第111話 がたがたなお国の事情
今日は4人で集まっているが、珍しく女子寮前ではなく、学園内をうろつききながら話していた。
入学式まであと3日、いよいよ時期が迫ってきているのに、殿下の姿は未だ見られなかった。ただローズはようやく女子寮へ入ったらしい。
随分な重役出勤だ。もうほとんどの生徒は寮入りしているだろう。
「敵対するつもりは全くないけど、表向き仲良くすることも難しいと」
「……そうですか」
想定していなかったわけではないけれど、実際に聞かされるとちょっとがっくり来るな。
俺たちは学園に入るくらいには成長した。
学園は、大人に向けてのステップの一つだ。
ローズは旧貴族派の主流の家のお嬢様だ。
いくら気が強かろうが、殿下と仲良くしていようが、家の都合には表立って逆らえない。
出会った頃は全然かかわりたいとも思わなかったのに、いざこうなってみると寂しくなるのもなんだか皮肉な話だ。
「二人とは普通に話せたんです?」
「私でぎりぎりだと言ってました。セラーズ伯爵は、旧貴族派とかなり、その、相性が悪いですから。もはや他国となってしまった、ウォーレン家よりも扱いが難しいそうです」
「でしょうね」
父上が長くついていたのは国の財務大臣。
その評判が一部からあまりよくなかった理由の一つは、国を維持・発展するためのお金を、旧貴族派の者たちに吐き出させたことだ。
調べて分かったことだが、父上は何も無茶苦茶なことばかりを要求したわけではない。自分たちの都合だけを考えて運営していた貴族に、国を担う一員としての義務を果たさせたに過ぎなかった。
王国は多くの領主貴族が集まり、王へ忠誠を誓うことで国として成り立っている。
逆に王は、忠誠を誓った貴族たちを侵略者などの外部から守るべく働く義務がある。
道の整備をし、軍備を整え、各領地に食糧庫を設け有事に備える。
国に忠誠を誓う貴族として当然やるべきことだ。
旧貴族派の者たちは、領内での収支の関係などから、それが難しいとして国に金銭的な助力を求めることが多くあったのだとか。
いくら王領に肥沃な土地や鉱山が多く、商いも栄えているとはいえ、多くの貴族が結託し、寄生虫のようにその血肉である財産を食い尽くせば、力はあっという間に衰えていく。
そうして王領があえいでいるあいだ、旧貴族派の者たちは、国からの借用書の所在すら忘れて、自らの利益だけを考えた動きをし続けたのだ。
王家への忠誠を信じていた前王は、ウォーレン家やオートン家が凌いだ戦を見て、旧貴族派のそんな姿勢にようやく気付いたのだとか。
どちらの戦いも、両伯爵家の奮闘がなければ国は大きな痛手を受けていた。
その時旧貴族派がやったことがあまりに酷かった。のらりくらりと時間が過ぎるのを待って、戦が終わるころに形ばかりの兵隊を送りつけたのだ。そうして復興に苦しむ伯爵家に、やれ歓待がない、野蛮な伯爵家はとのたまったらしい。
何とかしたいと考えた前王だったが、しがらみでがんじがらめになって、自ら動くことが難しい。
その結果、国を生き残らせるため、次世代に望みを託して譲位をした。
それが現王である陛下であり、同世代の友人である父上や、ウォーレン王、のはずだった。
今はもうめちゃくちゃだけどな。
色々調べたけど、情報が錯綜しすぎてて、何がどう拗れてこんなことになってしまったんだか、俺には結局わからなかった。
旧貴族派の中には、あまりに酷い行いをしていたので、罰として身分を取り上げられた者や、領地を召し上げられたものもいる。言い訳の余地のないような内容だったから、流石の旧貴族派も表立って抗議はしなかったが、力がそがれるのが面白いはずがない。
まぁ、その結果、ウォーレン王の独立は、旧貴族派に父上を攻撃するいい口実になってしまった。多分だけど、ウォーレン王と陛下の間にもなんかわだかまりとか誤解があったんだろうな。
いや、本当に誤解かはしらねぇけどさ。
だから、ウォーレン王は案外、マジで結構な確率で、父上が自分の方に来てくれると信じてたんじゃないかなって思う。
俺、調べただけでも旧貴族派のことかなり嫌いになったもんね。
イレインの父親が嫌な奴だなーって思いは相変わらずあるし、許せない部分もあるんだけど、同時にちょっとだけ気持ちがわかってしまって心中複雑だ。
ああ、まぁ、だから、その旧貴族派と、セラーズ家の間にある溝はそれだけ深いってこと。
陛下は流石に頃合いを見て父上を近くに呼び戻したみたいだけど、今宮中のパワーバランスをとるのめちゃくちゃ難しいだろうな。下手したら旧貴族派が内乱とか起こしそう。
そんなことになったら王国はもう、他の国に攻め入られてなくなるだろうな。
その攻め入る候補の第一が、ウォーレン王国ってのがまた難しいところで……。
イレインに対して下手なことをすると、とんでもないことになるってのが、流石に旧貴族派も分かるんだろうな。
逆に言えば、セラーズ家はあれだけのことがあって、ウォーレン家についたほうが得だったにもかかわらず、未だに王家に忠誠を誓っている。今更裏切るわけがない。だったらそこを叩いて、王家の勢いをさらにそいでやろう、という糞しょうもない最悪な理由でセラーズ家はこんなことになっているような気がする。
この場合、父上の何が悪いかと言えば、その誠実さ、忠実さを敵対勢力にすら信頼されているところなのだろう。
つまり父上は悪くないってことなんだけどさ。
この話を正しく理解しているのって、多分旧貴族派の中の上層部だけで、他の多くはただ利用されているだけだ。セラーズ家の悪い噂とかを、よく考えもせずに本気で信じている家だってあるんだろうな。
ネガキャンされまくってるってわけだ。
「殿下は入学式当日にいらっしゃるそうです。ここからはローズからの伝言。『殿下に迷惑をかけないように距離を考えなさい。あなたなら分かるでしょ、ルーサー』だそうです」
「……まぁ、考えておきます」
この殿下のことしか考えてないけど、ちょっとだけ俺のことも認めてくれてる感じがまさにローズって感じだった。
あー、あいつもあんまり変わってなさそうで、ちょっと安心したわ。
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