第121話 ダンジョンの歩き方

 倉庫の中でも取り回しのよさそうなショートソードを選んで装備する。

 本当は宝玉が埋め込まれた自前のロングソードが欲しいけれど、贅沢は言ってられない。

 随時杖を収納しながら魔法と剣術をうまく組み合わせていけばいい。

 ダンジョンは場所によって難易度が違うけれど、一応俺はクルーブと一緒に深いダンジョンの6階まで潜ったことがある。

 学園のダンジョンは基本的に難度がそれほど高くないはずだから、命にかかわるような事態にはならないはずだ。多分だけど。


 通常、魔法使いだけがダンジョンにこもることってまずないのだけれど、クルーブは平気でやる。索敵から殲滅まで、距離を取りながら一人ですべてこなす自信があるからだ。

 魔法発動が誰よりも早く、そしてその魔法が正確であり、かつ魔力量に秀でているからこその無茶である。


 そうだとしても、本当ならば前衛が欲しい。

 僅かに時間を稼ぐだけでも、いざという時の生存率は格段に上がる。


 そして俺は、最低限前衛をこなす能力がある。

 クルーブとコンビを組むとき、足を引っ張る以上のことはできているんじゃないかなと俺は自負していた。

 まぁ……、スバリと比べられるとちょっと困るけどさ。


 石造りの丈夫な建物のカギを空けて中へ入ると、そこには扉が一つぽつねんと立ち尽くしていた。

 ダンジョンの入り口の形は様々だ。

 城門のような大きな扉になっているところもあれば、地下へ降りる階段の時もある。時には廃村のうちの一軒がダンジョンの入り口になってた、なんてこともあるのだ。


 中は薄暗く、空の見えない迷路のようになっているのが一般的だ。

 進んでいくと、時折常識の外れた空間に出たりもするのだが、その仕組みについて大したことはわかっていない。

 とりあえず異空間っぽいところに飛ばされているっぽいなって気はするけど。


 クルーブが扉に触れると、ゆっくりと手前に開いていく。

 そうして現れたのは真っ黒な空間だった。


「んじゃ、とりあえず今日はマッピングね」

「わかりました」


 俺たちはためらいなくその暗闇へ、一歩踏み入れる。


 中へ入ると、そこにはよく見かけるダンジョン空間が広がっていた。

 天井は高く数メートルあり、壁面にはなんだかわからない植物の蔦が這っている。


「迷宮系ですか」


 その装飾から、なんとなくダンジョンの傾向は想像できる。


「うん、そうなんだよねー。3階までは鼠とか蜘蛛とか蛇とかの魔物がまばらに出るって。 2階には武器を持つ系の弱い奴ら。3階にはそれに加えてミノタウロスがうろついてるってさ」

「普通ですね」

「そ、普通なんだよー」


 入ってすぐの部屋には魔物がでない。

 これは全てのダンジョンにおいて共通していることだ。

 例外は知らない。っていうか例外があったら、出待ちされていっぱい死んだりして話題になるだろうから、やっぱないんだと思う。


 十メートル四方くらいの安全な部屋を出ると、そこはもう迷宮だ。

 出た瞬間上から蛇が降ってこようが、通路の向こうから矢を撃たれようが知ったこっちゃないけどね。

 ただし、この部屋には入ってこない。


 もしこの部屋が魔物で溢れる時があるならば、それはきっと氾濫スタンピードの時だ。俺はまだ遭遇したことがない。


「僕が先に行きます」


 剣を構えて扉を押し開けると、その先には最初の部屋と同じくらいの空間が広がっており、さっそく左右に道が分かれていた。壁面と天井にまばらに光石が敷き詰められており、薄暗いなりに光源は十分に確保されている。

 

 ショートソードを軽く振るって、左壁面に張り付いていた蛇の頭を叩き潰す。

 こっからは出待ちもありだ。というか、時間を置いてはいると、大体出待ちしている魔物がいる。

 

 この魔物たちははぎ取って確保してしまえば持ち帰れるのだが、ダンジョンに放置しておくとやがて吸収されて消えてしまう。なので素材を集める必要があるのなら、放っておいて帰りに回収という横着はできない。


 今回はマッピング予定だから放置だけどね。

 腐って酷い臭いとかにならない分面倒くさくなくていい。


「どっちから行くんです?」

「右回りで。あ、僕が言った方に進めばいいから。マップおぼえたりするなよー、授業のカンニングだからなー」


 ほぼ外にいるのと変わらないくらいの毒蛇の魔物を倒したところで、クルーブは何の声もかけてこない。俺としても当然のことだから、褒めてもらおうとかは全然思ってないけど。


「クルーブさんにマッピングは大事だって教わったので無理です」

「みんなと来るときは知らないふりね!」

「はいはい」


 皆ときてもどうせヒューズとしか行動しないから、あんまり関係ないけどね。

 作るグループは2人組までにしてくれると助かる。


 丈夫な蜘蛛の巣は魔法で燃やし、大群で向かってくる猫くらいの鼠はクルーブが魔法で撃退。不意打ちが得意な蛇は大体俺が切り捨てる。

 ぐるりと1階層を探索し終えるのには、せいぜい2時間もかからなかった。

 広い空間の数は20ないくらい。


 迷宮系のダンジョンの次の階層へ行く手段は大体が階段だ。

 扉を開け、階段を下りる途中で広い部屋が一つ。

 ここもセーフティエリアね。

 

 さらに階段を下りて扉を開けると、そこからが第2階層になる。

 今のところはマップにも不備はないようなので楽ができている。


 さて、ここからはほんのちょっと知能がある様なのもでてくるから一層気を引き締めて臨まないとな。


 階段を下りて扉に手をかけてから、クルーブに許可を取る。


「開けますよ」

「よろしくー」


 扉を開けてすぐに閉じると、すとん、と音がして扉に何かが刺さった。

 どうせゴブリンの弓使いが矢を放ってきたのだろう。

 ぐぎゃぐぎゃと意味の分からない音を発している。

 

 さきに杖の先を出してから、顔をさっと覗かせて、弓を構えているゴブリンの頭に向けて礫弾を放つ。

 3匹いたので3匹分の悲鳴が上がった。

 ったく、この最初の不意打ちって本当にろくでもないよな。

 まぁ、ここが乗り切れない限り探索なんてできないから、いい感じの腕試しになってるんだろうけどさ。

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