこ人があまり寄り付かないんだよな。

 特に新しい年度が始まった今は、クルーブの準備が終わっていないのもあってまだどこの学年もダンジョン入れてないらしいし。

 つまり呼び出しを食らってるってことか。


 差出人がクルーブだったらこんな回りくどいことはしてこないだろうしなぁ。

 うん、よし、なかったことにしよう。


 窓の外に手を伸ばして、魔法で燃やしてポイッと捨てる。

 はい、証拠隠滅、俺は何も見ていません。


 ダンジョン準備室って、この間の武器が置いてある場所だ。

 鍵はクルーブが管理しているとはいえ、あの中にあるものを使えば容易く人を殺傷できる。

 合鍵でも持ってて、武器を取って待ち伏せでもされていたら面倒極まりない。

 弱い奴らなら軽くいなせるけど、強いのが混じってくると手加減もできないからな。



 それからさらに5日が経過した。

 手紙を燃やし捨てた日から俺は連日、お手紙を頂いているのだが、毎度同じ封筒が使われているので、俺は読まずに燃やしている。

 せめて差出人をかいてくれれば、俺の方からご挨拶に行ってやるんだが、毎度匿名で出されているから始末に負えない。


 ヤギのお手紙交換ではないのだから、いい加減学んでもらいたいものである。

 この封筒を使って匿名で出されている限り、俺は毎朝に世の中の二酸化炭素を増やす作業をするだけである。


 実はここ数日教室内を観察したことで、なんとなくこの手紙を出してくれている犯人に当たりが付きつつある。

 たまにちらちらと俺を観察しているのは、廊下側の後列に陣取っているちょっと武闘派っぽい少年たちだ。目つきが悪かったり、やんちゃそうな見た目をしていたりする。

 その割には授業自体は割と真面目に受けているようである。

 たまに頭から煙を出してそうなのもいるけど。


 ちなみに観察しているうちに気づいたことだが、奴らは手にタコができるくらいには剣の訓練をしているっぽい。

 貴族の坊ちゃまにしては感心だ。

 ま、俺の言うことじゃないけど。

 

 この年齢から剣ダコができるくらいに訓練してるのは、多分だけど大体下級貴族の人たちだ。

 一応この教室には貴族しかいないはずだけれど、それもピンキリだからなぁ。

 小さい領土のみを抱えている貴族は、領民と共に森の警備をしたり、ダンジョンに潜るようなこともあるそうだ。お坊ちゃまといえど、人手には違いないという考え方である。

 ミーシャの実家なんかも中々お金のない家で、その兄弟は鍬を握ることもあると話していた。


 目つきが悪かったりやんちゃそうに見えるのは、同年だと比べて厳しい訓練を積んできた証拠だろう。


 まぁ、それはさておき、本日午後は何と初めての野外授業である。

 魔法、ではなく訓練場にて武器を使っての訓練を行う予定となっていた。


 今の状況でそんなことをすればどうなるか、自明の理である。


 真面目に授業を進めて、いざ自由訓練の時間となったところで、俺は廊下組によってぐるりと遠巻きに包囲されていた。

 剣術の先生は、俺みたいな優秀な生徒を構っている暇はないらしく、あちこち駆け回りながら手元の危うい生徒のアドバイスをして回っている。刃のない武器とはいえむやみやたらに振り回すと怪我するからね、仕方ないね。


 そんなわけで、剣術に慣れてる組の俺や周りを囲っている奴らへの注目度は下がっているというわけだった。


「一手指南してもらってもいいですか?」


 囲んでいる奴らの中でも、割と細身だけど、ちょっと賢く見える奴が歩いてきて、俺にそんなことを聞いてきた。

 なんか思ったより礼儀正しいな、こいつ。


「構いませんよ。互いに怪我がないように気をつけましょう」

「もちろんです。では、よろしくお願いいたします」


 今日の訓練は剣をぶつけ合うのが基本だ。

 体を狙ってはいけないと言われているけれど、相手がその気だったらいくらでも間違えて切りつける隙はあるだろう。

 ま、ちょっと警戒しながら軽く揉んでやりますか。


 流石に同年代には剣術で負けるわけにはいかないからな。

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