第101話 先行き不安
でもなぁ……、関わりたくねぇんだよなぁ、こういうタイプ。
顔憶えられるのとかはマジで嫌だ。
「ヒューズ、助けてあげてくれませんか?」
「ルーサーが行けばいいだろ」
「なぜかわからないけれど、あの同級生達とすごく相性が悪い予感がするんですよ。お願いします」
俺が頭を下げると、ヒューズは明らかに機嫌がよくなって「仕方ないな」と言って、意気揚々と出て行った。よし、頼むぞ身代わり1号!
「何してるんだ、お前ら」
「うわ、また面倒そうな子が来ちゃったなぁ」
余裕がないのかひょろなが先輩のボヤキがこちらまで聞こえてきた。
腕を組んでいるヒューズは後姿しか見えないが、絶対に機嫌を損ねてるぞ。
「誰だ!?」
「ヒューズ=オートン、新入生だ。散歩してたら騒ぎが聞こえたから見に来た」
ひょろなが先輩の表情が少しひきつった。
おそらくオートンという家名に聞き覚えがあったからだろう。
まともな感覚を持っている人なんだろうな。
「君たちにもいろいろ言い分はあるとおもうけどね、うん。ここは一度解散ってことにしないかい? お互い今あったことは忘れるってことで」
「そんな馬鹿な話があるか! ユナはお前にひどいことをされたんだろ、謝れ!」
勘弁してよと言わんばかりに空を見上げたひょろなが先輩。
本当にご愁傷様だ。
「……おい、お前新入生だろ?」
「だからなんだ」
「先輩に対する言葉遣いじゃないだろ、改めろよ」
聞き間違いか? なんかヒューズがめちゃくちゃ優等生みたいなこと言ってる。
ほら、ひょろなが先輩も驚きすぎて目を丸くしちゃってるじゃん。
ヒューズってば、素行の悪そうな顔つきしてるからなぁ。実際俺には初対面で勝負を仕掛けてきたわけだし、その印象は間違っていない。
その眼孔の鋭さは、確かにオートン女伯爵の血を感じさせるものなのだ。
「急に出て来てなんだ君は! 事情も知らないくせに」
「事情なら聞こえてた。この先輩が、勝手に男子寮に入り込もうとした女子を捕まえて注意したんだろ」
「……ユナ、そうなのか?」
先輩の声は届かないけどヒューズの声は届くらしい。
不思議だね。
んで、勘違い君とは違って、明らかに悪意がありそうな反応をしていたユナとかいう子、ヒューズが名乗った辺りから挙動不審なんだよな。
さてはオートン家のことを結構知ってるな。
俺だって怖いもん、オートン=皆殺し=ヴィクトリア伯爵。
実際会ってみてイメージが向上してなお怖い。
「……私にも、悪い部分はあったかも」
「いや、ユナ! そんなことで引いちゃだめだ、君は聖女なんだから!」
「いいのアルフ、助けてくれてありがとう。それにしてもよく私が困ってるって分かったわね」
「部屋で待ってたら、声が聞こえた気がして……、窓から飛び降りてきたんだ」
「さすが、勇者様ね」
いちゃいちゃすんなよ、腹立つな。
聖女と勇者ね。光臨教の関係者ってことが確定だな。
この間会った先輩はまだ話が通じそうだったけど、こいつらはマジで関わり合いになるだけ損する気がするわ。
間違いなく性格捻くれた少女と、猪突猛進周り見えない系勇者。
誰が何を考えてこんな奴らを聖女と勇者に認定したんだよ。世界滅ぼそうとしてるんじゃないだろうな。
勇者アルフ君が現れたほうから去っていった二人。
よし、戻って来い、ヒューズ。もう用は済んだからな。
「ルーサー、終わったぞ」
「ルーサー?」
なんで呼ぶんだよ。
「ああ、知り合いじゃないんですか? ルーサーに先輩のこと助けてくれって頼まれて出てきたんすよ、俺」
出て行かざるを得ない雰囲気を作られた。
まぁ……、勇者君たちがいる時よりはましか。
「……ヒューズが自主的に助けにいっただけです。恥ずかしいからって僕に手柄を押し付けないでください」
「俺はこの先輩知らないし助ける義理もないぞ」
「…………お困りのようでしたので。余計なお世話でしたね」
「いや……、ありがとう」
うわー、気まずい雰囲気。
ひょろなが先輩、セラーズ家のこともよくご存じってことね。
まぁ、もうすぐ文官として王宮に入ることを目標としてるんだったら、知らないはずがないか。
「しかし、その、僕は見た目の通り平民の出でね。勉強だけが取り柄で、君の役に立てるようなことは……うん、あまり」
あー、見返りを求めてやったと思われてるのか。
まぁ、しゃあないか、うん、しゃあない。ちょっと今、いや、結構グサッと来たけど、これも仕方のないことだ。
でも正直、表立って敵対されるよりダメージでかいかもしれない。
「……別に、たまたま通りかかったので、アウダス先輩の真似事をして見たかっただけです。恩に感じる必要もないし、忘れてくださって結構です」
「いや、しかし何もしないというのも……うーん」
もうほっといてほしいんだけど、怖いながらも律義な性格なんだろうな。
そういうまともな層からも、あまりよく思われてないんだな。
「ヒューズ、行きましょう」
「いいのか?」
「いいでしょう。ここに残ったって何があるわけではありませんから。では先輩、失礼いたします」
先輩は腕を少しだけ挙げて俺たちのことを引き留めようとしたけれど、声を発するところまでは至らず、そのまま力なく腕を下ろした。
うーん、猫かぶって暮らしていれば、学園にいる間にイメージの改善とか少しはできるかと思ってるんだけれど……、なかなか先行きが不安そうな感じだなぁ。
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