第124話 しんぱいごと
ダンジョンから出て、借りていた剣を片付ける。
魔法で片づけることが圧倒的に多かったから、消耗はしていないはずだ。
「クルーブさん、できたら僕の剣をダンジョンだけでも使えるようにしてほしいんですけど」
「そこだよねー。ダンジョンに入るのに、自分の装備を使えないのは問題だし、提案してみる。ここにある武器も悪い物じゃなさそうだけどさぁ」
「そうですね」
実際使ってみて、重心が変だったりもしなかったし、すぐに壊れるような安物でもなかった。それでも使い続ければ知らないうちに消耗することもあるだろうし、できれば自分でメンテナンスできる武器を使いたい。
そこまで考えてから気づく。
「ああ、場合によってはメンテナンスの仕方とか知らない場合もありますか。だからここで一括整備してもらったものを使った方が、安全だったのかもしれません」
「武器の整備もできないようなのがダンジョンに入るのぉ?」
倉庫の壁に寄りかかったクルーブは肩をすくめて馬鹿にするように言った。
どうでもいいけど生徒の前でその態度とるのやめような。クルーブって見た目が若く見えるから多分煽り力がめちゃくちゃ高い。
「就任してからまだ生徒をダンジョンにいれてないんですか?」
「入れてないよ。覚悟がちゃんと決まったやつしか入れるつもりないし」
「覚悟って具体的にはなんです?」
「簡単なテストで満点とったやつ」
「……まぁ、そうですね」
命がかかっているのだ。
希望して、最低限ダンジョンの危険を理解してから入るのは当然だ。
この場合、ダンジョンの特性とか気を付けるべきことをテスト内容にするんだろうな。
「あ、週末暇だったら訪ねてくるといいよ。次はマップの確認しなくていいから、もっと深くまで潜れるっしょ」
「いいですよ。……そういえば、階層によって雰囲気違うって言ってましたけど、あまり変わりませんでしたね」
「ああ、うん。5階層から先は、全然違う感じになるってさ。先生と何人かがパーティ組んで潜ってたらしいけど、とりあえず資料があるのは7階層まで。5・6・7階は墳墓ね」
「その先は?」
「さぁ? 学園には資料が残ってないんだよね。先生の書庫全部漁ったらどこかに資料が隠れてるかも。目録とか題名には目を通したんだけど、開いてない本もあるからなぁ。今更セラーズ領に行って調べるのも大変だしさぁ」
そうなのだ。
いくつか魔法関係の資料は王都の屋敷に運んできたが、膨大な量の資料全ては持ってきていない。あれ全部持ってくるためには、馬車数台を何度も往復させないといけないんだ。
お陰様で今はセラーズ伯爵邸の大きな広間が、一つ丸々書庫になっている。
「……なんで
「浅い層を攻略し続けてるからじゃない? 一応全体の何割かは掃除し続けてるわけだし」
この理論で行くとダンジョンの生産能力が貯めこまれ過ぎない限り大丈夫って感じになるのか?
だとしたら危ういダンジョンとかは、光石とか資源とか、ガッツリ持って帰った方がいい気がする。
「ダンジョン専門の研究者とかっていないんですか?」
「さぁ? なんか『変人窟』でやってるとか聞いたことがあるよ」
「あー……、あそこかぁ……」
『王立研究所』の別名だ。
王家が認めた研究とかをするために予算が割かれ続けている場所だ。実際は何をしているかよくわからないのだけど、才能のある人を囲っていることは確からしい。
もともとは後継者ではない王族の人を囲うための場所だったため、あちらから目をつけられないと中々接触が難しい場所だ。ある意味プロネウス王国のアンタッチャブルな領域だ。
ウォーレン家が謀反を起こすまでは、イレインがそこの人に気に入られてよくお招きされていた。お姫様にジョブチェンジしてなければ、そのうちあそこに就職してたかもしれないな。
「ま、今まで大丈夫だったんだから、急に駄目になるってことないでしょ」
「やめてくださいよ、変なフラグ立てるの」
「フラグ?」
「なんでもないです」
ま、地道に中の探索勧めていくか。
墳墓型のダンジョンって、ボスっぽい奴倒すといい杖の素材とか手に入ったりするから結構楽しみなんだよな。
適当に喋りながら片付けや施錠を終え、クルーブと別れた頃には夕方になっていた。
すげぇ充実感のある一日だったなぁ。
俺、貴族の生活より
命懸けの探索をするようになってから、濃いめの化粧をした女の人見てもあんまり怖くなくなったしいいことづくめだ。
貴族界隈って当然ながらばっちりお化粧してる人が多いから、それが苦手ってなると結構問題があるんだよな。
包丁で刺してくるよりもやばい化け物ばっかりでるダンジョンに乾杯。
今の俺なら咄嗟に包丁もよけられただろうになぁ。
ま、今更だな。
そうだ、帰りに訓練場寄ってみるか。
結構疲れてるけど、こういう時に力だせるようにしとくのも大事だからな。
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