第122話 一流の探索者
俺は近くにいるものから順に倒す。
クルーブは遠くにいるものから順に倒す。
それが二人でダンジョンに潜る時のルールだ。
軽い言動の多いクルーブだけど、ダンジョンの傾向や、気を付けるべきことなどは必ずちゃんと探ってきてくれる。それは元々スバリの仕事だったらしいけれど、俺と一緒に入るにあたってクルーブがこなすようになった。
スバリを失ってしばらくの間、クルーブは一人でダンジョンへ入ることを繰り返しながら、その技術を身に着けてきたらしい。
そういうところが、クルーブの尊敬できるところだ。
いつだって適当で気を抜いているように見えるのに、ちゃんと真剣にダンジョンと魔法、それから俺と向き合ってくれてる。ミーシャにももうちょっと真面目に向き合ったら、もっと尊敬してやるんだけどなぁ。
あの二人友達なんだか恋人なんだかよくわかんないんだよね。
ちなみに尊敬しているとか考えても、態度を変えるつもりはない。
多分その方が互いに居心地がいいから。
2階層には木の棒や弓矢を装備したゴブリンが主な敵だ。
あいつら襲ってくる前にぐぎゃぐぎゃ言うから索敵の必要がなくて気楽。
どっちかっていうと、戦っている間に天井から降ってきたりする蛇の魔物とかに気を付けるべきなんだよな。
ほら、また降ってきた。
空中にいる間に剣の平で叩いて、床に落ちた蛇の頭を踏み潰す。
斬っても動いて噛みつこうとしたりするから、めんどくさいんだよなぁ。
蛇やゴブリンは、互いに争うこともあるんだけど、人が入ってくると途端に俺たちを殺す方を優先してくる。どういう思考回路してるんだか知らないけど、とにかく人を殺したくて仕方ないらしい。
2階層は油断していい場所ではないけれど、だからといって緊張するほどの強敵はいなかった。
1階層より広いフロアを、こちらも2時間程度で攻略。
休みを挟むことなく3階層へ降りて探索していると、通路の向こう側から巨体が声を上げながら走ってくるのが見えた。
ミノタウロスだ。
迷宮型のダンジョンにはよく出てくる。
2m以上ある巨体に、腰蓑だけ身に着けた、牛の頭を持った魔物だ。
手には斧を持っており、その口からはよだれをまき散らしている。汚いから正直近寄りたくない。
とにかく耐久力が高く怪力なその魔物はそれなりに強い。
これを一人で倒せるかどうかで、
後ろからごにょごにょっと素早い詠唱が聞こえたので俺は待機。
俺を避けるように飛んでいった氷柱がミノタウロスの腕の付け根と足の付け根に突き刺さり、巨体がどうと倒れ込む。
そこから広がる冷気はミノタウロスの全身を包み、その生命活動を瞬く間に停止させた。
魔法訓練場で俺たちが使った魔法を実践で使うとこうなるんだよな。
マジで人相手に使うようなもんじゃない。
ただ練度が低い場合はまず氷柱がミノタウロスの肌に弾かれるから、誰だって効果を発揮させられるわけじゃないけどね。
クルーブの魔法はもし氷漬けにする能力が発揮しなかったとしても、十分にミノタウロスを絶命させるだけの威力がある。喉元辺りに刺してしばらく放置して逃げ回ってれば、勝手に死ぬからね。
クルーブは一流の
身内自慢じゃなくて、これは歴然とした事実ということで。
「うぅん、これだけ早く遭遇するってなると、まだ3体くらいはうろついてそうだなぁ。間引いてからじゃないと生徒を入れるのは危ないよねぇ?」
「どうでしょうね。生徒の実力見てからじゃないと何とも言えないんじゃないですか?」
「ミノタウロス倒せる人いるのぉ? どうかなぁ、上級生なら何とかなる人も一握りくらいはいそうだけど……。まず剣と魔法の腕見せてもらってから決めるかぁ」
呑気に会話しながらも足を止めずに進んでいく。
攻撃をはたき落とし、魔法を撃ち、どうしても近づいてきてしまった敵は切り伏せる。
あ、ちなみに俺も一人でミノタウロスを倒すことが出来る。
剣でも魔法でもだ。
しかしまぁ、今ミノタウロスを倒すなら魔法を使うなぁ。
接近戦でも技術的には圧倒している自信があるけど、体が小さいから一手ミスった時がちょっと怖い。何度か挑戦したことがあるけれど、それはあくまで訓練のつもりだった。
きちんと攻略するのであれば、遠距離から倒してしまうのが賢いやり方ってわけだ。
ダンジョンとか最初に聞いたときはまるでゲームみたいだと思ったけど、いざ入ってみるとめちゃくちゃシビアだ。
死にたくないのなら慎重に立ち回る必要がある。
ダンジョンに吸い込まれて消えるとはいえ、めちゃくちゃ生き物殺してる感覚があるし、しばらく籠って殺し続けていると、外に出た時変な感覚になる。
なんていうか、角曲がるときにちょっと警戒しちゃうみたいな感覚。
後ろから敵が来てないかなーとかね。
こんな感覚すら持たなくなって、自然と切り替えられるようになってこそ本当の一流なのかもなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます