第123話 とりあえずここまで
迷宮型のダンジョンというのは、全体を見ると狭いものになっている。
その代わり敵との遭遇率が高いうえ、逃げ道も限られてくるから、難易度で言うと他のものとどっこいだ。
問題は深くなってくると、ダンジョン内にトラップが仕掛けられているということだ。これがまたいやらしくて、行くときは発動しないのに逃げ帰ろうとすると発動したりする。
耳を済ませたり、足先に神経を集中していればわかるものが多いのだけれど、戦闘中に気づかずに踏んだりすると一気に危機的状況に陥ることがある。だから俺も一応罠の勉強とかはしたんだけど、先頭を歩くことに特化した
ちなみにダンジョンは他に、洞窟型、墳墓型、城型、森型、神殿型などがあるらしいのだが、どれも暗く、周囲は薄ぼんやりとしか照らされていないとか。全部に入ったことがあるわけじゃないので、詳しいことは知識としてしか知らない。
間違いなくいえることは、ダンジョン内で出会うことのある人以外の存在は、皆一様に殺意が高いってことぐらいだ。
なんでそんなに人を殺したいんだか。
3階の階段を下りて中部屋で一休み。
その間にクルーブは4階のマップを広げて道順の確認をする。
「今まで4階で確認されたトラップは、感圧版の矢が飛び出るタイプね。毒が塗ってあるのとそうじゃないのがあるらしいけど、どっちにしろ避けるよーに」
「わかりました」
「出てくる魔物は、ミノタウロスの武装してるのと、コボルトの武装してるのと、ゴブリンの魔法使うやつ」
「倒すのは遠距離攻撃持ってるやつからですね」
「うん。同時に行けない場合は、魔法使いが優先で、次コボルト、最後にミノね」
おさらいのような話し合いをした後、マップを頭に叩き込み、広げていた荷物を全て片付ける。
「ルーサー、準備いい?」
「もちろん」
「じゃ、よろしくぅ」
今までと変わらず先頭は俺、後ろからクルーブだ。
扉を開けるとそこに待ち構えていたのは、急所を金属鎧で隠したミノタウロスだった。
手に持っている斧は一緒。
単純に攻撃が通りにくくなっているだけでも、戦う手段によっては随分苦労することになるだろう。
何せミノタウロスって図体がでかい分耐久力も高いから、近くで戦って一発で殺さないと相打ちでぶっ殺されかねない。魔物一体に人ひとりやられるのでは、とてもじゃないが割に合わない。
万が一に備えて俺は剣を構えつつ、突進してくるミノタウロスを待つ。
自分一人で戦うのならば、まずは目つぶし、場所を移動して不意を突く形で魔法か剣の一撃で片をつけたいところだ。下手に傷つけるとやたらめったら斧を振り回すから、却って危ないんだ。
「烈風刃」
クルーブの杖から魔法が放たれる。
それは涼やかな風としてミノタウロスの首元を撫でる。
突進の勢いは止まらず、一歩二歩。歩むたびに、首がずれていき、三歩目にはごとりと地面に頭が落ちた。地響きと共に胴体が倒れれば戦闘はそれで終わりだ。
俺たちは部屋の様子を確認して、すぐに次の部屋へと歩みを進めた。
モンスターのコボルトっていうと、なんかもこもこの可愛い奴を想像するんだけど、迷宮のコボルトって普通に怖い。
歯は威嚇でむき出しだし、武器を器用に扱う癖に、いざ近くまで行くと普通に噛みついてくる。言葉をしゃべるでもなく、そのくせ遠吠えで連携は取れるらしいから、退治に時間をかけると別の部屋から増援がやってくるのだ。
四方を囲まれるとマジでめんどくさい。
だからさっさと仕留めようというのが俺とクルーブの考えだ。
俺は4階では、ミノタウロスに出会わない限りは剣を納めて杖で魔法を使うことと、相手の遠距離攻撃をよけることに専念する。
意識しないと魔法を使えなかったり、詠唱が長く必要な魔法使いだと、前衛の盾役が必要になるのだが、動き回りながら詠唱を省略、あるいは省いて魔法を撃てる俺たちにとって、この階の敵はそれほど怖くない。
そうそう、普通の
このチーム構成の難点は、トラブルで人が欠けると、坂道を転がり落ちるようにチームが崩壊する点だ。
その点ソロやコンビは気楽だ。
元から自分ですべて何とかするくらいの気持ちでダンジョンにこもるから、状況の変化に強い。意思の統一を図るのにも手間はないし、すっごい宝物を見つけた時に仲間割れが起こる心配もあまりない。
儲けも良ければ、思い立ったらすぐに潜ることが出来る。
問題があるとすれば、実力がないとすぐ死ぬことだ。
致命的だね!
憧れのソロ冒険者としてダンジョンに潜る新人はチームを組んでいる新人と比べると、なんと致死率10倍だ。
チーム組んでる新人が1人死ぬ間に、ソロの新人は10人死ぬ。
新人の3割が一年以内に命を落とすこの業界だが、その大半は自信過剰で身の程をわきまえずに一人でダンジョンに入っていく愚か者ってわけである。
4階からは随分と迷宮自体が広くなったが、マップには間違いがなかったらしく、全てのエリアを踏破しても3時間程度しかかからなかった。
下へ降りる階段を見つけたクルーブは、一言「よし」と言って振り返った。
「今日は終わり。これ以上行くと泊まりになりそうだし、想定通りって感じだね」
「そうですね、まっすぐ戻れば1時間程度で地上に行けるでしょうし」
それに帰りはまだ魔物が湧いていない。
端から潰して回ったから、夜中の0時を回らないかぎり、新たな魔物は補充されないのだ。
「んじゃ帰ろっか。そういえばルーサー、友達出来た?」
「……できましたよ」
「なんか返事渋くない? 本当かなぁ?」
できたとも。
まぁ、同級生じゃなくて、寮監してる先輩だけどね。
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