第119話 妙な勢力の誕生
先輩達と手合わせをした結果だけれど、勝ったり負けたりだった。
全力で言い訳をさせてもらうと、こっちはまだまだ子供の体な上、疲れ切った後で、しかも魔法を使わないで戦ったのだから、勝率5割は大勝利だと胸を張らせてもらいたい。
「いや、なかなかやるじゃん」
「……ありがとうございます」
「拗ねた顔するなよ」
「拗ねてませんけど」
いたって普通の顔だ。
何なら笑顔も見せてやってるのに、先輩がぐりぐりと首が動くほどに頭を撫でまわしてくる。今日勝ったからって、明日も勝てるわけじゃねぇからな、覚えておけよ。
「次いつ手合わせしますか」
「おーこわ、もう二度としねぇよ。セラーズ家の天才坊ちゃまに勝ちこしたって自慢すんだから」
「お、いいなそれ」
「じゃ、俺もそうするわ」
「逃げるんですか?」
おっと、つい口が滑った。
でもずる過ぎる。たった一回勝っただけで勝ち逃げは完全に詐欺だ。
俺の挑発に楽しそうに笑っていた先輩たちは、ぷっと噴き出した。
「冗談だよ、また手合わせしてくれ。今度は元気な時にやるよ」
「そうですか」
「俺たちこの時間には大体訓練してるから、また暇なときにでも顔を出すといい」
「ありがとうございます、いい訓練になります」
「精々卒業までに勝ち越せるよう頑張るんだぞぉ」
お前顔憶えたからな。
一番俺のこと挑発してくるちょっと天然パーマが入った先輩の顔をしっかりと目に焼き付ける。卒業の前に、お願いですから最後にもう一戦お願いしますって言わせてやる。
実際この天パ先輩は、剣だけだとアウダス先輩に近い実力を持っていた。
何とかしてへこましてやる。
「いやしかし、アウダスの言う通りだったな」
「何がですか?」
アウダス先輩は一瞬振り返っただけで、訓練場の片づけを継続する。
「いやな、殿下の御入学と同じくらい、セラーズ家の坊ちゃまの入学も噂になってたわけよ。四大伯爵家の嫡男で天才児で殿下のお気に入り。よくない噂も聞いてたから、実際どんな奴なんだって話してたんだよ」
「……悪い趣味してますね」
まー仕方ない。
当然のことだし、それでも俺と接してみようと思ってくれたのだから、この人たちは噂よりも自分の目を信じる人たちだ。これからの付き合い次第だけど、信用してもいい要素を持っている。
「ま、学園は閉鎖された空間だからな。噂話も娯楽の一つなんだ。そう怒るなって」
「怒っていませんけど。それで、アウダス先輩がなんて?」
「剣を交えれば相手がどんな奴かなんて大体わかります。根も葉もないうわさ話が面白いですか? ってな。あれ絶対ちょっと怒ってたよなー」
「うん、あれは怒ってた」
「目つきが怖かったもんな」
アウダス先輩が片づけをする手を止めて、また振り返って先輩達を睨む。
学園では怖がられているはずのアウダス先輩の視線を受けても、先輩方は笑うだけだ。話が進まないので、俺から先を促す。
「それで、どうなんですか」
「下らねぇことするような奴が、13歳でこんなに強くなるわけねぇよ。色々大変だろうが、あんまりため込まずにたまにはここに来いよ」
ごつい体で、太い腕を横に広げて俺のことを歓迎してくれた先輩に、俺はちょっとだけ感動してしまって礼を言った。
俺、人の親切とかに弱いんだよな。
「……ありがとうございます」
「残念ながらセラーズ家の坊ちゃまの政争に役立つような身分のやつはいないけどな。俺たちみんな騎士になるくらいしか道のないスペアだからな」
貴族が人と付き合っていく上で、身分というのは見逃してはいけないファクターだ。どれだけ大きな派閥が作れるかとかって結構大事で、その大きさによって意見が通せたり通せなかったりする。
そういった意味では確かにこの先輩たちは役に立たないのかもしれない
多分一代限りの騎士爵の息子とか、スペアの三男四男だろうしな。
それは十分に理解している。
俺だって貴族教育を受けてきたわけだしな。
でもなぁ、俺個人の感覚はそれとは違うんだよなぁ。
身分とか関係ないですよ、って言いたい気分に駆られたけれど、それもなんだかちょっと違う。
少しだけ間をおいて、俺は精一杯不敵に見えそうな笑顔を作って、胸を逸らして先輩方にこう言った。
「安心してくださいよ。僕がえらくなったら、皆さんを取り立ててみせますから」
クッソ生意気だろう。
それで怒り出す人がいたって仕方ない。
それでも、ここまで先輩方が俺に言ってきた無礼を思えば、これくらいの軽口を返してもいいんじゃないか?
一応、身分とかじゃなくて、あなたたちとの付き合いを大事にしたいって気持ちを込めたつもりだけれど、上手く伝わるか?
一瞬場がしんと静まってから、天パ先輩が膝を叩いて笑った。
「言うじゃん! なぁ、アウダス、この坊ちゃん面白いな! よーし、乗った。卒業までに俺に勝ち越せたら、俺は大人になった時、ルーサーに取り立てられてやってもいいぜ!」
「おもしろいな、俺もそれでいいぞ」
「よし、じゃあ俺も!」
「お前はもう今日で負け越してるだろ」
がやがやと騒がしくなる訓練場。
もう暗くなる直前で、この場に見えるのは筋肉もりもりの大人間近の先輩ばかりだ。
俺は調子に乗って言う。
「安心してください。ちゃんと全員傘下にいれてくださいって頭下げさせてみせますから」
ごんっ、と音がして目に火花が散る。
「調子に乗り過ぎだ」
「叩かなくても分かりますよ……」
アウダス先輩から拳骨をもらった。
いいじゃん、みんな笑ってるし、ちょっとくらい調子に乗ったって……。
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