第110話 変人テラスへようこそ

 あれから隔日くらいで女子寮を訪ねて話をしたり、訓練場へ行ったりしている。

 段々と敷地内に人が増えてくるにつれて、感じる視線の数も増えてきた。

 おそらく平民だと思われる人たちからは、特に何もないのだが、特に貴族用の寮付近にいる時が酷い。

 必ずしも敵対的な視線ではないんだけどね。

 人が増えてきて、むしろ遠巻きに怖がられるような避けられるような雰囲気ができ始めている。

 力のある伯爵家であり、最近は陛下の側近に復活もしている。

 下手な付き合い方をして、家に影響が及ぶことを恐れているのだろうと思う。というか、家からそうするように言われてる、が正しいのかな。


 来たばかりの頃やけに敵対的な奴らが多かったのは、彼らが実家に戻っておらず、情報を更新していなかったせいで、父上が王都に戻ってきた話とかを知らなかったのかもしれない。

 もしかしたらマッツォも今頃部屋で頭を抱えているかもしれないな。


 ところで、学園の入学式1週間前となっても殿下とローズが姿を現さない。

 殿下はともかく、ローズは情報収集とかのために、もうちょっと早く来ると思ってたんだけどなぁ。


 ちなみに今日は女子寮に顔を出さない日なので、俺は4階のテラスに出てヒューズとのんびりだべっている。相当数の先輩方も寮へ帰ってきていて、このテラスももっとたくさん人が来ていてもおかしくないはずなのに、なぜかそれほど人がいない。


 めちゃくちゃ筋トレしてる先輩とか、地べたに寝転がって寝ている先輩とか、日曜大工らしきなにかをしている先輩とか、ずっと勉強している先輩とか、屋上で退屈そうにしている皇子様とかの中に、俺とヒューズが混ざっているような形だ。

 正直に言おう。

 多分このテラス、変人系の人しかいない。

 さっき新入生らしき奴が一人ここへ足を踏み入れて、しばし固まって様子を見たあと、そのまま回れ右して帰っていった。


 お陰様でテラスには先輩が筋トレをする「フンッ、フンッ」という掛け声だけが、規則的に響いている。

 全員コミュ障か?

 いい点と言えば、全員が互いにあまり興味がなさそうなところだ。

 視線をあまり感じないのがいい。だから俺は暇なときはここで時間をつぶすことにしていた。


 剣術と魔法の組み合わせについての話をヒューズに語っていると、いつの間にか屋上から降りてきたエキゾチック末皇子こと、メフト先輩が勝手に椅子を引いて座って長い足を組んだ。


 メフト先輩に関しては俺もよく知らないし、ヒューズなんかもっと何も知らない。


 ぴったりと会話が止まってしまうのも仕方ないのないことだろう。


「あの、何かご用事ですか?」

「いや、退屈だから話を聞きに来ただけだな」

「剣と魔法の話をしていただけですが、興味あります?」

「特にないが……、他の連中のところへ行くよりは面白そうかな、と」


 もう一度周りを見回してみるが、我関せずの先輩方は、メフト先輩が屋上から降りてこようが俺達と会話しようが、その姿勢を崩すことはなかった。


「私が来たことで話を続けることが難しくなったというのなら……、この学園に関する疑問に、私が答えるという形をとってもいい」


 尊大な態度を崩さないメフト先輩だけれど、話しだけ聞いていると、俺たちと交流を持とうとしてくれているだけな気がしてきた。まぁ、それもまた退屈しのぎなのかもしれないけど。


「……こんなことを聞くと、失礼と思われるかもしれないのですが、このテラスを利用する方はあまりいらっしゃらないんですか?」


 教えてくれるってんならそれに甘えたほうがいい。

 この人がアウダス先輩の知り合いだというのははっきりとわかっているし、なんなら国内の知らない貴族よりも、俺にとってはよっぽど信が置ける。


「昔からその様だな。まずもって高位貴族のみが暮らす4階だ。下級性がテラスを利用しようとすることが滅多にない。では上級生がなぜ利用しないかと言えば、この国の貴族が秘密主義なところがあるからだろう。新陳代謝の少ない国というのはそういった傾向にある、と、私ではないどこかの誰かが言っていた」


 ずいぶんとしっかりした分析を披露した先輩は、その提唱者をどこぞの誰かに押し付けた。どう考えてもメフト先輩の意見だけれど、自分が言ったわけではないということにして、責任逃れをしているらしい。


「しかしテラス自体は日当たりもよく、のんびり過ごすには適している。周りのことを気にしない者たちが好き勝手なことをし始め、やがて変な奴ばかりが集まるようになった、というのがこのテラスが形成された経緯だ。いついたということは、君たちにもその資質があるのかもしれないね」

「俺はルーサーに連れてこられただけなのに……」


 変な奴扱いをされたことに不満があるのか、ヒューズが言い訳をこぼす。

 なんか勘違いしてそうだけど、俺が一緒にいるから注目集めてないだけで、お前も結構変な奴だからな。


「これからもありがたく利用させてもらいます。ところで、メフト先輩は、俺と関わってもいいんですが? なかなか評判の悪い問題児となるかもしれませんが」

「ここで話す分には問題ないだろうね。外では知らない顔をするかもしれないけれど」

「……わかりました、気を付けます」


 大っぴらに味方してやらないけど、暇つぶしになるから情報位くれてやるよってとこだろうか。

 数少ない敵にまわらなさそうな人のうちの一人だから、上手く関わりを持って行った方がいいんだろうなぁ。


「まあ、私としても……、むやみやたらと人と仲良くして、怖い兄上達に権力に興味ありと判断されても困るんだよ。君ぐらいがちょうどいい。……ばれる心配も少なければ、ばれても言い訳がきく。よろしくやろうじゃないか、ルーサー=セラーズに、ヒューズ=オートン」


 何かをたくらんでいるようにも見えるメフト先輩は、わざわざ俺たちの家名までのフルネームを呼んでうっすらとほほ笑んで見せた。

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